資源エネルギー庁は5日、「今後の原子力政策の方向性と行動指針」の改定案を提示した。本改定は、第7次エネルギー基本計画において特定の電源に依存せずバランスよく活用する方針が示されたことや、DXおよびGXの進展に伴う電力需要の増加、地政学リスクの高まりによるエネルギー安全保障の重要性増大といった背景を受けたものである。原子力を長期的に活用していくための前提となる取組や、将来の道筋を明確にしている。
原子力発電の見通し・将来像の明示
今回の改定の大きな特徴として、行動指針の前段に「原子力発電の見通し・将来像」が新たに位置づけられた。中長期的な安定供給を確保し、人材やサプライチェーンを維持する観点から、将来的な建て替えの規模が初めて定量的に示された。一定の仮定に基づく試算では、2040年代までに約220万〜550万kW(約2〜5基)、2050年代までに累計で約1,270万〜1,600万kW(約11〜14基)分の原子力発電所の建て替えが必要になるとされている。
6つの柱と主な改定ポイント
行動指針は、以下の6つの柱で構成されている。
(1)原子力を長期的に活用していく上での大前提
行動指針の第一の柱である「原子力を長期的に活用していく上での大前提」は、これまでの「再稼働への総力結集」という名称から変更され、原子力を長期利用するための基本となる取り組みを示したものである。この柱では、具体的に「不断の安全性向上」と「立地地域との共生」という二つの方向性が示されている。
一つ目の「不断の安全性向上」においては、施設の安全性を確率を用いて定量的に評価する「確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)」などの手法を高度化することが示されている。そして、その評価から得られたリスク情報を実際の意思決定に活用していく取り組み(RIDM:Risk-Informed Decision-Making)を引き続き促進していくとしている。
二つ目の「立地地域との共生」においては、原子力などの脱炭素電源が地域の将来的な発展を見据え、立地地域の産業振興に向けた支援を強化することが盛り込まれている。さらに、能登半島地震などの経験を踏まえ、大規模な自然災害と原子力災害が同時に発生する「複合災害」を想定し、住民の避難や屋内退避に対する備えなど、関係省庁と連携した防災対策の充実を図ることが明記されている。
(2)再稼働の加速・既設炉の最大限活用
再稼働を加速するための取組と、既設炉の最大限活用が統合された。再稼働に向けた審査や安全対策工事等のプロセスにおいては、正確かつ効率的な管理のためにデジタル・AIの活用検討を進める。
また、既設炉の安全性および設備利用率の維持・向上を目指した「運用の高度化」として、具体的には大きく3つの取り組みが進められる。
第一に、現在13ヶ月ごとに行われている定期検査のサイクルを見直す「運転サイクルの長期化」である。足元の対応として、まずは加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)において15ヶ月運転の導入を着実に進める。さらに将来的には、18ヶ月や24ヶ月といったさらなる長期運転の導入を目指し、安全評価手法の確立や燃料の高度化などの技術的検討を進めていくこととされている。
第二に、運転を停止せずに設備の点検や保全を行う「運転中保全(オンラインメンテナンス)」の導入拡大である。米国の取り組みなども参考にしつつオンラインメンテナンスの対象設備を拡大することで、定期検査における点検作業の合理化や適正化を進め、より効率的な定期検査の実施を図る狙いがある。
第三に、タービンや蒸気発生器といった「大型機器の更新」の推進である。より優れた材質や構造を採用した最新設計の設備に更新することで、発電所の信頼性を向上させるとともに、設備利用率や出力の維持・向上を図るものである。また、こうした大型機器の更新事業は、結果として国内の原子力サプライチェーンの維持・強化にもつながるとされている。
(3)新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・設置
「次世代革新炉開発ロードマップ」に沿って、革新軽水炉、小型軽水炉(SMR)、高速炉、高温ガス炉など、各炉型の開発段階に応じた技術開発と社会実装に向けた課題対応を進める。これらを支える基盤として、日本原子力研究開発機構(JAEA)の施設設備の戦略的な整備や技術支援機関としての機能強化を図るとともに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を念頭に置いた研究開発への資金供給機能の強化を実施する。
(4)バックエンドプロセス加速化
「バックエンドプロセスの加速化」に向けては、大きく分けて核燃料サイクルの推進、廃炉の円滑化、最終処分の実現という3つの方向性で取り組みが進められる。
