「完全統制」を誇る中国のネット界で、まさかの「指令バトル」が起きているようだ。
発端は、中国の動画サイト「ビリビリ」で働く審査員の「嘆き節」だった。曰く「この話題を広めろ」と命じられたその翌日には、「全部消せ」という真逆の指令が届いた。それでも上司はお構いなしに「広めろ!」と声を張り上げ、現場は振り回されるばかりで、混乱は深まる一方だったという。
問題の発端は、中国政府が発表した「Kビザ(外国人の技能労働者を呼び込む狙いで新設)」制度だ。海外の研究者を優遇する内容に対し、国内では「外国人ばかり優遇するな」「自国の博士ですら職がないのに」と批判が殺到し、炎上した。
そのさなか、宣伝を統括する中国共産党(中共)中央宣伝部は「国の新政策を持ち上げろ」と指示。審査員たちは9月29日付のメールで、「Kビザ関連の動画を優先的に表示し、好意的なコメントを上位に」との命令を受けたという。たとえば、体制寄りの動画をランキング上位に押し上げ、官製メディアの再生数を数十万回規模にするよう求められた。
ところが翌30日には事態が一変する。今度はネット検閲を担当する国家インターネット情報弁公室から、「Kビザに関する投稿はすべて削除せよ」との新たな命令が届いたのだ。「上は広めろ、下は消せ」との指令に、審査員たちは「どちらを信じればいいのか」と頭を抱えたという。
そして10月1日、さらなる混乱が襲う。「すべてのコメント欄を統制せよ」との通達が出る一方で、上司はなぜか「やっぱり推せ!」と騒ぎ立てた。ほどなくして今度は、「検索結果をすべて官製メディアの記事に差し替えろ」という新たなメールが届く。
こうして検閲チームの現場では、「広めては消す」を延々と繰り返すことになった。最終的には検索結果が官製メディア一色となり、ネット上では「統制どころか迷走中」と失笑が漏れた。
こうした内輪の対立は、俳優・于朦朧(アラン・ユー)氏の死亡事件でも見られる。微博(ウェイボー)や抖音(中国版TikTok)、小紅書(RED)などでは関連情報が一斉に削除されたが、ビリビリでは事件の「内幕」動画が次々と投稿され続けているのだ。
世論をコントロールするはずの人たちが、いちばん混乱している。どうやら、統制すべきは世論よりも、まずは上司同士の感情のようだ。

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