日本のシリコンバレーと称される筑波で科学技術を学び、日本政府から6億円にも及ぶ支援を得て、ハイテク分野の研究で日本と中国で成果を収めてきた中国人の科学技術者がいる。中国に帰国した彼は現在、中国共産党政府が、海外のハイレベルの人材を招聘(しょうへい)しょうするプログラム「千人計画」のリクルーターとなり、人材をスカウトしている。
中国共産党中央組織部が率いる、海外ハイレベル人材招致「千人計画」は2008年にスタートした。当局が公開する資料によると、研究職、技術者、大企業での知的財産、技術保護の能力など、海外のハイレベルの人材を中国に高待遇で招き入れ、そのスキルを中国へ「輸入」する人材計画だ。
人材の募集要項によると、55歳以下で国籍を問わず、著名研究機関の研究者や大手企業で上級管理職を経験した人物、また中国が求めるハイレベルイノベーション創業人材などを対象としている。
対象者はかなりの厚遇で迎えられる。中央財政からは対象人材に一人当たり100万元(約1400万円)の国家奨励金とする一括補助が受けられるほか、社会保障制度が適応され、配偶者の就業先や子女の就学も希望に応じて手配されるという。また、収入水準も雇用機関と協議できるとしている。
この中国共産党による「千人計画」は、米連邦捜査局(FBI)が2015年以降から捜査対象とみなしている。FBIによると、中国へリクルートされた個人は、海外で獲得した研究成果まで中国に渡すため、情報や研究財産の盗用など米国法に基づいた違法性があると指摘している。
米国議会の国家情報委員会(NIC)もまた、国家安全保障に対する長期的な脅威であるとして「千人計画」への警告を出している。千人計画公式サイトによると、2014年までに、海外から4180人の専門的スキルを持つ人材を中国に招き入れたという。
2018年6月、米政府組織の貿易・製造政策局は中国共産党による米国に対する知財・ハイテク分野技術の侵害と脅威についてレポートを発表した。レポートでは、中国が表だって技術盗用する手法として、在米学者のリクルートとともに、知財の移譲も求められる「千人計画」が名指された。
参考:中国の経済的侵略 世界の技術と知財を脅かす=米レポート
この「千人計画」は、2049年までに世界の製造大国の地位を固める「中国製造2025」ともリンクする。中国製造2025は、人工知能(AI)、航空宇宙、仮想現実(VR)、高速鉄道、新エネルギー自動車産業などの分野の重点的な発展計画。該当分野の人材育成も盛り込まれている。
日本に10数年間滞在し、公的研究機関に勤めていた西安出身の中国人研究者も、この「千人計画」で海外人材のリクルーターとなっている。同研究者は90年代に筑波大学に留学して物理工学博士号を取得した。1999年、国立通信研究所(CRL)に勤務し、2005年7月には筑波にハイテク企業を設立した。「千人計画」公式サイトによると、同社は中国人で初めてのハイテク産業を取り扱う企業だという。
この研究者は、同社の創業からわずか一年足らずで後続人に引き継ぎ、地元・西安でハイテク技術企業を創業。中国の航空、宇宙、高速鉄道、原子力発電、石油化学、国防などの中国のハイエンド産業にもかかわる技術を開発し、国内外で特許を取得した。2010年3月、同研究者は「千人計画」の人材採掘メンバーに選出された。千人計画公式サイトによると、この研究者を「10数年の海外での功績を高く評価」したという。
(佐渡道世)
(2019年1月30日、掲載内容を修正しました)
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