プレミアム報道 脳死状態の人は法的には死亡しているが、生物学的に生きているかどうかについては依然として議論の余地がある。

【プレムアム報道】脳死の人は本当に死んでいるのか?(1)

2024/06/17
更新: 2024/06/17

脳死者は法律上では死亡と見なされますが、生物学的にはまだ生きているのかという議論が続いています。ハイディ・クレシグ博士は著書『脳死の誤謬』で、1989年に麻酔科医としての経験を振り返っています。

ある日、クレシグ博士の上司である担当の麻酔科医が、臓器摘出手術のために脳死した器官提供者の準備をするように指示しました。患者を確認したクレシグ博士は驚きました。その男性は他の重症患者と変わらない、むしろほとんどの患者よりも状態が良かったのです。

本の中で、クレシグ博士は「彼の体は温かく、心臓は動いていて、モニターは安定した生命兆候を示していました。それでも、彼はすべての脳死の基準を満たし、神経科医は彼を『死亡』と宣言した」と書いています。

担当麻酔科医は、手術中にどの麻酔薬を使用するつもりかを尋ねました。クレシグ博士は麻酔薬を使って体を動かさないようにし、痛みを和らげるためにフェンタニルを使用するつもりだと答えました。

麻酔科医は「意識を抑えるための薬はどうするつもり?」と尋ねました。

クレシグ氏は驚きました。意識を抑える薬を提供するのは、患者が手術中に目を覚まさないようにするためです。彼女の教育では、脳死患者は意識を持たないと教えられていました。身体は生物学的に活動していても、彼らの思考は消え去っているはずです。

「私は彼に『なぜそんなことをするのですか? 彼はもう死んでいるのでは?』と尋ねました」

担当麻酔科医はクレシグ氏を見つめて、「万が一のために、意識を抑える薬を使わないのか」と答えました。

クレシグ博士は「大紀元」に「彼の顔を思い出すたびに、胃が痛くなります。彼がマスク越しに私を見ていたその表情は、とても困惑しているように見えました」と語りました。

「私は指示通りにしました。今思えば本当に良かったと思います」

脳死とは本当に死なのか?

脳死と宣告されると法律上は死亡と見なされますが、技術的には身体はまだ生きています。

脳死の定義は、神経学的基準による死亡であり、永久的な昏睡状態、脳幹反射と意識の喪失、そして自発呼吸が不可能な状態を指します。

しかし、心臓は動き続け、器官は機能し、感染症に抵抗し、成長し、さらには妊娠することも可能です。

意識の兆候が見られなくても、脳の一部はまだ活動していることがあります。脳死患者の約50%は下垂体が活動しており、内分泌系の調整や体温の調節を担っています。しかし、生命維持装置が停止すれば、すべての活動が止まります。

このため、医師たちは脳死が本当に死を意味するのかについて激しく議論しています。

ダートマス大学の名誉教授であるジェームズ・バーネット博士は「脳死者の体はもはや一つの有機体として機能していないため」、彼らは死んでいると主張しています。もし生命維持装置がなければ、これらの人々は死んでしまうと語りました。

一方、放射線科医のジョセフ・エーブル博士と元血液病理学者のドイエン・グエン博士は「機械は生命を維持するだけで、生命を生み出すことはできない」と述べています。

脳死に関するもう一つの話題は、患者がまだ感覚を持っているかどうかです。

欧州の麻酔科医の間では、脳死状態の臓器提供者に臓器摘出中に意識遮断剤を投与すべきかどうかについて議論が続いています。

ヨーロッパでは、脳死した器官提供者が手術中に痛みを感じるかもしれないとして、意識を抑える薬を使うべきだとする意見があります。一部の医師は反対しています。驚くべきことに、麻酔科医の意見は「患者が痛みを感じない」という前提に基づいていません。生物倫理学者のロバート・トゥルーグ博士とフランクリン・ミラー博士は、彼らの著書『死、死の過程、そして臓器移植』で、それは脳死診断に対する公衆の信頼を守るためだと述べています。

研究者であり麻酔科医でもあるロナルド・ドウォーキン博士は、臓器提供に関する記事の中で、器官提供者が「まだ少し生きている」と感じるため、意識遮断薬を使うことを選んでいると述べました。

ミラー博士は、脳死というラベルが誤解を招くものであると主張しています。同氏とハーバード大学医学院の生物倫理学センターのトゥルーグ博士は、脳死の人々はまだ生きているが、意識を取り戻して回復する可能性は、低いと考えています。

脳死患者が実際に回復する可能性があると言う人もいます。例えば、著名なジャヒ・マクマスさんのケースがそうです。彼女は13歳の少女で、2013年12月12日に脳死と宣告されました。しかし、家族はこの診断を受け入れず、ジャヒさんは4年半にわたって生命維持装置によって生かされました。ジャヒさんは話すことができず、完全な意識を取り戻すこともありませんでしたが、神経科医2人が彼女の生命の最期の数日間に「最小意識状態」にあると確認しました。

看護師と医師は、ジャヒさんは指示に従って動いたと証言しました。その後、脳波計(EEG)で脳波信号が検出されました。

脳死状態の人は脳波の活動が全くないはずです。

「ジャヒ・マクマスさんは、『正しく、適切に 』脳死と診断された人でしたが、その後脳機能を回復したことが証明された素晴らしい例です」

と語りました。この少女は、当時のガイドラインによれば、紛れもなく脳死と診断され、新しいガイドラインでもそのように診断されるだろう、と彼女は付け加えました。

 

ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。主に新型コロナウイルス感染症や医療・健康に関する記事を担当している。メルボルン大学で生物医学の学士号を取得。