福島第一原子力発電所にたまった処理水の海洋放出は、長い間議論の的となっていたが、8月24日にその放出が正式に始まった。中国共産党(中共)の公式メディアは連日この問題を大きく取り上げ、市民の感情を高ぶらせている。
国外の専門家の間では、中共がこの問題を取り上げる背景に、政治的な目的があるとの分析も見られる。その目的は主に台湾海峡に関するものであるとされ、さらに、政治的な危機を抱える中共が民衆の不満を外へ向け、日本へ転嫁させるためこの問題を利用している、との指摘もある。
中国官製メディアが扇動する「反日」
日本が8月24日に福島の処理水の海洋放出を開始した直後、中国の税関は、日本の水産物の輸入を全面的に停止した。
中国の公式メディアはこの問題を連日大きく取り上げ、新浪微博(シンラン ウェイボー)や百度(バイドゥ)のトレンドトピックでもその話題が取り上げられている。また、江西省南昌市では多くの市民が集会を開催し、若者たちが「打倒日本(日本を打倒せよ)」と叫ぶ姿が映し出されている。
近日、中国のネット上で日本製品のボイコットを求める声が増えてきている。新京報は日本料理に関するアンケートを実施し、9万2千人以上の回答者のうち8万1千人が「今後は、日本料理を食べない」と回答している。
しかし、中国国内にある日本料理店のオーナーは、その多くが中国人である。「日本料理を食べない」というのは、日本の食材をボイコットする実際的な効果より、作られた「反日」による感情論の部分が大きい。
オランダ在住の中国の原子力エネルギー専門家である李剣芒氏は、「福島の放射性処理水に関する懸念は不要である」との立場を微博上で示した。しかし、その投稿は当局によって削除され、同氏のアカウントも停止されている。
国際原子力機関は、日本の処理水の海洋放出計画の安全性を認可している。同機関の報告によれば「日本の取り組みは国際基準を満たしている」とされ、人や環境への影響は非常に小さいと評価されている。過去数十年間に、多くの国の原子力発電所が放射性物質をふくむ廃水を海に放出していることも同機関により指摘されている。
「福島」を利用する中共、真の狙いは台湾海峡
豪州在住の学者である袁紅冰氏は、8月25日に大紀元に対し、「日本の処理水放出を利用する中共の政治的意図は明白だ。その背景には、日本が台湾海峡の問題において『明確な立場』を示したことにある」と述べている。
袁氏によれば、「8月18日に日本、米国、韓国が首脳会議を開催した。国際政治の観点から見ると、多くの人々が、この会議が東北アジアの”NATOのような組織”の設立を意味すると捉えている。その主要な狙いは、共産主義の世界的拡大に対抗することであり、特に台湾海峡の状況に注目している。中共が台湾海峡で戦闘を開始する場合、日米韓の三カ国は中共に対し、共同で戦略的反撃をする可能性が高い」という。
また袁紅冰氏は、中共が日本の処理水の海洋放出について、わざと大げさに伝えることで「中国人の民族主義的感情を刺激し、日本に対する感情を悪化させている」と指摘する。
その目的は、日本と台湾の政治的、経済的、文化的な関係を断ち切ることと、国際的な舞台で日本を孤立させること、さらに日本と台湾の関係を悪化させることである、と述べている。
さらに袁氏は、中国の反日デモは、中共政府の指示による政治的な演出であり、真の市民の感情や考えを反映したものではないとの見解を示している。
中共がいくら煽っても、長くは続かない
中共政府の扇動によって、中国では、複数の地域で「塩の買い占めパニック」が発生している。「福島原発から『汚染水』が排出された。まだ汚染されていない海水で作られた食塩を、買いだめしておこう」という根拠のない噂がパニックの引き金であるが、そうした誤情報がどこから出たかは定かではない。
カナダ在住の中国系作家である盛雪氏は、8月25日に大紀元に対し「中共は長年にわたり日本を敵視している。そのため利用可能な情報を得れば、それが何であれ、煽ることを躊躇しない」との考えを示している。
さらに盛氏は、中国には言論の自由も報道の自由もなく、国民が真実の情報を得ることが非常に困難であるため、中共が情報操作を行えば市民は簡単に騙されて「塩の買い占め」などの行動を取ることがある、と指摘している。
盛氏は、中共政府は政権の危機を感じるたびに、常に「外部の敵を作り上げ、国民の不満をその敵に向ける」と指摘している。現在、中国経済の低迷は止められない状態にあり、特に若者の失業は深刻で、これが中共政府の統治に大きなプレッシャーになっている。
しかし盛氏によれば、中共政府が直面しているこれらの問題は「単に人々の不満を逸らすことや圧力を外部(日本など)に転嫁することで解決するものではない」としたうえで、福島の処理水放出問題は、長期的な煽動の材料とはなり得ず、短期間で収束するだろうとの見解を示している。
中共が起こす騒ぎは「自分の足を石で打つ」
中国市民の間で時折発生する反日デモに対しても、盛雪氏は「中共が起こす騒動は、最終的には自分の足を石で打つことになる」という。
盛雪氏は「日本は、福島の原発事故について真剣に対処してきた。現在放出されている処理水はテストを受け、基準に合致している」と述べている。
「中国の一般市民が真実を知れば、長年にわたって世界で最も汚染が深刻な場所は、中国であると認識するだろう。中国には、有毒な食品、有毒な空気、有毒な水など、多くの分野での問題が存在する。これは日本では考え難いことだ」
「やがて中国の市民は、彼らに害を及ぼしているのは、日本で処理された水ではなく、中共が組織的に形成した有害な環境であることに気づくだろう。市民は結局、中共への怒りを持つことになる」と盛雪氏は述べている。
袁紅冰氏も同様に「中共の原発が排出する核汚染物質は、日本が放出するものよりも、はるかに多い。中共の経済発展は、人類や国際社会の基本的な生存条件を犠牲にしている」との見解を示している。
2021年、日本政府は原発処理水の海洋放出を承認した。この決定に対し中共が反発すると、日本の駐中国大使館は文書で、福島第一原発の年間トリチウム放出総量は、中国の浙江省の秦山第三原発をはじめとする中国の原発の放出量よりも少ないと指摘した。
この文書によれば、中国には49基の原発が存在し、それらから出る核廃水も海に放出している。浙江省の秦山第三原発の2020年のトリチウム放出量は約143兆ベクレル、広東省の陽江原発は約112兆ベクレル、福建省の寧德原発は約102兆ベクレル、遼寧省の紅沿河原発は約90兆ベクレルである。これら4つの原発のトリチウム放出量は、台湾、韓国、日本などの近隣国よりも多いことが分かる。
それに対して、国際原子力機関(IAEA)の報告によれば、日本の福島第一原発の年間トリチウム放出量の上限は22兆ベクレルであり、中国の原発よりはるかに低い。
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