トランプ流交渉術「アート・オブ・ザ・ディール」の天才性

2026/10/15
更新: 2026/10/15

これは、ポッドキャスト「ヴィクター・デイヴィス・ハンソン:自身の言葉で(Victor Davis Hanson: In His Own Words)」の10月8日配信分を一部編集した書き起こしである。

2015年に彼がトランプタワーのエスカレーターを降りて出馬表明した時から、大統領選、第1期政権、落選後の雌伏期、そして第2期政権の最初の2年間に至るまで、ドナルド・トランプを巡る論争はこの10年間ずっと続いている。

その構図は次の通りだ。彼には「アート・オブ・ザ・ディール(取引の極意)」特有のスタイルがあり、大言壮語し、突拍子もないことを口にする。対峙する相手が誰であれ、あるいはどのような状況であれ、テーブルの向かいに座る相手の虚を突いて動揺させる。馬鹿げた要求を突きつけ、人々を唖然とさせ、非難を浴びる。

しかし、その後も交渉は続き、ドナルド・トランプは元の要求に対して52〜53パーセントほど有利な優位性を手に入れる。そして合意に署名するのだ。トランプは、いかなる取引においても交渉相手や貿易相手を侮辱しないよう細心の注意を払う。そして、自分の方が騙されたかもしれないなどと言いながら、際立った成果を手にしてその場を立ち去る。

すると人々は困惑する。交渉の結果を見て感銘を受ける——特にアメリカ人ならなおさらだ。しかし彼らは同時に、その手法が成果を曇らせているとも言う。

それが正当な批判なのかどうかを見てみよう。

彼が就任した当時、パナマはパナマ運河条約に違反する形で、出入口を中国系企業に実質的に支配されていた。中国側は運河を事実上掌握しようとする壮大な企みを持っていたのだ。トランプは怒りを爆発させ、怒鳴り散らし、部隊を送り込んで奪回すると脅した。運河はアメリカへ返還されるべきだと主張したのだ。

交渉は一時中断し、マルコ・ルビオが現地へ赴いた。

現在、パナマはアメリカの緊密な同盟国となっている。ラテンアメリカ全土が劇的に変化しつつある。32カ国のうち約27カ国が親米派であり、資本主義的であり、民主的であり、あるいはその3つすべてを兼ね備えている。「ピンク・タイド(左派潮流)」はラテンアメリカにおいて終焉を迎えた。キューバ、ブラジル、メキシコ、ニカラグアだけが、敵対的な共産主義または社会主義国家として実質的に取り残されている状態だ。

これに対し人々は、「トランプは本当にあそこまでパナマを脅す必要があったのか?」と口にした。

第2の事例はグリーンランドだ。第二次世界大戦中、アメリカはグリーンランドの自治の保護者役を務めた。なぜなら、その宗主国であるデンマークがナチスによってわずか3日で制圧されたからだ。ナチスは北大西洋を支配するため、潜水艦や航空部隊の拠点を置こうとグリーンランドに目を付けていた。そこでアメリカが同地を管理下に置き、基地を建設し、自由を維持して連合国の利益のために利用した上で、後にデンマークへと返還したのである。

冷戦終結後の数年間、グリーンランドは半ば放置状態にあり、デンマークも同様だった。要するに、何の懸案事項でもなかったのだ。

そこへトランプが登場し、中国は北極圏を北米やヨーロッパへミサイルを送り込む最短の航空路と見なしていると指摘した。さらに、その航路が支配可能であり、それらを掌握すれば北米とヨーロッパ近郊の北極圏の双方において西側諸国へ戦略的にアクセスできると中国側が考えていることを見抜いた。

そこで彼は、デンマーク人にはそれを防ぐ資力がないと言い放った。「いっそ我々が買い取るか奪ってしまうべきではないか」と。

誰もが愕然とした。デンマークは激怒した。ドイツは8人か9人の兵士を派遣し、デンマークは「グリーンランド人を支援するために10億ドルを拠出する。紋章に彼らの旗を掲げる」と言い始めた。

効果は出始めている。言い換えれば、ドナルド・トランプがトーンを落とした結果、見よ、今や合意が成立し、その内容はかつての1951年の取り決めよりもはるかに優れたものとなった。ヨーロッパの人々は安堵している。NATOの同盟国であるアメリカが駐留するため、グリーンランドの北極圏でロシアや中国の艦船と対峙する必要がなくなったからだ。

グリーンランド側も喜んでいる。多くのアメリカ軍人が押し寄せるわけではない一方で、急成長する軍事経済を通じて莫大なアメリカの資金が流入するからだ。

デンマークも満足している。彼らは依然として宗主国であり、北米に位置し、コペンハーゲンよりもニューヨークに近いこの広大な大陸島を支配していると主張できるからだ。それでも構わない、彼らが主権者なのだから。

成果は上がった。

ここで疑問が生じる。味方を苛立たせるようなあの大言壮語には、それだけの価値があったのだろうか?

