日本の防衛産業活性化へ…小野寺氏、国防貢献で「感謝と名誉」制度創設目指す

2023/05/22
更新: 2024/02/28

転機を迎える日本の安全保障。そのひとつが、防衛装備品の海外移転(輸出)だ。小野寺五典元防衛相(自民)は、防衛産業を支援し活性化させる取り組みとして、国防に貢献する企業に対する感謝と名誉を与える制度の創設を進める考えを示した。

これまで表彰制度は退職した自衛官を多く雇用する企業に限ってきた。小野寺氏は今後、防衛装備を生産する企業にも拡大させ、さらに積極的に国防に貢献する企業に対する表彰制度を創設できるよう、政府と調整している。5月初旬、米ワシントンのシンクタンク・戦略国際問題研究センター(CSIS)のパネルディスカッションに出席した際に明らかにした。

ニーズ高し 日本の防衛装備品

政府は去年12月に改定した国家安全保障戦略で武器を含む装備品の輸出を進める方針を示した。今国会のなかで最重要法案とされる、防衛力の強化に向けた2法案「防衛財源確保法案」と「防衛生産基盤強化法案」の国会審議が行われている。

こうしたなか、自民党の安全保障調査会会長を務める小野寺氏と、大塚拓衆議院議員(自民)、國場幸之助衆議院議員(自民)が訪米して日本の防衛装備や安全保障について論じた。司会はCSIS日本担当主席クリストファー・ジョンストン氏が務めた。

友好関係にあるインドネシアやフィリピンからは、かねてから沿岸警備艇などの防衛装備品の譲渡を求められることがあったと、小野寺氏は明かした。東シナ海や沿岸地域で治安維持能力を高めることが可能となり、「日本だけでなく地域の安定」にも貢献するとした。

フィリピンとは2020年、三菱電機の防空レーダーの輸出契約を結んだ。2014年の武器輸出禁止措置解除以降、初の日本の大型防衛輸出品となり、日比二国間の装備移転計画の一環でもある。契約額は約110億円とされる。

「アジアやアフリカでは声を上げられる国と上げられない国がある。声を上げられない国の多くはロシア兵器の提供を受けている」と小野寺氏は述べ、兵器依存によって力による現状変更を行う国家に強く出ることができないと指摘。米国など価値観を共有する国々と共に、防衛装備の提供によって世界の国々への支援を考える必要があると述べた。

輸出緩和にあたっては、防衛産業の魅力を高め利益率を向上させるような策も求められている。この産業チェーンは主要な製造企業(Tier1)、その部品供給企業(Tier2)、さらにその下位の部品企業(Tier3)まで広がる。

産業全体の後押しが必要となる。納入先が自衛隊に限られれば、利益率が低く撤退が相次いだのが旧来の課題だ。

小野寺氏は、新法によって防衛産業を支援する企業が政府から援助を受けられること、また合弁事業がうまくいかない場合、国がその企業を所有することが可能となったと述べた。また、防衛装備品開発へは政府基金の支援を行う方針だ。

小野寺五典氏、2018年撮影 (Photo by LAKRUWAN WANNIARACHCHI / AFP) 

中国のミサイル発射で…沖縄世論の変化

台湾有事のリスクが浮上するなか、沖縄の安全保障はどうなるのか。南西地域における自衛隊の配備や米軍の沿岸連隊の強化について、沖縄選出の國場氏が語った。

過去10年間で与那国、奄美、宮古、石垣と自衛隊の配備が進み、2025年には「海兵沿岸連隊(MLR)」の設立が見込まれ、地域の「防衛力は抜本的に強化される」と予想した。いっぽう装備品の劣化や稼働率の整備については、沖縄特有の塩害やサビの問題を挙げ、これらに対応する努力が求められるとした。

日本の防衛予算は5年間で60%拡大し、43兆円とされる。國場氏は、目の前の2027年の台湾海峡の危機のみならず防衛産業のチェーンでは契約から生産、配備、訓練、展開までに相当時間がかかると指摘。防衛予算が国民からの支持を受け続けるためには、将来の防衛の姿を明確にして説明していくことが不可欠だと強調した。

国は沖縄県内の41の市町村に対してミサイル配備を求めたが、石垣市の中山市長を除いて他の首長から肯定的な回答は得られていないという。

一方で、中国が沖縄県の排他的経済水域(EEZ)内でミサイルを発射した事件に対しては、県内の全政治勢力が一致して中国を強く非難し、国への防衛強化要求を行ったという。これが、政府の沖縄県の防衛力強化の後押しとなった。

このほか来年の総統選挙を迎える台湾について、日本は米国と協力して台湾への支援を進めることが重要だとの認識を示した。

前出のジョンストン氏からは、米国がどのように沖縄の人々を支援し、安全保障の環境や同盟の重要性を理解してもらうためにはどうすべきかを問われた。

國場氏は、人道的支援、離島の中間輸送、災害対応などを通じて、米軍と自衛隊が一緒に取り組む姿勢を示すことが重要だと答えた。これが、今後の協力を進める上でのきっかけとなると信じていると語った。

会場の記者からは、中国による台湾への経済的威圧について質問があった。

大塚氏は、G7はロシアと中国に対して、軍事的衝突や経済的威圧を通じた目標達成は許されないという明確なメッセージを送るべきだと述べた。また、中露の経済威圧を受けている国を支援する多国間の枠組みが必要だと提言した。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。