2025年3月27日、米保健福祉省(HHS)のロバート・F・ケネディ・ジュニア長官は、組織の効率化と国民へのサービス向上を目的とした大規模な再編計画を発表した。部局の統合や人員削減を通じて、より機能的な組織体制への移行を目指す。
ケネディ長官はビデオ声明の中で「HHSを、より効率的かつ効果的な組織に再構築する」と述べた。また、再編のもう一つの目的は、サービスの質の向上であると強調している。
再編により、現在28ある部局は15にまで統合され、フルタイムの職員数も約25%削減される。およそ8万2000人いた職員は、最終的に約6万2000人にまで減少する見通しだ。
ケネディ長官は「この移行は痛みを伴うが、限られた人員でより多くの成果を出していく必要がある」と述べた。
保健当局によれば、再編により年間で18億ドル(約2700億円)の予算削減が見込まれている。
最も影響を受けるのは食品医薬品局
再編で最大の影響を受けるのは食品医薬品局(FDA)で、約3500人が解雇される見込みだ。疾病予防管理センター(CDC)では約2400人、国立衛生研究所(NIH)では約1200人、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)でも約300人の職員削減が予定されている。
保健福祉省は、従来の部局の多くに重複した機能があったとしており、今回の統合により業務の簡素化と効率化を図ると説明している。
新設組織や統合の概要
新たに創設される「アメリカ健康推進局」には、保健資源・サービス局や薬物乱用・精神衛生サービス局など、5つの部局が統合される。
また、災害時の医療対応などを担っていた「戦略的準備・対応管理局(ASPR)」は、今後CDCに吸収されることになる。
政策立案や評価を担当していた「次官室」は、医療の質を研究していた「医療研究品質庁」と合併し、「戦略室」として再編される。この新組織は、保健福祉長官の政策立案を支える研究を効率的に行い、連邦医療プログラムの改善に貢献することを目指す。
さらに、高齢者や障害者を支援する「地域生活支援局」の業務は、CMSなど他の部局に再配分されることになった。
HHSの地方事務所は、現在の10カ所から5カ所に削減される。また、法務部門である法務顧問室も、10か所の地方事務所のうち6か所を閉鎖する予定だ。
この再編は、トランプ大統領が連邦機関に対し命じた大規模な人員削減の一環であり、ケネディ長官の指導のもとで実行されている。ただし、メディケアやメディケイドといった主要な公的医療サービスへの影響はないと保健福祉省は強調している。
懸念の声と前向きな評価
今回の発表には、政治家や労働組合から懸念の声も上がっている。
下院監視委員会の少数党筆頭委員であるジェラルド・コノリー氏はXで、今回の人員削減を「重大な過ちだ」と批判した。「この措置が、今後にわたってアメリカ国民の健康と福祉にどのような影響を及ぼすのか、極めて深刻な懸念を抱いている」と述べた。
国家財務職員組合のドリーン・グリーンワルド委員長も「FDAやその他重要な部局へのこれほど大きな削減が無害であるという政府の主張は、到底信じがたい」と批判し、「こうした政府機能の削減は、国民を守る能力そのものを危険にさらす行為だ」と警鐘を鳴らしている。
一方で、一部の議員からは慎重ながらも前向きな姿勢が見られる。
ビル・キャシディ上院議員は、「命を救う医薬品の承認を迅速に行い、メディケアのサービスが改善されるのであれば、この再編には期待したい」とし、今後の動向に注目するとしている。
すでに3200人を解雇、さらに1万人規模の削減へ
保健福祉省によれば、すでに見習い職員など約3200人が解雇されたという。一部の職員については、裁判所の命令により復職が認められた。
また、政府が提示した退職支援制度を利用し、有給休暇を取りながら2025年9月までに退職するか、早期退職を選んだ職員もいる。
今後さらに約1万人の職員が削減される予定で、再編完了後の職員数はおよそ6万2000人となる見込みだ。
「予算は増えても国民の健康は改善していない」と指摘
ケネディ長官は「2021年から2025年にかけて、HHSの予算は38%増加し、職員数も17%増えた。しかし、その結果として国民の健康が改善されたとは言いがたい」と述べた。
また、慢性疾患やがんの増加、アメリカ人の平均寿命がヨーロッパ人と比べて短くなっていることを挙げ、現状の改善が必要だと指摘した。
また、HHS内では部局ごとの連携が不足し、「主に縦割りで運営されており」、「時には足並みがそろっていない」と指摘。一部の部局については「公衆衛生を軽視し、本来監視すべき業界の影響を強く受けている」との批判も口にした。
さらに「長官室が、特定の薬や医療行為のリスクに関する情報を持つ重要なデータベースへのアクセスを妨げられた事例もある」と明かし、内部での情報共有にも課題があることを示唆している。
HHSはこの件に関する取材には応じていない。
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