【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

中共の対日関係をたどる  感謝から反日 そして浸透へ

2025/08/15
更新: 2025/08/15

水墨画家の宇宙大観(本名・于駿治)氏は、長年の日中交流を通じて、中国共産党(中共)の対日姿勢が「戦中戦後の利用と感謝」「90年代の反日・仇日」「現代の浸透」へと変化してきたと語る。そこには、歴史を巧みに操る戦略と民族主義を支配の武器とする仕組みがあるという。

戦中・戦後──「利用」と「感謝」の時代

宇宙大観氏は次のように指摘する。

「中共が国民党政権を倒し、中国大陸を掌握できたのは、日本が戦争を拡大した機会を利用したからだ。民族主義が高まり、国民が一斉に抗日に向かう情勢の中、この感情を利用して西安事件を起こし、匪賊討伐の対象から中華民国政府主導の抗日統一戦線の一員に転じた」

しかし、表向きの抗日姿勢とは裏腹に、

「本質的には、中共は中華民国への反乱と共産主義政権の樹立という当初の目標を放棄していなかった、蔣介石が抗戦指揮に追われる中、中共は勢力拡大に専念し、日本軍と密かに情報を交換し互いに攻撃を避けた。延安では会議や整風(粛清)運動を続け、思想統制と独裁体制を強化した」という。

「日中戦争では、国民党は多くの軍官を失い、総勢340万の兵力で22回の大規模会戦を戦った。その間、国民党は日本軍と正面から死闘を繰り広げていたが、中共は背後で整風運動や大規模な遊撃戦を行い、地盤を拡大していた。共産党にとってはまさに天の恵みであり、この機会がなければ消滅していた可能性が高い。だからこそ、彼らが日本に感謝の念を抱くのは理屈として筋が通っている」

日本降伏後は北方から東北進出を図り、ソ連から鹵獲した日本軍の武器や兵員の供与を受けて軍事力を急増させた。毛沢東は日本の旧軍人らを迎えた際、以下のように語った。

「日本の侵略がなければ、我々はいまだ山奥にいただろう。北京に来て芝居を見ることなどできなかった」

 

宇宙大観氏は「冗談めかしてはいるが、本音がにじむ発言だった」と述べた。

戦後──「友好」と「浸透」

戦後、多くの日本人は中国に戦争責任を感じ、中共と国民党を区別できなかった。中国文化や風景、料理、パンダへの愛着も「日中友好」の名の下に一括され、中共は巧みに立ち回った。

1970年代末から80年代にかけては友好ムードが高まり、映画やアニメを通じて「日本は人情味があり、平和的で正義を追求する国」という印象が中国に広まった。「中国人と日本人は根本的に大きく違わないという感覚もあった」と宇宙大観氏は振り返る。

しかし1989年の天安門事件後、G7が制裁を科す中、日本は最初に解除して歩み寄った。「これ以降、日本の中共に対抗する力や意志は次第に弱まり、多くの隙を突かれた」と指摘。この時期、中共は「友好」を利用して日本から経済支援や技術協力を最大限に取り込んだ。

 

90年代──「反日教育」

社会は豊かになったが、従来の支配理念であった「階級闘争」は説得力を失った。かつて国民党を「資産階級と地主階級の代理人」として批判してきたが、現在の共産党自身が富を握り、資産階級化してしまったため、その論理は使えなくなった。

宇宙大観氏は、自身の学生時代をこう振り返る。

「私の学生時代、日本人への憎しみはそれほど強くなかった。憎悪の矛先は『国民党反動派』や『蔣一家の王朝』、そして『人民共通の敵』とされた蔣介石に向いていた。日々唱えられていたのは階級闘争であり、地主階級や資産階級、その代表とされた国民党政府や四大家族を憎むように仕向けられていた」

中共は日本を打ち破って政権を取ったのではなく、内戦で国民党を倒して権力を奪った。このため、当時の正統性は「資産階級と地主階級の代理人=国民党中央政府を打倒した」という一点に依存していた。しかし、国民党との統一戦線を進める中で、従来の国民党批判一辺倒のやり方は成立しなくなった。