次の例はカナダだ。

カナダが永遠に500億ドルの黒字を必要としているらしいことは、誰もが知っている。彼らは20年間にわたりNATOの国防費要件を満たしていない。人口の45パーセントは第1世代または第2世代の移民だ。その社会主義的経済は停滞しており、西側の先進工業国の中で最も脆弱である。

アメリカが交渉を進めているにもかかわらず、カナダは関税の引き下げに応じようとしない。多くの問題があるが、ここでは深く立ち入らない。

トランプは、アルバータ州を第51の州にしたいと言い出した。アルバータはカナダ全土における天然資源の宝庫だ。アメリカの誰もそんなことは望んでおらず、誰よりもトランプ自身が望んでいない。共和党の保守派やMAGAを掲げるトランプ支持者が最も避けたいのは、4千万人の人口を抱える左派的なカナダが、もうひとつのカリフォルニア州のようになってしまうことだからだ。

これもまた「取引の極意(アート・オブ・ザ・ディール)」であった。

すべてが終わり、マーク・カーニー首相がノーベル賞なり望むものを手に入れた時、取引の結末はこうなるはずだ。カナダは妥協案を結ぶだろう。カナダの貿易の80パーセントはアメリカ相手なのだ。

アメリカがカナダの石油を買い、カナダが巨額の黒字を計上する見返りとして、カナダ側は安価な中国製金属を使って製品を組み立て関税を回避するといった、中国の関税逃れへの協力をやめる手段を講じるだろう。

さらに、アメリカのデジタルメディア企業に対してカナダ向けやフランス語の独自コンテンツを義務付けている「5パーセント条項」を撤廃するだろう。そうして取引は成立する。おそらく、カナダはより多くのアメリカ農産物を購入することになるはずだ。

それはアメリカにとって有益であり、現実を直視させ、カナダ人に対して「あなた方国民は素晴らしいが、指導者層が社会主義的な枠組みを持ち込んで経済を破壊し、豊かな天然資源という宝の山を十分に活用してこなかった」と思い知らせることになるだろう。

そして次はNATOだ。

ドナルド・トランプが就任した2017年当時、国防費の公約を果たしていたのはわずか6カ国に過ぎなかった。加盟国は2006年に非公式に、その数年後には正式に、各国がGDPの2パーセントを軍備に充てると合意していた。それには、アメリカ軍がNATOに請求していない巨額の諸経費——兵站、情報、軍民両用プロジェクト、NATO基地の共同建設費などは含まれてさえいない。

それでも加盟国は動こうとしなかった。バラク・オバマはあまりの苛立ちから、彼らを「ただ乗り(フリーライダー)」と呼んだほどだ。

トランプが登場し、「関与を続ける気はない……我々はNATOから離脱する」と言い放った。

そして彼が退任する頃には、ごく少数(5〜6カ国程度)を除くすべての国が方針を転換していた。目標を達成している国がわずか6カ国だった状態から、未達の国がわずか6カ国という状態に逆転したのだ。

トランプは再登板し、こう告げている。「目標を達成した方が身のためだ。何が起きたか見てみろ。私が不在の間にウクライナはロシアに侵略された。天然ガスや燃料を巡るノルドストリーム・パイプラインの取引など結ぶなと言ったのに、お前たちは結んだ。再軍備せよと言ったのに、しなかった。そして今になって遅ればせながら手を打っている有様だ」

そして今、彼は加盟国に対し、軍備への投資を対GDP比5パーセントに引き上げるよう求めている。

そして各国はこれに応じ始めている。

では、ここでの本質は何だろうか。オバマやバイデンのようにもっと礼儀正しく振る舞えなかったのか、と問う者もいるだろう。しかし、その二人のどちらも、NATO全体にとって有益であるはずの目標を達成させることはできなかった。

私が言いたいのはこういうことだ。

結果を見れば、現時点でラテンアメリカに中国やロシアの姿はない。カナダ国民は首相に対して強い怒りを覚え、その不誠実さに気づき始めている。多くのカナダ人が「移民政策を改めなければならない。安楽死政策を改めなければならない。狂信的な環境政策を改めなければならない。社会主義を改めなければならない」と口にしている。

今後の推移を見守るとしよう。

グリーンランドとグリーンランド人は満足している。NATOはかつてないほど強固になった。そして我々が生きている間に、ラテンアメリカ全土が合意に基づく政府となり、親欧米派となり、キューバ、ブラジル、ニカラグアのモデル下にあった頃よりもはるかに豊かな状態になるという初の好機が訪れている。

これだけの成果に対し、あの手法には価値があったのだろうか? それを判断するのは読者自身だ。

ドナルド・トランプは強硬な物言いで多くの人々を分断させた。しかし、口は悪いがこれだけの成果を挙げた人物と、口当たりは良いがアメリカのみならず西側同盟全体にとって有益な成果を何ひとつ残せなかった人物の、どちらを望むだろうか。

ヘリテージ財団の出版物である『デイリー・シグナル』の許可を得て転載。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ビクター・デイヴィス・ハンソン(Victor Davis Hanson)は、古典学者および軍事史家です。カリフォルニア州立大学の古典学名誉教授であり、スタンフォード大学の古典学・軍事史シニアフェロー、ヒルズデール・カレッジのフェロー、そしてセンター・フォー・アメリカン・グレートネス(Center for American Greatness)のディスティングイッシュト・フェロー(特別客員研究員)を務めています。 ハンソン氏はこれまでに、『The Western Way of War(西洋の戦争のやり方)』、『Fields Without Dreams(夢なき耕地)』、『The Case for Trump(トランプを支持する理由)』、『The Dying Citizen(死にゆく市民)』を含む17冊の著書を執筆しています。