熊本地震で、事業者間ローミング「JAPANローミング」と無料公衆Wi-Fi「00000JAPAN」が同時に動いた。つながらないリスクを二重で防ぐ災害通信網の仕組み、使い方、注意点を整理する。
7月28日午後、熊本県を最大震度7の地震が襲った。携帯電話の基地局が停電や故障で相次いで停波するなか、この4月に本格運用が始まったばかりの事業者間ローミング「JAPANローミング」が、実際の災害現場で初めて発動した。
あわせて無料公衆Wi-Fi「00000JAPAN」も熊本県全域で開放され、契約会社を問わず誰もが通信できる状態が整えられた。10年前、同じ熊本の地で産声を上げた日本の災害通信網が、いま二段構えでその真価を問われている。

何が起きたか
令和8年熊本地震は、7月28日午後4時27分に発生した。気象庁マグニチュード7.1、震源の深さは約16キロ。八代市や人吉市などで通信インフラに深刻な影響が出た。
総務省が同日午後5時40分時点でまとめた被害状況によると、KDDIでは県内の基地局28局が停電や伝送路の故障で停波した。NTTドコモも八代市の一部で音声通話やデータ通信が利用しづらい状態に陥った。被災直後、最も必要とされる「連絡を取る手段」そのものが断たれかけたのである。
この空白を埋めるべく、性格の異なる二つの仕組みが動き出した。
「JAPANローミング」 他社の電波を借りて通話を続ける
JAPANローミングは、契約している携帯会社の電波が使えなくなったとき、端末を自動的に他社の回線へつなぎ替える仕組みである。今回、ドコモとKDDIが自社ユーザー向けに提供を開始した。
注目すべきは、これが「初の実戦投入」だという点だ。大手4社が連携する本格運用はこの4月に始まったばかりで、大規模災害の現場で実際に発動したのは今回が初めてとなる。制度としての備えが、ようやく現実の試練を迎えた格好である。
提供されたのは、通話もデータも代替できる「フルローミング方式」だ。対応スマートフォンなら基本的に自動で切り替わり、画面のアンテナ表示が「JPN-ROAM」に変わる。緊急通報を含む音声通話、SMS、そして送受信最大300kbpsのデータ通信が使える。
ただし万能ではない。
– Android端末でデータ通信を使うには、設定で「データローミング」を手動でオンにする必要がある。
– 0120・0570などのサービスダイヤルや、7119(救急相談)・9110(警察相談)といった短縮ダイヤルは利用できない。
– MVNO(格安SIM)の利用者は音声通話とSMSのみで、データ通信は対象外となる。
– 利用が終わったら、設定を「自動選択」に戻す必要がある。
速度が絞られているのは、殺到する被災者の通信を限られた他社回線で分け合うための措置であり、「まずはつながること」を最優先した設計思想がうかがえる。
「00000JAPAN」 誰でも、無料で、パスワードなしで
もう一つの柱が、無料公衆Wi-Fi「00000JAPAN」(ファイブゼロ・ジャパン)だ。ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、Wi2などが、通常は契約者だけに開放しているWi-Fiスポットを一斉に開いた。7月30日時点の提供エリアは熊本県全域に及ぶ。
使い方は拍子抜けするほど簡単で、スマートフォンやパソコンのWi-Fi一覧から「00000JAPAN」を選ぶだけ。IDもパスワードも要らない。
この仕組みは、2011年の東日本大震災の教訓から生まれた。業界団体が2014年5月にガイドラインを制定し、2016年4月の熊本地震で世界に先駆けて商用環境での運用が始まった。2018年の大阪北部地震で利用者が急増し、いまや地震や豪雨のたびに開かれる「災害時の生命線」となっている。
一方で、手軽さは危うさと表裏一体だ。緊急時の利便性を優先するため通信が暗号化されておらず、内容を盗み見られる恐れがある。「00000JAPAN」を装った偽のアクセスポイントにも注意が必要だ。専門家は、利用を安否確認や情報収集など最小限にとどめ、クレジットカード番号やパスワードの入力は避けるよう呼びかけている。

役割は補い合う関係にある。屋外を移動しながら安否を伝えたい局面ではローミングが、避難所などで腰を据えて情報を集めたい局面ではWi-Fiが力を発揮する。
なぜ「熊本」なのか 10年越しの因縁
象徴的なのは、この二つの仕組みがいずれも10年前の熊本地震(2016年)と深く結びついている点である。00000JAPANが初めて商用運用されたのも、当時の熊本だった。防災インフラが試された同じ土地で、10年を経て、より進化した備えが再び試されている。
さらに産業技術総合研究所の解析によれば、今回の地震は布田川・日奈久断層帯の一部区間がずれて発生した可能性がある。一部の専門家は、10年前の地震で「割れ残った」断層が動いたとの見方を示している。ただし断層の評価は暫定的な解析段階にあり、今後の調査で見方が変わる余地がある点には留意したい。
災害時に備えて知っておきたいこと
携帯4社は、被災地向けにデータ通信の無償化などの支援も打ち出した。ドコモは7月28日から8月31日まで「災害時データ無制限モード」を適用し、容量上限に達した利用者の速度制限を解除する。災害救助法は熊本市・八代市・宇城市など21市町村に適用されており、対象地域が広がれば支援も拡大される見通しだ。
安否確認には、こうした新しい仕組みに加え、各社の災害用伝言板や災害用伝言ダイヤル(171)も併せて活用したい。備えは、一つより二つ、二つより三つ。今回の熊本は、その積み重ねが現場でどう機能するかを映す試金石となっている。
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