日本銀行が2026年4月に公表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、緊迫する中東情勢を背景とした原油高が日本経済に及ぼす影響について、詳細な分析が示された。同レポートには、マクロ経済や物価動向を理解するうえで重要な特定テーマを深掘りする「BOX」と呼ばれる項目が設けられている。本稿では、その筆頭である「(BOX1)中心的見通しにおける原油価格の前提と交易条件悪化のわが国経済への影響」をひもとき、資源の純輸入国であるわが国からの所得流出(交易利得の悪化)が、企業や家計にどのような波及経路をたどるのか、日銀の最新の情勢判断を詳報する。日頃ニュースで耳にする「原油高」が、なぜ私たちの生活に関わってくるのか、分かりやすく読み解いていこう。
1. 原油の値段はどうなる? 日銀の予測
2026年の初め、原油の価格は1バレル(約159リットル)あたり平均65ドル程度だった。しかし、中東の情勢が悪化したことで、3月には紛争前の約2倍の130ドルまで一気に跳ね上がった。 日銀は今後の予測として、「中東の緊張は少しずつ和らぎ、原油の供給も元に戻っていく」という前提を置いている。そのため、原油価格は4月時点の105ドルをスタート地点として徐々に下がり、ゆくゆくは70ドル台まで落ち着くだろうと予想している。
2. 日本は「海外に多くのお金を払う」ことになる
なぜ中東の原油高が日本にとって大問題なのか。それは、日本が中東のエネルギーに大きく依存しているからだ。日本が中東から輸入しているものの約9割はエネルギー資源であり、その大半を原油が占めている。この依存度はヨーロッパや韓国、中国と比べても非常に高い。 原油の値段が上がると、日本はこれまでと同じ量の油を買うために、より多くのお金を海外に支払わなければならない。これは日本全体でみると、日本から海外へお金が流出していく(損をする)ことを意味している。日銀の計算によると、原油高などによる海外へのお金の流出は、2026年度平均で原油のみでGDP(国内総生産)比0.5%、関連する輸入資源価格などを含めると同1.4%程度にも達すると見込まれている。
3. 企業への影響:コストは上がるが、これまでの「貯え」で耐える
海外にお金が流出することで、企業と私たちの家計の負担が増える。 まず企業についてだが、原油高によって材料費や運送費などが上がるため、その分利益は減ってしまう可能性が高い。しかし、明るい材料もある。日本の企業は近年、歴史的に見ても多くの利益を出して「貯え」を作っていたため、今回のコストアップの波にもある程度耐えられる体力があると考えられている。
さらに、これまで資材の高騰や人手不足などのせいで、やりたくても予定通りに進められなかった「過去の投資計画(建設工事など)」が手付かずのまま残っているものがある。今後、これらの遅れていた計画が順次実行されていくため、企業が新しく投資するペース自体は落ちても、日本全体としての設備投資額が大きく崩れることはないと見込まれている。
4. 家計への影響:生活に余裕がなくなり、買い物が手控えられそう
私たち一般の生活(家計)への影響は深刻だ。これまで続いてきた食料品の値上げに加えて、今後は電気代やガス代、ガソリン代なども上がってくる。とくに、生活に必要なものにお金を多く使わざるを得ない低所得の人たちにとっては、大きなダメージになる。 現在、多くの家庭では、これまでの物価高に対抗するために貯金を切り崩して生活している状態(消費性向が100%を超えている状態)にある。つまり、ロシアがウクライナに侵攻して物価が上がった時と比べても、今の家計にはもう「余裕」がなくなっているのだ。そのため、多くの人が節約のために買い物を控えるようになり、しばらくの間、個人消費は伸び悩むとみられている。
5. これからどうなる?
政府は「緊急的激変緩和措置」という補助金などを出して、ガソリン代や電気代が上がりすぎないようにサポートしている。これにより、企業や私たちの負担は少し和らぐはずだ。 しかし、今回の日銀の予測はあくまで「中東の情勢がこれ以上悪化しない」という前提で作られている。もし紛争が長引いたり、原油を運ぶ船が止まったりすれば、経済へのダメージはさらに大きくなる。今後の状況次第で経済の先行きは大きく変わる可能性があるため、引き続き注意が必要だ。
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