天安門事件後、_deng_小平はこう明言した。「軍が力強く守ってくれなかったら、中共はきっと滅びってしまったにちがいない」
暴力と宣伝を、独裁統制を守る基本かつ最重要な手段とする中共は、危機に瀕すれば瀕するほど、この2つの力に頼らなければならなくなる。逆に言えば、中共の危機が深刻になればなるほど、軍部にとってより有利になり、中央から利益や権力を得る絶好のチャンスとなる。
中東・北アフリカの民主化革命がもたらした危局が、軍部に新たな好運をもたらしている。
■胡錦涛の急所
胡錦涛にとって、当面の課題は2つある。1つは来秋に開催される中国共産党第18回全国代表大会(18大)で、自身の腹心をより多く権力中枢に配置し、軍部の下心を丸め込み、江沢民派の攻勢から不敗を守り切ること。もう1つは、せめて18大まで混乱なく乗り切り無事に引退することだ。
彼のこの願いは、それを実現するためのカギとなる軍隊にとって格好のかけ引き条件となり、いわば胡錦涛の急所が握られた形となったのである。
中東・北アフリカの民主化革命の波及により、中共は深刻な危機に陥っている。この危機をテコにして、インフレなどを理由にさらなる賃上げを軍部は要求したが、なんと指導部は躊躇せずにこの要求に速やかに応諾したのである。
先月2日付けの中国国内紙の報道によると、軍人の給料は昨年下半期から増額され、士官は一律40%引き上げ、将官は平均1000元増額されるという。現在開会中の全国人民代表大会(全人代)で出される本年度の軍事予算は、昨年比で12.7%増の6011億元まで引き上げられる。
また江沢民の例に倣って、軍の反骨を避けて自らの手中に収めるように、胡錦涛は引退前になるべく多くの大将に称号を授与している。最近、中堅軍人の昇進機会を年1回から年2回に増やすよう命じた。そうなれば毎年100人ほどの大佐が将軍に昇格することになる。
■習近平も軍を抱き込む
次期指導者の習近平にも2つの課題がある。18大まで何の騒ぎもなく、そのまま穏便に中共の最高地位に上り詰めること、そしてその後、自分の地位と権力をさらに強化することだ。
そのため太子党出身の習氏は、昨年10月に軍事委員会副主席に選出されてからは、非軍人である太子党との絆を深めつつ、軍との関係強化に力を入れ続けている。
香港リンゴ日報によると、中国人民解放軍「第12次5カ年計画」の編成において、習近平は重大な役割を果たした。たとえば、軍事費を国内総生産(GDP)比1.5%(実際は大幅に上回っている)から2.8%ほどに引き上げたことがあげられる。また、毛沢東の理論である「平時戦時合一」に基づいて、軍の5カ年計画では、武器の開発や製造にあたって、軍は国営あるいは民営の研究開発の資源を最大限に利用することができ、かつ先端武器の研究、開発のために非軍人のエリート研究者を特別徴集できるようにしたという。
これらはいずれも、習近平が軍の心をつかむための策略と思われるが、逆に言えば、彼も非常時に胡錦涛同様、軍に弱みを握られたことになる。
軍部の政治権力増強によって、より強硬な手腕が施されがちだが、そのために中共体制内の政治組織的進歩を求める声が殺されていくことになるだろうし、社会の情緒が発散され、社会的な矛盾も解消される通気孔すら塞がれてしまう。そうなれば、中国はより複雑で危険な情勢に導かれていくだろう。
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