【寄稿】機能不全に陥った中国の経済システム 選択迫られる習近平氏

2023/10/03
更新: 2023/10/03

中国経済は勢いを失っており、かつての経済モデルはもはや機能しないだろう。習近平氏が中国経済を再生するには現状のシステムを180度変えなければならないが、その見込みは低そうだ。

海外直接投資の減少、人民元の価値の下落、そして対外輸出の縮小。各種の規制強化により、民間部門の生産活動は今まで以上の困難を強いられている。若者の失業率は急上昇し、少子高齢化の勢いは止まるところを知らない。さらに、不動産業界の供給過多や買い手不足により、関係の深い銀行業界が巨大な債務バブルに直面している。食糧不足の問題も深刻だ。

都市化による発展は過去のもの

中国共産党指導部は経済成長が著しかった1980年から2010年にかけて、都市中心の経済発展モデルを採用したが、今後機能しなくなる可能性が高い。当時の都市人口は国民全体の2割に過ぎず、数億人規模の農民が都市へ移動し、彼らが工場での労働に従事し始めたことで中国経済は爆発的に成長した。しかし、人口の63%が都市に居住する今、これ以上の人口流入は期待できない。

中国国内の食料供給を確保するためにも、人口の一部は農村に残る必要がある。中国の食料自給率は65.8%にとどまっており、不足分は輸入で補っている。農村人口がさらに減少すれば、より多くの食料を国外に依存することになるが、それは習氏が望まないことだ。

台湾侵攻を企てる前段階で、食料の完全自給体制を確立させる必要があることは中国共産党の高官らも認識している。有事の際には、米国の艦隊によって海外からの食料輸入を遮断されてしまうからだ。

都市化を経済成長のエンジンとする際のもう1つの課題は、3億人近い出稼ぎ労働者だ。彼らは農村から都市へやってきて工場で労働に従事するが、生産・輸出が振るわないなか、中国の若者は職を見つけるのが非常に困難になっている。都市に人口が流入しても、そこに雇用が生まれなければ、国内総生産(GDP)が増えることはない。

かつて、海外直接投資(FDI)は中国経済の成長を促す推進力の1つとして、外貨と雇用を中国にもたらした。しかし2023年現在、FDIは87%の下げ幅を記録している

外資系企業や投資家たちはもはや中国に投資するメリットを見いだせなくなっている。今年の7月1日に中国で施行された「対外関係法」および「改正・反スパイ法」は、M&A(合併・買収)に先立つ精査や市場調査といった企業による通常業務について、それを理由に当局に拘束される危険性を大きくした。

同時に、中国の直面する人口減少は若者層の市場の縮小を意味する。去年の公式発表では、中国は85万人の人口減少となった。今後5年で、人口全体のおよそ27%が定年を迎える予測となっており、労働力の減少する中国は「世界の工場」としての地位を失いつつある。結果、それまで中国に流れていた資本は、インドや東南アジアへと移ってきている。

抜本的な改革が急務

中国の経済成長が最盛期を迎えていた頃、中国政府はインフラ投資に力を入れていた。政府は主要都市を結ぶ道路や鉄道建設に投資を行い、国内の経済活動は活発化、人々の生活水準は向上した。

今や一線都市や二線都市、三線都市はすでに道路交通網で結ばれている。既存の高速道路の改修工事や在来線の高速鉄道へのアップグレード以外に、インフラ整備によるGDP増加はすでに見込めなくなった。辺境に位置する小さな都市にまで高速鉄道を開通したとしても、その経済的な効果は微々たるものだ。

インフラ投資の拡大によって債務は膨れ上がり、中国の債務残高は対GDP比で300%近くある。中国の銀行が抱える債務の4分の1は国内の不動産部門が占め、その総額は8.4兆に上る。

債務残高を増やしても経済は立直らない。長年にわたる際限のない融資と不動産建設により、中国の不動産業界はデフォルトの危機に瀕している。中国最大規模の不動産開発会社「恒大集団」は、すでに米国で破産申請を行っている。

中国の不動産最大手の「碧桂園」は8月、米ドル債の利息支払いのため、30日間の支払い猶予期間を申請した。中国国有銀行の報告によると、国内の不良債権は今年の1月から7.6%の上がり幅を記録している。

過去の方法を踏襲するだけでは危機を切り抜けることはできない。仮に習近平氏に経済を立て直す意志があるならば、抜本的な改革をしなければならない。厳しい規制や反スパイ法を撤廃すれば、投資家らの信用を回復できるかもしれない。不動産セクターについて言えば、政府による保護措置を減らし市場原理を導入することで、債務バブルを潰すと同時に不動産価格を引き下げることができる。さらに、銀行業界への政府介入を減らすことができれば、各銀行が融資に対して責任感を持つようになり、経済の健全化に資する。問題なのは、習近平氏がそもそも経済介入を緩和することを選択肢に入れているかどうかである。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
経済学者、中国経済アナリスト。上海体育学院を卒業後、上海交通大学でMBAを取得。20年以上アジアに滞在し、各種国際メディアに寄稿している。主な著作に『「一帯一路」を超える:中国のグローバル経済拡張』(Beyond the Belt and Road: China's Global Economic Expansion)や『A Short Course on the Chinese Economy』など。