「硬いクルミ」のインド市場 中国に代わる成長エンジンとなりうるのか

2022/07/03
更新: 2022/07/06

かつて外資系企業がこぞって参入した中国市場は、ゼロコロナ政策に代表される中国共産党の高圧的な政策により輝きを失っている。では、外資が割り入りがたい「硬いクルミ」と例えられるインド市場は、中国に代わってアジア経済の成長エンジンとなりうるのだろうか。

米国のバイデン大統領は5月23日、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を発足させた。同協定は「インド太平洋地域の経済の強靱性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性、競争力を高めること」を目的とする。新しい枠組みのメンバー国には、日本、韓国、オーストラリア、シンガポールなどに加え、急速な経済成長を遂げるインドも含まれている。

中国一辺倒のアップル社はインドへ傾斜するのだろうか。写真はバンガロール付近のiPhone工場  (Photo by MANJUNATH KIRAN/AFP via Getty Images)

米国商務部のレモンド長官はIPEFの発足について「ますます多くの企業が中国以外の選択肢を探し始めるにつれて、インド太平洋枠組みに参加する国々は米国企業にとってより信頼できるパートナーとなるだろう」と述べた。確かにレイモンド氏の言う通りだ。

世界に跨る巨大なビジネスの多くは中国を中心に展開されてきたが、この趨勢にも陰りが見え始めている。多くの企業は中国以外の市場を求めるようになり、「出国」の機会を伺っている。もしかすると、インドは中国に代わる、持続可能で魅力あふれる選択肢となるかもしれない。そうだとすれば、2027年には中国を抜いて世界一の人口を抱えると予想されているインドが、アジアの新たな経済・工業大国になる可能性が出て来る。中国(より正確に言えば中共)はあまりにも長い間アジアで主導的な地位を占めてきた。

エコノミスト誌は報道のなかで、中国が「経済を管理する実効性的な方法を失いつつある」と指摘した。中国共産党のイデオロギー的に凝り固まった追求は、現実世界の「経済的・地政学的現状」を意図的にあるいは無意識に無視したものにほかならない。

多くの企業(特に米国企業)は、中国で事業を展開することは、リターンよりもリスクのほうが大きいことに気づいている。中国でビジネスを行う企業は中国共産党に完全に服従しなければならず、すべての愿望と要求に屈する必要がある。服従こそすべてであり、相談の余地はない。

中国当局が厳しいゼロコロナ政策を続けるなか、Airbnbは撤退を決断した (Photo by LIONEL BONAVENTURE/AFP via Getty Images)

中国共産党がゼロコロナ政策を継続することで、北京や上海などの主要都市では数百万人が「軟禁」され、海外渡航する余力のある者は中国を後にした。そのなかにはアップルやAirbnb(エアビーアンドビー)のような大手企業も含まれている。

新しい国際的枠組みであるIPEFの発表からわずか数時間しか経たないうちに、Airbnbは今後数カ月のうちに同社のプラットフォームから中国の物件を削除すると発表した。いっぽう、米CNBCの報道によると、Airbnbはインド市場により多くの投資を行っている。

公式ホームページでの発表によると、Airbnbは「アジアのシリコンバレー」との呼称で名高いベンガルール(旧称:バンガロール)に技術拠点を開設した。初期人員数百名を擁するこの拠点は「地域の熟練した雇用を創出するため」に設立されたものであり、将来的に規模を拡大する計画もあるという。

アップルも重心を中国からずらそうとしている。インドの経済紙「Livemint」は「アップル社の製造計画に詳しい情報筋」の話として、アップルの幹部はインドを「新しい中国」と見ていると報じた。

人口の多さと生産コストの低さから、インドは中国と比べてはるかに魅力的で友好的な選択肢のようだ。

記事によると、アップルは最近、北京当局の高圧的なゼロコロナ政策を念頭に、一部の契約メーカーに対して共産主義国以外での生産を増やすよう指示している。これは色々な意味で重要な転換だ。事実、iPhone、iPad、MacBookなどのアップル製品の90%以上は中国で製造されている。

アップルは中国との関係を断ち切りたいようだ。遅いものの、決断しないよりはましだろう。中国共産党は、米国とその多くの同盟国に対する直接的な脅威である。すべての欧米企業、特に米国企業は、成長のために中国国外に目を向けている。

インドはこれらの企業に新たな居場所を提供することを望んでいるようだが、ビジネススタンダード紙のバズワール・クマール氏は、インド市場は割りにくい「硬いクルミ」だと警告している。中国でのビジネスは難しいが、競争の激しいインド市場に進出することは並大抵の努力では不可能だ。

クマール氏によると、米小売大手のウォルマートは2020年、インドに常駐する56人の幹部を解雇した。この動きは「インドで小売事業を拡大する上でウォルマートが直面している課題を浮き彫りにしている」という。

世界売上高8位の仏小売チェーン「カルフール」は、ウォルマートがこの決定を下す6年前にインド市場から完全に撤退していた。インドの厳しい競争環境の中で生き残ることができなかったのだ。カルフールは魅力的で収益性のよい企業だが、Airbnbやアップルとは異なる。カルフールは小売だ。いっぽう、Airbnbやアップルはリアルな体験や新しいライフスタイル、比類のないブランド性を提供している。

この原稿はニューデリー滞在中に書いたものだ。ここでは富裕層と貧困層の格差が大きく、社会問題となっている。いっぽう、多額の可処分所得を持つインドの中産階級は増加しており、ぜいたく品市場でその購買力を発揮している。

インドは確かに割りにくい「硬いクルミ」だが、その市場に割って入ることができた企業は一儲けできるだろう。何より重要なのは、インド市場への進出に成功すれば、もはや中国共産党に屈従する必要がなくなるということだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
研究者、エッセイイスト。「ニューヨーク・ポスト」や「シドニー・モーニング・ヘラルド」「ニューズウィーク」などに寄稿歴多数。