米当局は、中国から流入している新たな合成オピオイドがフェンタニルの最大50倍もの効力を持つとして警告を発している。ニタゼン系薬物は、オピオイド過剰摂取を逆転させる薬であるナロキソンに対して耐性が強く、新たな脅威となっている。これらはしばしば他の薬物と混合され、ザナックスやパーコセットなどの薬物に偽装された偽造錠剤の形で流通していると当局は指摘する。米麻薬取締局(DEA)ニューヨーク支局長のフランク・タランティーノ氏は、中国発のニタゼンが違法薬物市場で存在感を増していると述べた。
タランティーノ氏は9月10日のエポックタイムズ姉妹メディア「NTD」とのインタビューで、「米国内ではヘロインやメタンフェタミン、場合によってはフェンタニルに混入され、さらに懸念されるのは錠剤に加工されていることである」と語った。彼はまた、「国際的に活動するカルテルや犯罪組織は、意図的にフェンタニルやニタゼンを薬物に混ぜて中毒性を高め、依存を生み、利益を拡大している」と述べた。販売は街頭やインターネット、SNSを通じて行われており、本当に安全に処方薬を入手できるのは正規の薬局だけだと警告した。
中国企業やメキシコのカルテルは、フェンタニル生産と流通への圧力が強まる中で、安価な合成オピオイドであるニタゼンへと傾きつつある。DEAヒューストン支局の広報担当サリー・スパークス氏は、中国からのフェンタニル前駆体化学物質に対する取り締まり強化を受け、一部のカルテルがニタゼンに切り替えていると指摘した。スパークス氏は「街頭レベルの売人もフェンタニル、ヘロイン、コカインに混ぜている」と語った。
トランプ前大統領は政権下でフェンタニル危機への対策を重点課題とし、中国やメキシコに関税を課し、メキシコのカルテルをテロ組織に指定するなど対抗措置を打ち出した。連邦議会は2024年7月にHALTフェンタニル法(フェンタニル規制恒久法)を可決し、トランプ大統領が署名した。同法はフェンタニル関連物質を恒久的に規制物質法のスケジュールIに分類し、所持・流通への刑罰を強化するものである。
フェンタニルと同様に、ニタゼンの製造も中国と関係している。2023年、米司法省は中国企業およびその従業員がニタゼンを米国およびメキシコに輸入したと発表し、8件の起訴を行った。司法省は「密売人は通常、プロトニタゼンやメトニタゼンをフェンタニルなど他のオピオイドと混ぜ、より強力な新しいカクテルを作っている」としている。米州薬物乱用防止委員会によれば、その製造方法次第でフェンタニルやヘロインの最大50倍の強さになるという。
ニタゼンは研究者を除いてほとんど知られていなかったが、フェンタニル製造と流通への圧力が高まる中で流通し始めた。この薬物群は1950年代に開発され、2019年にヨーロッパの違法市場に登場、やがて米国などへ広がった。米フェンタニル危機の中心地であるウェストバージニア州薬物対策局長のスティーブン・ロイド博士は、数年前にフェンタニルと混合され話題となった動物用鎮静剤キシラジンのように、ニタゼンが新たな脅威として台頭していると述べた。
疾病対策センター(CDC)によれば、ニタゼンの過剰摂取から命を救うにはより多量のナロキソンが必要とされる。CDCの暫定データでは、2024年2月から2025年1月にかけて、フェンタニルが主因の薬物過剰摂取死は全米で約25%減少したが、18歳から44歳の年齢層で過剰摂取は依然として死因の首位を占めているという。
ロイド博士は、安価に製造できる合成オピオイドの「レシピ」がインターネット上に存在し、麻薬カルテルや犯罪組織は、ネットに掲載されたレシピと安価な原材料を用い、化学の素養を持つ人物を雇うだけで大量の合成オピオイドを製造できてしまうと指摘した。
ウェストバージニア州での過剰摂取死の大半は複数の薬物が原因であり、たとえばヘロインにはフェンタニルやニタゼンが含まれているという。「彼らは市販のブレンダーで混ぜ合わせている」とロイド博士は述べた。ニタゼンは2023年1月から2025年4月までに全米で1万8千件以上の致死・非致死の過剰摂取救急対応に関係していると国家薬物早期警戒システムは報告している。特にバージニア州、サウスカロライナ州、ジョージア州など東海岸の州が深刻な影響を受けている。
最近ではテキサス州でも注目を集めており、DEAヒューストン支局は過去18カ月間にニタゼン、とりわけN-ピロリジノ・プロトニタゼン(通称パイロ)が関与する致死的薬物中毒が急増していると発表した。パイロはフェンタニルより25%強力とされる。ヒューストン、サンアントニオ、オースティンでニタゼンが混入された薬物が押収されており、特にヒドロコドンやパーコセットに偽装した錠剤が多いという。今年だけでヒューストン地域で少なくとも11件の死亡例が確認され、被害者の年齢は17歳から59歳に及んでいる。さらに東テキサスの農村部では、16歳の少女が過剰摂取で死亡し、当初フェンタニルによると見られたが、実際にはパイロだったと判明した。
ロイド博士は、新たな違法薬物は次々に現れると述べ、カルテル対策が必要である一方で、本当の解決策は依存症治療だと強調した。「人々を治療し需要を減らさなければならない。そうしなければ供給は必ず需要に対応してしまう」と述べた。
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