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技術流出の脅威 日本と韓国で続発する産業スパイ事件

2025/02/28
更新: 2025/02/28

経済産業省(経産省)の所管にある国立研究開発法人「産業技術総合研究所(産総研)」の研究データを中国企業に漏洩し、不正競争防止法違反として起訴された中国籍の元主任研究員・権恒道被告(61)が25日、懲役2年6か月、執行猶予4年と200万円の罰金を言い渡された。

起訴状によると、権被告は主任研究員として営業秘密の管理を担っていた2018年4月13日、フッ素化合物の合成技術に関する研究データを産総研のアドレスから北京の化学製品製造企業にメールで送信したとされている。

裁判所は、「本件は極めて計画的かつ複雑であり、悪意のある犯行である」と指摘した。

かつて産総研に勤務していた黎明(仮名)さんは、大紀元に対し、「20年前、産総研で働いていた際に食堂で何度か権さんと話したことがあるが、あまり誠実な印象を受けなかった。ほかの中国人の同僚からは『親中的な人物で、中国共産党と関係があるかもしれない』と聞いたことがある」と語った。

また、黎さんは「彼は頻繁に中国へ帰国していたとされる。実際にどれほどの機密を中国に流出させたのかを特定するのは困難だが、今回は妻が経営する企業に技術機密を送信した事実に基づき起訴された」と話した。

日本国内で相次ぐ技術流出事件

近年、日本企業における商業機密の流出が相次いでいる。特に最先端技術に関する機密情報が中国に流出することへの懸念が高まっている。

◆2019年6月5日:日本人技術者、工業スパイ容疑で逮捕

2019年6月5日、日本人技術者矢崎龍三(仮名)が、不正競争防止法違反の疑いで逮捕された。当時、矢崎は京都の電子部品メーカー「日本写真印刷株式会社」を退職し、中国企業に転職していた。日本へ一時帰国中に逮捕された。

矢崎被告は中国企業に盗用した技術資料を持ち込んだことを認めており、2020年8月6日に京都地方裁判所で第一回公判が開かれた。

◆2019年6月6日:中国籍の元社員、商業機密流出で有罪判決

2019年6月6日、名古屋地方裁判所は、中国籍の元技術者申永輝(当時31歳)に対し、不正競争防止法(営業秘密の不正取得)違反で有罪判決を下した。懲役1年2か月に加え、罰金30万円が科された。

裁判官は、「グローバル化により日本の技術力が国際競争にさらされる中、申永輝は技術者としての権限を悪用し、大量の機密データをコピーした。その刑事責任は極めて重い」と述べた。

申永輝は、日本の大学を卒業後、2014年に富士精工に入社し、技術部門で製品マニュアルの作成を担当していた。その業務上、サーバーへのアクセス権限を持ち、機密情報に直接触れる立場にあった。

2019年1月29日、申永輝は勤務先の富士精工のサーバーに不正アクセスし、自動車部品用ドリルヘッドの設計データなど164件の機密ファイルを個人のUSBメモリにコピーし、社外へ持ち出した。

韓国でも、半導体やディスプレイ技術の中国企業への流出が相次いでいる。

◆昨年2月19日:元サムスン電子幹部、半導体技術流出で実刑判決

昨年2月19日、韓国サムスン電子の元幹部・金某が、半導体技術を中国企業に流出させた罪で起訴され、懲役7年、罰金2億ウォンの判決を受けた。また、共犯とされた4人も懲役10か月〜2年6か月の実刑判決を受けた。

金某は、サムスン電子の技術チーム責任者を務めていたが、中国の長鑫存儲技術有限公司(CXMT)の製品開発に関与する中で、サムスン電子の半導体原子層堆積(ALD)技術に関するデータを不正使用したとして、2023年1月に起訴されていた。

◆2024年8月:LGディスプレイ元社員、OLED技術流出で起訴

2024年8月、韓国の検察は、LGディスプレイの元社員Aらを技術流出の疑いで起訴した。

AはLGディスプレイで約20年間OLED関連業務に従事していたが、2021年に中国の大手ディスプレイ企業へ転職後、元同僚と共謀し、大型OLEDの量産技術を不正に持ち出したとされる。

◆2024年7月:元サムスン研究員、OLED技術流出で懲役6年

2024年7月、サムスン電子の元研究員BがOLEDディスプレイ製造技術を中国企業に流出させた罪で、韓国の地裁から懲役6年の判決を受けた。

流出られたのは、「OLEDディスプレイの準分子レーザーアニール(ELA)装置の反転光学システム」および「OCRインクジェット装置」技術。

  • ELA装置の反転光学システム:OLED電子回路に向けたレーザーの強度と安定性を維持する技術
  • OCRインクジェット装置:OLEDパネルと表面のガラスカバーを接着する技術

これらの技術の商業機密としての価値は、少なくとも3400億ウォン(約374億円)に及ぶとされる。

◆2024年5月28日:SKハイニックスの中国籍社員、華為への技術流出で逮捕

2024年5月28日、韓国の半導体大手SKハイニックスに勤務していた中国籍の女性社員A(30代)が、華為に対して半導体の不良率を低減する技術資料を流出させた疑いで逮捕された。

Aは2013年にSKハイニックスに入社し、半導体の不良解析を担当していた。2020年から2022年にかけて中国支社でグループ長を務め、顧客との取引を担当。2022年6月に韓国へ戻るとすぐに華為へ転職し、その後の技術流出が発覚した。

◆2023年7月:サムスンの折りたたみOLED技術、中国企業へ流出

2023年7月、韓国の最高裁判所は、サムスンの折りたたみ式OLED技術を中国企業に流出させたとして、韓国TOPTEC(トップテック)の元代表C某に懲役3年の実刑判決を下した。

また、中国の大手ディスプレイパネル製造企業の京東方(BOE)を含む4つの中国企業へ技術を売却したとして、TOPTECの元社員8名も有罪判決を受け、懲役刑または罰金刑が言い渡された。

高まる技術流出への懸念、日本と韓国で対策強化が急務

日韓では、最先端技術を狙った流出事件が増加しており、企業は機密情報の保護を強化している。

特に、中国企業による技術者の引き抜きや機密情報の不正取得が問題視されており、日本政府・韓国政府ともに流出防止のための法整備を進めている。

企業にとって、商業機密の保護は国際競争力を維持するために不可欠であり、より厳格な情報管理体制の構築が求められている。

張鐘元