一帯一路 臧山コラム

民族問題から見る「一帯一路」の難しさ

2017/07/15
更新: 2017/07/15

中国との国境からほど近いカザフスタンの都市、アルマトイで、5月から中国に対する抗議活動が立て続けに起こっている。カザフスタンが中国当局の進める「一帯一路」大プロジェクトの中で、最も重要な国の一つとして位置付けられている。一体、何が起きているのか。

実は、抗議の声を挙げているのは、中国からカザフスタンに越境してきた多数のカザフ人だ。

彼らの抗議活動の焦点は主に2つで、一つは新疆ウイグル自治区政府が、同自治区内のカザフ人が所持しているカザフスタン政府が発行したグリーンカードを取り上げ、彼らの所持している中国のパスポートを回収したこと、もう一つは、中国国内のカザフ人に対する弾圧政策だ。

例えば、あるカザフ族のイスラム教聖職者は、農村でイスラム式葬儀を行ったというだけで、当局から過激派とみなされ有罪判決を受けた。しかもその後、(イスラム教の男性にとって大事な)あごひげをそり落とされた後、見せしめのため町中を引き回された。

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さらには、あるカザフ族が微信(WeChat、中国のSNS)上にある歌のページを開いただけで、新疆当局に拘留されるという事件も起きた。この曲を歌っているのはカザフスタンの有名な歌手で、旧ソ連が行っていたイスラム教徒弾圧政策を風刺したものだと言われている。

新疆からカザフスタンへ移民増加

1991年に旧ソ連から独立したカザフスタンは、人口の減少に歯止めをかけるべく、カザフ人の「祖国帰還」政策を開始した。カザフ族であれば世界のどこからでも無条件でカザフスタンに居住でき、同国の国籍を取得することができるが、開始後の10年間で、中国からカザフスタンに移住したのは数千人にとどまっていた。

だが、09年からは中国からカザフスタンへの移民数が大幅に増加した。11年にはカザフスタンのパスポートを所持する新疆ウイグル自治区のカザフ人は3万人に増え、16年には10万人を超えた。カザフスタンの永住権を取得した者やカザフスタン国内で就労している者は20万人に達した。新疆のカザフ族の人口は約130万人。つまり、少なくともその1/4がカザフスタンへの移民に転じたことになる。

こうしたなか、新疆当局は昨年末にすべてのカザフ族の中国パスポートを没収し、彼らの出国を禁止する措置を取った。続いて今年2月には、新疆ウイグル自治区内のカザフ人が所持しているカザフスタン政府が発行したグリーンカードも取り上げた。

カザフ族も対象か 民族弾圧の幅広げる中国共産党当局

中国が新疆ウイグル自治区で抱えている主な問題は、ウイグル族が自分たちをトゥルク人の流れを汲む民族だと自認していることだ。彼らは中国から「東トルキスタン」として独立することを主張している。

 

中国が新疆で行っている東トルキスタン独立運動鎮圧政策の主なターゲットはウイグル族だが、近年は他の民族に対しても弾圧の手を伸ばすようになった。同じようにトゥルク系の言語を持ち、イスラム教を信仰するカザフ族も、ウイグル族同様に当局の弾圧という大きな脅威にさらされている。

現在、世界のほとんどの国が民族単位で構成され、昔の帝国のように周辺の異民族も取りまとめて統治する現代国家はごくわずかだ。中国は、そのわずかな国の1つだ。

しかし中国の場合、共産党の一党独裁体制が行われた結果、それぞれの民族の文化や習慣にあわせて協調を重んじる政治ではなく、武力や権力で他民族に対して単一体制の圧政が敷かれるようになった。少数民族の弾圧は、新疆やチベット、内モンゴルなどの地域で特に突出している。

カザフスタンは現代版シルクロード「一帯一路」の重要国

「チベット文化は風前のともしび」
中国共産党による民族同化政策で

興味深いのは、カザフスタンが中国当局の進める「一帯一路」大プロジェクトの中で、最も重要な国の一つとして位置付けられているという点だ。北京の中央政府は、中央アジアの中核国家が中国へ敵意がむき出しになっている状況を受け入れることはできない。

そのため、中央政府は新疆当局に対し、自治区内のカザフ人のグリーンカードとパスポートを返還するよう素早く通達し、カザフスタン内で高まっている中国に対する不満を解消させるよう求めている。

一連の事件全体を別な視点から眺めてみると、中央政府の進める「一帯一路」構想の実現がいかに難しいものであるかが分かる。「一帯一路」で網羅される国の数は60カ国で、そのうち20カ国が重要国家に位置づけられている。一帯一路を実現させるためには、中国はどの国の機嫌も損ねるわけにはいかないのだ。

中央政府が今後、この一帯一路構想の実現に向けて、どのような手綱さばきを取ろうとも、決して生易しいゲームにはならないだろう。

(翻訳編集・島津彰浩)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。