スパイ気球だけじゃない…中国共産党の対米スパイ活動(上)

2023/02/11
更新: 2023/04/19

中国共産党が偵察用に飛ばした気球「スパイ気球」をめぐり、米国では中国による監視強化の懸念が高まっている。

しかし、米国の弱体化を目論む中国共産党のスパイ活動はこれに留まることはない。

一党独裁体制を敷く中国は人的情報収集、越境弾圧サイバー攻撃、知的財産の窃盗、遺伝子の採取などを行い、米国包囲を着々と進めている。

ある退役空軍大将は次にように語っていた。「米国社会へのアクセスを少しでも許せば、(中国共産党は)その機会を利用して米国社会を弱体化させるだろう」

人的情報収集と越境弾圧

中国共産党の対米スパイ活動の中で注目すべきは、情報源となる人物に接触しスパイ活動を行う「人的情報収集(HUMINT)」だ。

中国共産党のHUMINTネットワークは、米国社会の様々なレベルに浸透しており、その多くは中国当局の最高情報機関である国家安全部が直接監督している。

最も悪名高い事例のひとつが、中国国家安全部のスパイ、方芳(ファン・ファン)氏によるハニートラップ事件だ。彼女は大学生を装い、市議会議員時代のエリック・スウォルウェル議員を含むカリフォルニア州などの多数の政治家と関係を築き、そのアクセス権を利用して政治家の情報を収集したという。方芳氏は、恋愛関係や性的関係を持った少なくとも2人の中西部市長をターゲットにしていたと報じられている。

しかし、こうしたスパイ活動の標的となるのは政治家だけではない。中国共産党は影響力を行使し、同党に異論を唱える中国系アメリカ人に越境弾圧を行っている。

昨年には北京冬季五輪に出場した米国のオリンピックフィギュアスケート選手とその家族が中国共産党の「秘密工作員」によるスパイ活動の標的なっていたことが判明したほか、中国スパイがニューヨーク警察官と共謀してアジア系アメリカ人コミュニティの情報を収集していたとされる。

連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は、中国の工作員とその代理人が米国住民を積極的にストーキングし、車や家に盗聴器を仕掛けていたと非難した。

ニューヨークにある中国非公式海外警察が入居していたビル(Mario Tama/Getty Images)

サイバー攻撃

中国共産党は、サイバー攻撃や偽情報の流布などを通じて米国の防衛情報を不正に収集し、米国市民の間に分断の種をまいてきた。

レイ長官は昨年、重要な機密情報を盗むことを目論む中国共産党を「世界最大の悪質なサイバーアクター」と呼び、中国側がハッキング行為を通じて盗んだ米国民や企業の情報は、他の国の合計よりも多いと非難した。

2021年には中国共産党の支援を受けた疑いのあるエージェントが米国政府部門をハッキングし機密防衛情報を盗んだほか、中国共産党の支援を受けたハッカーが複数の米国電気通信会社に侵入し、機密情報を盗み出したケースもある。

これらの事件は、米国防当局が長年警告してきたことを浮き彫りにしている。つまり、中国政府は米国の軍事力を転覆させる技術を開発し、米国の最先端技術を中国に強制移転させる目的で、米国の戦法を研究しているのである。

米国の機密個人情報も重要な標的になっている。米国人事管理局、信用調査会社エクイファクス、マリオットホテル、米医療保険大手アンセムなどに対して中国が長年にわたって繰り返してきた大規模なハッキングにより数億人の米国人の個人情報が盗まれた。

政府関係者や専門家は、中国当局が膨大な米国人の個人データを使って、スパイ活動や海外への影響力工作を行い、人工知能技術を構築していると述べている。

ソーシャルメディアとテレコミュニケーション

中国共産党はまた、同国のソーシャルメディアや大手通信企業を利用して無防備な米国民の個人情報を盗んでいる。

中国のハイテク大手バイトダンスが所有する動画投稿アプリ「TikTok」は、おそらくこの最も顕著な例だろう。

米国情報機関の指導者は同アプリを「国家安全保障上の脅威」と表現し、セキュリティ専門家は「兵器化した軍事アプリ」と呼んでいる。TikTokは中国共産党が定めた政治的敏感な内容を検閲し、中国人エンジニアに米国ユーザーの個人情報へのアクセスを許可している。中国共産党の法律では、中国企業は要求に応じてデータを政府に提供することが義務付けられているため、米当局は同アプリについて繰り返し警鐘を鳴らしている。

昨年12月には、バイトダンスの従業員がTikTokの位置情報を利用して、米国のジャーナリストを追跡していたことが明らかになった。

2022年12月20日、カリフォルニア州にあるTikTokのオフィスで表示されるアプリロゴ(Mario Tama/Getty Images)

中国のソーシャルメディアアプリがもたらす国家安全保障上のリスクは、電気通信を含む他のハイテク企業にも当てはまる。近年、米国はこうした理由から、華為技術(ファーウェイ)やZTE などの中国通信会社への取り締まりを強化している。

ファーウェイとその社員は、中国軍や諜報機関と深いつながりがあることが判明している。連邦検察は同社を企業秘密窃盗の共謀罪で起訴し、カナダ政府は同社が中国共産党のスパイを積極的に雇用していると非難した。また、同社は2012年、オーストラリアと米国のネットワークに対する秘密攻撃に積極的に関与していたと伝えられている。

(つづく)

エポックタイムズ特派員。専門は安全保障と軍事。ノリッジ大学で軍事史の修士号を取得。