第一に、核燃料サイクルの推進である。六ヶ所再処理工場およびMOX燃料工場の稼働に向けて、審査や検査に対する人材支援を強化する。また、これらの施設ではプルトニウムを扱うため、国際的な信頼を確保する観点から、独立行政法人の設置を含めた厳格な保障措置体制(プルトニウムの計量管理など)の抜本的な強化に取り組むとされている。さらに、回収したプルトニウムを既存の原子炉で再利用する「プルサーマル」を推進するため、各事業者が具体的な検討を進める。加えて、使用済MOX燃料は通常のウラン燃料に比べて硝酸に溶けにくいなどの技術的な特徴があるため、その再処理技術の確立に向けた実証研究などの技術開発を行うことが明記されている。
第二に、廃炉の円滑化に向けた取り組みである。全国の廃炉の総合マネジメントを担う認可法人「NuRO」が主体となり、業界全体で連携して原子炉本体の合理的な解体方法の構築を目指す。高線量の解体物が発生する作業工程において、放射線の影響を極力低減するなど、安全かつ効率的に廃炉を進めることが目的とされている。
第三に、高レベル放射性廃棄物の最終処分の実現である。処分地の選定に向けた調査について、これまでの地元発意のプロセスだけでなく、国が前面に立って取り組む姿勢が示されている。地域任せにするのではなく、国の責任で調査の申入れを行うなどして文献調査地域のさらなる拡大を進めるとともに、全国的な理解促進に努めることとされている。
(5)事業環境整備/サプライチェーン・人材基盤の維持・強化
行動指針の第五の柱である「事業環境整備/サプライチェーン・人材基盤の維持・強化」は、次世代革新炉の開発や既設炉の再稼働などを円滑に進めるための基盤づくりを独立した柱として示したものである。具体的には、大きく3つの方向性で取り組みが進められる。
第一に、巨額の設備投資に対する予見性の向上(投資支援策の整備)である。原子力発電所の建設や安全対策には多額の資金が必要となるため、投資回収の見通しを立てやすくする制度の具体化を検討する。具体的には、企業などの需要家が発電事業者と直接長期の電力購入契約を結ぶ「コーポレートPPA」の促進や、建設中のリスクを国や需要家等も分担して資金調達コストを下げる英国の「RABモデル」の事例などを参考にしつつ、計画的な投資支援策を整備していく。
第二に、許認可や地元合意形成の円滑化である。発電所の設置に必要な手続きをスムーズに進めるため、国が重点的に支援する「重要電源開発地点指定制度」の対象として、新たに次世代革新炉(革新軽水炉やSMRなど)を含めるなどの見直しを行う。また、プラント設計の前提となる地震や津波などの「地理的条件(ハザード)」に関する評価について、事業者が投資判断を行う前にあらかじめ規制当局から認証を受けられる「事前認証制度」の導入に向けた対話を進め、審査の手戻りを防ぎ予見性を高める狙いがある。
第三に、サプライチェーンおよび人材基盤の維持・強化である。原子力産業を長期的に支えるため、産官学が連携して戦略的な人材の確保や育成に取り組む。さらに、国内の部品・設備メーカーなどのサプライチェーンを維持・強化するため、海外の建設プロジェクトへの参画を支援して国際競争力を高め、将来の国内での建て替えを迅速に行える持続可能な産業構造の構築を目指すとしている。
(6)国際的な共通課題の解決への貢献
行動指針の第六の柱である「国際的な共通課題の解決への貢献」は、世界的な原子力利用の拡大や地政学リスクの高まりを背景に、同志国や新興国と連携して共通の課題に対処していく姿勢を示したものである。具体的には、大きく3つの方向性で取り組みが進められる。
第一に、アジアをはじめとする、新たに原子力発電(特に小型軽水炉などの次世代炉)の導入を検討している国に対する支援である。国際機関と連携しながら、人材育成や制度整備、実現可能性調査など、安全を前提とした導入基盤の構築を支援する。さらに、日本単独ではなく日米や日仏などで連携し、これら新興国の導入プロジェクトに参画していくことも目指している。
第二に、アメリカ、イギリス、フランス、カナダといった同志国との連携強化である。これらの国々と協力し、次世代革新炉の開発や既存の原子炉の安全性向上に関する研究開発を推進する。同志国のプロジェクトに参画して連携を深めることは、将来日本国内で原子炉の建て替えを行う際に必要となる産業基盤や人材基盤を維持・強化することにもつながるとされている。
第三に、特定の国に依存しない強靱な「核燃料サプライチェーン」の共同構築である。世界的な原子力回帰に伴うウラン資源の需要増加や、ロシア産燃料への依存からの脱却といったエネルギー安全保障上の課題に対応するため、日・米・英・仏・加の5カ国(札幌ファイブ)などの国際的な枠組みを活用する。同志国間でウラン濃縮などの技術維持や投資を共同で促進し、国内の原子力発電を長期的かつ安定的に運転するための強固な燃料供給網を構築していくことが盛り込まれている。
本改定案は、原子力を将来にわたって安定供給と脱炭素化の要として位置づけ、そのために必要となる制度的・技術的・人材的な基盤の再構築に向けた包括的なロードマップとなっている。
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