天安門事件から37年目を迎える6月4日の前夜、東京都内の早稲田奉仕園で「記憶が罪に問われるとき」と題した記念講演会と追悼キャンドルナイトが開かれた。
会場では、香港の民主活動家で弁護士の鄒幸彤(すう・こうとう)氏から寄せられたメッセージが、日本語と中国語で印刷された資料として参加者一人ひとりに配布された。
手紙は、「37年前に北京で犯された罪を忘れることを拒むすべての皆様へ」という言葉で始まる。その全文は記事の最後に掲載する。そこには自由を失いつつある香港への危機感と、それでも記憶を守ろうとする強い決意がつづられていた。
鄒氏は、民主化を求める学生らを中国政府が武力で弾圧した1989年の天安門事件を追悼し、中国共産党の「一党独裁の終結」を求めてきた香港の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会(支連会、2021年に解散)」の元副主席である。
鄒氏や支連会元主席の李卓人(り・たくじん)氏ら3人は、「国家政権転覆を扇動した」として香港国家安全維持法(国安法)違反の罪に問われ、2021年9月から拘束が続いている。拘束期間は1700日を超えた。
現在も香港の女子拘置所に収容されている鄒氏は、今年の天安門事件追悼期間に合わせ、37時間のハンガーストライキ(抗議のための断食)を行った。
配布された手紙の中で鄒氏は、自らが受けている裁判についても言及した。
香港当局は、支連会が30年以上掲げてきた「一党専政の終結」というスローガンが国家転覆にあたると主張している。しかし鄒氏は、25日を超える法廷審理の中で、検察側は「違法な手段による国家転覆」を示す証拠を一つも示せなかったと反論した。
そのうえで鄒氏は、「私たちの最も重い罪は、私たちが忘却を拒んだことだ」と記した。
さらに、「中国政府が最も恐れているのは、人々が忘却を拒むことです。そして、その体制をさらに恐れさせているのは、私たち人民が沈黙を拒んでいることです」と訴えた。
日本にいても消えない不安
天安門事件の犠牲者を追悼するため東京で開かれたキャンドルナイトで、ひときわ目を引いたのは、一部の参加者がフード付きの服やマスクで顔を完全に隠していたことだった。本人に理由を聞いたわけではない。しかし、その姿を見ていると理由は何となく想像できた。
この日は複数のテレビ局や報道関係者も取材に訪れ、会場内ではカメラが回っていた。中国共産党(中共)政権に批判的な集会だけに、会場に紛れ込んでいるかもしれない中共当局の関係者の存在や、身元が知られることで自分や香港・中国本土にいる家族へ不利益が及ぶことを恐れたのかもしれない。
中国共産党を恐れる必要のないはずの日本にいながら、その影におびえ続ける人がいること。その現実を、私たちはどう受け止めればよいのだろうか。

鄒幸彤氏の手紙全文
以下は、東京で配布された鄒幸彤氏からの手紙の全文である。
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2026.06.04
友人の皆様、そして37年前に北京で犯された罪を忘れることを拒むすべての皆様へ。
皆さん、ありがとうございます。今夜、皆さんとともにいられることを知り、大変うれしく思います。声だけの参加ではありますが、それでも皆さんとともに、民主主義を支持し、民主主義のために闘い続けるという誓いを新たにし、37年前に北京で、民主主義のために、人として生きる権利のために、自由と尊厳のために倒れ、あるいは自由を奪われた人々を、ともに記憶することができます。
香港では、中国政府が2020年に《香港国家安全維持法》を導入し、その後、2024年には、いわゆる《国家安全維持条例》が制定されました。それによって、幾世代もの香港人が築き上げてきた法の支配と自由な社会は破壊されました。香港のヴィクトリア公園で最後に六四のキャンドル集会が開かれたのは、2019年のことでした。今、私たちの前にあるのは、ますます暗くなっていく香港です。そして暗闇こそが、恐怖と不義を生み出す温床なのです。
自由と民主主義を追求することは、私の一生の志です。私は諦めません。私は獄中にいますが、今日もなお、心の中で希望のろうそくを握りしめ、高く掲げ、自由と人権を守り続けます。私は、自由を愛するすべての人に呼びかけます。全人類に属する文明と尊厳を、全体主義体制に踏みにじらせないでください。世界各地で民主主義のために闘う人々を支えてください。私たちが自由と民主主義のために闘い続けるとき、自由な世界のために闘うすべての人々とつながっていきましょう。
2週間前、私と李卓人さんが最終陳述を行った後、香港の裁判所は、支聯会および私たち2人の被告に対する審理を終えました。裁判官は、7月または8月に判決を言い渡すと発表しています。
審理全体を通じて、多くの時間が中国憲法をめぐる長い議論に費やされました。香港の検察側は、支聯会が過去30年以上にわたり掲げてきた「一党専政の終結」というスローガンが中国憲法に違反すると主張しました。彼らの告発は、それが「転覆」にあたるというものです。友人の皆様は、弁護側がどのように論証し、検察側による私たちへの告発にどのように反論したのかを見る機会を得るでしょう。そして全世界も、香港の裁判所がまもなく下す判決を見ることになります。私は陳述の中で、すでに明確に述べました。この審理は、支聯会と被告を裁く審理ではなく、本質的には、数百万の香港人の良心を裁き、香港の司法制度を裁き、そして、国家安全法の新時代のもとで、香港の法治にいったいどれほどの生命力が残されているのかを検証するものなのです。
法廷で、私たち弁護側は検察側と正面から向き合い、彼らの目を見据え、検察側はいったい、支聯会がどのような違法手段を用いて国家を転覆しようとしたと言いたいのかと、何度も何度も問いただしました。25日を超える審理が終わるまで、検察側は「違法手段による転覆」を示す証拠を、ただの一点も示すことができませんでした。
違法手段による転覆の証拠など、まったく存在しません。存在しないものを、彼らが指し示すことはできません。それは、支聯会が外国代理人であるという、存在もしない事実を指し示すことができないのと同じです。それにもかかわらず、私たちは、彼らが本当に言いたかったこと、しかし口に出せなかったことを知っています。検察側が言いたかったのは、私たちの最も重い罪は、私たちが忘却を拒んだことだ、ということなのです。
中国政府が最も恐れているのは、人々が忘却を拒むことです。そして、その体制をさらに恐れさせているのは、私たち人民が沈黙を拒んでいることです。
私たちが忘却を拒み、沈黙も拒むからこそ、彼らは私たちを牢獄に閉じ込めているのです。
友人の皆様、今夜、皆様が私の声を聞いているとき、私は香港の大欖(タイラム)にある女子拘置所の独房の中で、ただ一人、37時間のハンガーストライキによって沈黙を強いられることを拒んでいます。そして、37年前に北京で起きた虐殺を悼み、長年にわたり失われた大切な家族のために正義を求め続けてきた天安門の母たちに敬意を表しています。
どうか忘れないでください。権力と独裁の光輪の背後には、普通の人々の血と、砕かれた夢が隠されています。忘却こそが、民主が衰亡へ、そして終焉へと向かう根源なのです。彼らは私たちを牢獄に閉じ込めることはできても、私たちの魂まで閉じ込めることはできません。
そして、どうか正義を求める私たちの声を届けてください。
鄒幸彤
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