ポスト金正日、「垂簾の政」になるのか 専門家、一連の問題に見解

2011/12/22
更新: 2011/12/22

【大紀元日本12月22日】北朝鮮の金総書記の死去を受けて、後継者となる三男の正恩氏の政権受け継ぎについて、北朝鮮問題の専門家は、支持者による裏での政権の舵取り、つまり「垂簾の政」になると指摘している。また、中朝関係、朝鮮半島の情勢への影響、北朝鮮の核開発六カ国協議の行方などの問題について、専門家らもそれぞれの見解を示した。さらに、死亡を公表するまでの約50時間の空白で、金正恩氏はすでに内部粛清を行ったのではないかとの見解もある。

「垂簾の政」になるか

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は中国の名門・復旦大学韓国北朝鮮研究センターの副主任の蔡健教授の見解を伝えた。「まだ20代の金正恩氏は、後継者に選任されてから実際の政権継承までの期間が非常に短いため、上手く舵取りができるか定かではない」という。

政権の座にしっかり就かせるため、当分の間、政策決定は、金正恩氏を囲む支持者たちが行うとの見方が強い。最も影響力を発揮するのは金正日総書記の妹婿で、今年65歳の張成澤氏だとされている。

ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)は朝鮮問題の専門家の見解を引用。厳しい政治闘争を生き抜いてきた経験豊富な張成澤氏は、かつて金正日・総書記に金一族の統治を60年間以上守ると誓い、総書記の手厚い信頼を得ている。政権後継者として金正恩氏を推薦した張本人でもある。

張成澤氏は行政部のトップで公安業務を握っており、国防委員会の副委員長として国防政策にも関わっているため、職権範囲は非常に広い。

RFIは、「一部の専門家の見方では、勢力を強めている張成澤氏が素直に金正恩氏に権力を渡すのか、または金正恩氏の裏の舵取り人になるのか、皆、不確定な要素だ」と報じた。

そのことについて、AFP通信は多数の専門家の認識として、張成澤氏の政権強奪の可能性を否定した。その理由として挙げたのは、北朝鮮軍の力は非常に強く、軍がアラブ国家のような政変を起こす可能性が非常に低いこと。ロイター通信も21日、関係筋の話として、軍部は正恩氏に忠誠を誓ったとして、反乱の可能性は極めて低いと報じた。

専門家:中朝関係は引き続き安定する

金総書記の死去を受けて、胡錦濤・国家主席や温家宝・首相を含む最高指導部の常務委員9人全員が、20日と21日の二日間で北朝鮮大使館を弔問した。中国外交部の劉為民・報道官は定例記者会見で、金正恩氏の訪中を歓迎するかどうかのコメントを避けたが、後に補足説明を行い、中朝両国の最高指導部は従来から往来しているとし、「双方に適するタイミングで、北朝鮮の指導者の訪中を歓迎する」と述べた。

それらの動きについて、RFIは、中国政府は北朝鮮との関係の安定化を図っていると評し、次のように報じた。「胡錦濤主席による北朝鮮大使館の弔問は、金正恩氏への支持を示し、氏が率いる北朝鮮政権との友好関係をアピールすることが目的だ。胡主席のこの行動は中国の最高指導者として非常に意味深長。中国はこの貧しい隣国への支持をさらに強化すると専門家は見解する。主な目的は中国国内の情勢不安をもたらしかねない北朝鮮の権力闘争を避けるためだ」と報じた。

金総書記の死亡が公表されてから、中国のウェブサイトでは、指導部の対応とは対照的に、独裁者の死を喜ぶコメントが殺到している。そのため、ポータルサイト「網易」は関連のシリーズ報道を出してはいるが、ユーザーがコメントできるコーナーを全て閉鎖した。中国国内の多くのウェブサイトも同様の対応を講じている。中国の経済学者である綦彦臣氏は、本紙取材で次のように分析している。「中国国民は北朝鮮の独裁政権を批判することで、自国内の中共政権にあてこすりをしている。中国当局は連鎖反応の拡大を恐れているのだ」。また、同氏は、北朝鮮の独裁政権はこの2、3年以内で崩壊するはずだとも述べた。

VOAの取材を受けた復旦大学の蔡健教授は、「もし金正恩氏が無事に政権を継承できれば、中国政府はいままで通りの北朝鮮との関係を保っていくであろう」と話した。その理由については、「中朝両国の戦略上の関係が変わっていない。北東アジアでの勢力均衡や安全問題における互いの依存関係は変化していない。このため、中国の対北朝鮮政策での大きな変化はないはず」と分析した。

台湾の軍事誌「尖端科技」の編集長・畢雲浩氏は、「北朝鮮と韓国が再び戦争すれば、渤海地区、ひいては中国の東北地区にとって不利だ。そのため、北朝鮮の安定を維持させることは、中国政府の政策である」と述べた。

朝鮮半島情勢への影響

この問題について、米セントラル・オクラホマ大学の西太平洋研究所の所長を務める李小兵・教授は、ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材を通して「現在、北朝鮮の不安定要素は非常に多い。百万人以上の軍隊、そして核兵器を保有している。国内で政治的不安や危機が生じると、新政権は自分たちの強さをアピールし、国内の異見を封じ込めるため、軍事手段で韓国あるいは日本に挑発する可能性はある」と見解を示した。

北京在住の学者・陳子明さんは、ドイツの国家ラジオ局ドイチェ・ヴェレの取材で同様の見解を示し、「万一、南北戦争が発生すると、朝鮮半島ひいては周辺諸国は皆大変な目に遭わされる」と指摘した。

一方、陳子明さんを含めて専門家の間には別の観点も存在する。つまり、金正恩氏は欧米で教育を受けていたため、中国式の経済改革を行う可能性も排除できないという。陳氏は「この可能性は10%しかないでしょう」とも話した。

核開発問題と六カ国協議の行方

米シートンホール大学の名誉教授・楊力宇氏はRFAの取材で次のように分析した。

「当分の間、金正恩氏は重大な政策転換はしないだろう。(中略)現時点では六カ国協議はないはずだ。氏が政権をしっかりと握ってから、協議に参加する可能性はある」

シンガポール国立大学の東アジア問題研究所の陳剛・教授はRFAの取材で、「北朝鮮の核開発計画は諸大国との交渉で使える強力なカードであるため、核開発計画を変えるはずがない」と指摘した。

公表するまでの50時間、政治的粛清が行われたか

17日に金総書記が死亡してから、19日の公表までの約50時間の空白に、北朝鮮内部で何があったのか。

中国の民主活動家の蒲飛氏は、「独裁国家の歴史上の慣例からみると、政治と軍事の大粛清があるのは確実だろう」と話し、スターリンと毛沢東が死亡した後、粛清が行われたとの実例を取り上げた。「金正日総書記本人が当時、政権を引き継いだ92年~94年の間、内部の大規模な粛清を行った。金正恩氏がどれほどの規模の粛清を行ったのかが注目される問題だ。粛清は確実にある」と同氏は語った。

一方、国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは20日までに、過去1年間、金正恩氏とその支持勢力が後継体制の足場固めのため、すでに数百人を粛清していることを明らかにした。

(記者・駱亜、翻訳編集・叶子)