RCEP、締結国の安保利益のためのデータ処理を容認 情報安全保障のリスクが浮き彫りに

2021/04/05
更新: 2021/04/05

日本と中国、韓国、ASEAN諸国、豪州、ニュージーランドの15カ国による地域的な包括的経済連携「RCEP(アールセップ)」は、締結国が越境するデータについて「自国の安全保障上の重大な利益を保護するために」処理することは認められているという。4月2日の衆議院本会議の質疑で明らかになった。共産党政権の中国は、日本を含む諸外国のデータを恣意的に操作しかねない。RCEPにおける情報安全保障のリスクが浮き彫りとなった。

RCEPのチャイナリスク

4月2日、衆議院本会議で国民民主党・山尾志桜里議員が代表質問を行った。山尾議員は、中国を念頭にRCEPの加盟国には「適法性・公正性・透明性といった根本的なデジタル原則を必ずしも共有していない国が含まれている」と問題提起。中国に加え、軍事政権となったミャンマーなど人権侵害問題のくすぶる加盟国があるRCEP加盟については慎重を要するとし、国内手続きを進めることを見直すよう呼びかけた。

茂木外相は、RCEPのデジタルルールについて「情報の越境移転の制限、コンピューター関連施設の設置要求の禁止、電子商取引を促進するための規定が盛り込まれている」としながらも、例外として、締結国が「自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であるとして措置を講じること」は認められていると回答した。

中国共産党は「安全保障上の重大な利益」に抵触する場合、恣意的に外国人を拘束したり、外国企業に対して報復課税などを行ったりすることで知られている。

例として、スパイ行為を疑われた日本人男性が2019年、懲役15年と160万円相当の個人財産没収の実刑判決を受けた。男性は千葉県船橋市の地質調査会社の関係者で、当局の許可を得て調査を行っていた。一連の事件で9人が起訴され、この男性を含む7人に実刑判決が下された。容疑は、「中国の国家機密情報を窃取し、国外に違法に提供した罪」だが、どのような行為が容疑にあたるかの詳細は説明されていない。

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所主任研究員の浜中慎太郎氏は、同所の分析記事で、RCEPの大きな問題点を2点指摘している。一つは、外国政府(たとえば中国政府)の政策変更で、日本企業の投資効果が見込めなくなった場合、企業側が受入国政府に補償を要求できる紛争解決メカニズムがないことだ。いっぽう、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)には紛争解決手段が用意されている。

もう一つは、電子商取引に関するデータ・ローカライゼーションの禁止に拘束力がないことだという。サーバー設置要求の記載があるものの、そのルールが破られた場合の紛争処理やルール履行を保証できない。

山尾議員は、韓国や中国のサーバーに画像データや取引情報が保管されていたLINEの問題、日本郵政と資本・業務提携した楽天が、中国政府とのつながりも強いテンセントから出資を受けたことによる情報流出への懸念を列挙。情報は自由化よりも「個人情報保護やサイバーセキュリティなどの観点から、規制を求めるべきではないか」と述べた。

RCEP加入よりまずは法整備を

さらに、山尾議員は、2020年4月の習近平主席の演説を引用。人権弾圧を理由とした経済制裁を困難にするために、中国には国際サプライチェーンの対中依存を強める計画があると指摘した。人権侵害制裁法や企業の人権デューデリジェンス(人権侵害に加担しないよう事業公開を義務付ける)法制がない日本で、中国との経済的結びつきを強めるRCEPを推進することに疑問を呈し、この2つの関連法制定の検討を求めた。

茂木外相は、日本における人権侵害制裁法の導入について、国際情勢と日本の人権外交の取り組みから「不断の検討が必要」と言うにとどめた。政府は、人権デューデリジェンスは、昨年「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020ー2025)を発表し、企業活動の人権促進を図っている、と答弁した。しかし、この計画には企業に対して状況公開などを義務付けていない。

RCEP参加15か国のGDPの合計は、2020年ベースで26兆2850億ドル、世界全体の30%、参加国の貿易総額(輸出額ベース)は5兆4790億ドルで世界輸出の36.1%を占める。また、人口の合計は約22億6000万人で、世界全体の29.4%を占める。報道によれば、中国とタイはRCEP協定を国内承認している。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。