「共産党はかつて最高綱領だった階級闘争を密かに捨て、民族主義へと舵を切った。『中華民族の偉大な復興』というスローガンを掲げ、敵を設定し、日々攻撃することで成り立つ復興だ」そこで導入されたのが「愛国主義教育」であり、その中心に反日ナショナリズムが据えられた。

宇宙大観氏は「2005年前後には、突如として国民党の抗日を描いた映画が多数登場した」と説明した。

この流れの中で1994年、「愛国主義教育実施綱要」が公布された。これにより小中高・大学、メディア、博物館、映画業界まで、抗日戦争の歴史観が統一され、全国規模での「反日教育」が制度化された。

学校教育では抗日戦争を「全中国人民の偉大な勝利」とし、中共が主導的役割を果たしたと強調。国民党の戦功は「中華民族」の枠に押し込み、事実を混同させた。教科書、記念館、映画やドラマで侵略行為を繰り返し描き、若年層に反日感情を刷り込んだ。

宇宙氏は、この教育の本質を次のように語る。

「共産党は必要に応じて歴史を作り替え、古い嘘を新しい嘘に置き換えて批判を封じてきた。結果、中国人は絶えず洗脳され、多くが事実を見失った。若い世代は幼いころから日本への敵意を“当たり前”の感情として身につける。これは国内の不満を外に向けるガス抜きとして機能し、同時に外交カードにもなる」

さらに氏は、こうした教育の影響が社会全体を狂気に導く危険性を指摘する。

「彼らは正常な思考を許さず、全員を狂気に巻き込む。文化大革命はその典型で、狂乱状態に同調しなければ生き残れない社会が作られた。沈黙すら許されず、教育の場でも映画を見せた後に全員が“決意表明”をさせられた。そうして幼少期から独立思考を捨てた“小さな狂人”を大量に生み出した。その人口規模を考えれば、これは世界にとって極めて大きな脅威だ」

 

事実を無視する宣伝と反日の政治利用

宇宙大観宙氏は、中共が反日感情を煽る理由について、このように説明した。

「独裁政権は常に『敵』を必要とする。敵がなければ自ら作り出す。仇敵を作り出して人々の憎しみをかき立て、それを利用して中国人をコントロールする。日本は日中戦争の歴史があり、関連資料も豊富だ。中共はそれらを利用して大々的に宣伝している」

日本は民主国家で、異論や反対意見を封殺しない。この寛容さが、中共に付け入る隙を与えているという。宇宙大観氏は自身の体験として、埼玉県で見た南京大虐殺の大壁画や、横浜の「戦争加害展」を挙げ、日本人の反省は真摯だと語る。

しかし、「こうした日本の反省は中共に利用されている。抗日戦争の主力が誰かを伏せ、反省の矛先を自分たちに向けさせている。実際の中共は戦争の混乱に乗じて利益を得た『火事場泥棒』に過ぎない」と強調する。

日本ではこうした教育の存在があまり知られておらず、観光やビジネスで接する中国人が友好的であっても、その背後で国家的な反日ナショナリズムが育成されているという事実は見落とされがちだ。

「戦中の『日本利用』から戦後の『友好浸透』、そして90年代の『反日教育』への転換は、中共が政権のニーズに応じて歴史の物語を自在に書き換えてきた証拠だ」

日本人心理の利用

日本はODAや無利子貸付で多額の援助を行い、空港や鉄道など多くのインフラを建設したが、中国国内ではその事実がほとんど周知されない。宇宙大観氏は、交流の場で抗日ドラマが流れる車内映像を見た日本人の友人が苦笑し、反論もせず「自分たちは頭を下げるべき立場」と受け止めた経験を紹介した。

「正しい歴史認識を持ってこそ、反省すべき相手を見極め、新たな文明的関係を築ける。しかし現状では多くの日本人が混乱させられ、正確な認識を持てないままだ。その結果、中共はその隙を突き、不正を重ねてきた」と宇宙大観氏は警鐘を鳴らした。

また、真正の日中友好は歴史の真相に基づくべきだと訴える。「国民党の貢献を認め、中共の戦略を見抜く必要がある。真相を明らかにしなければ、中共の悪事に利用されるだけだ」

日本の寛容さや反省の姿勢は尊いが、それを中共に悪用されてはならない。歴史を正しく見つめ直すことこそ、新たな関係の第一歩だ。

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。