新年早々、中国のある高校前には、数万の市民が集結し「不可解な死を遂げた高校生の真相究明」と「警察に逮捕された遺族の釈放」を求め、当局による世論統制と鎮圧に抗議した。
市民に暴力を振るうなどして鎮圧を行う警察に民衆は集団で反撃し、まさしく「官民大戦」が繰り広げられた。
警察は一度は「負け」たが、当局は現地の高速道路を閉鎖して援軍(外省から駆け付ける抗議の市民)の到来を断った。
「高校生の不審死」をきっかけに勃発したこの大規模な抗議運動はいまもなお収束していない。
(抗議する市民を殴打する警察)
「事件」
今月2日、中国陝西(せんせい)省渭南(いなん)市の男子高校3年生、党昶鑫(とうちょうきん)17歳が学校内で死亡した。学校名は全寮制の「陝西蒲城県職業教育中心」だ。
党くんの遺体の首に絞められたようなアザなどがあったことから、遺族は「いじめに遭って殺されたのではないか」と疑い、中国SNSに多くの投稿をしているが、弾圧されている。
事件後、学校側は遺族と遺体の対面を許さず、また学校の監視カメラ映像の提供を求めた遺族の要求に対しても「カメラは壊れていた」と拒否した。しかし、後に学校に突入した市民によって、カメラは壊れておらず、学校側が提出を拒否した映像もあったことを確認している。
同じ学校に通う多数の学生によれば、事件直後の夜、寮の電気は突然切られ、学生たちの携帯電話は全部没収された。学校は生徒に対して、「この事件に関係するすべてのチャット履歴や動画の削除」を求めていたという。
事情を知る者によると、「過去にもいじめられていた党くんはその日、現地の有力者の子女を含む複数の生徒によって暴行され、建物の上から突き落とされた」という。
しかし、学校側は「自殺」と断定、現地当局も「墜落事故で事件性なし」と主張し、真相究明を求める遺族や世論を完全に無視して弾圧した。
学校側の行為は遺族や生徒の不満に火をつけ、1月4日以来、遺族と一部市民は、学校前で抗議を行うようになった。
「納得のいく説明をしろ!」
徐々に、抗議活動に加わる市民の数はどんどん増え、ついには事情を知った県外の民衆まで抗議活動に参加しようと、遠くから駆け付けるようになった。
中国国内の人権問題を長年追いかけている著名ブロガー「昨天/(@YesterdayBigcat)」が公開した動画(1月5日夜)のなかには、学校で抗議する大勢の市民の姿があった。その数は数千人といわれている。
(1月5日、学校で抗議する市民。「昨天/(@YesterdayBigcat)」より)
目撃証言によると、5日夜の抗議のきっかけは、「遺族が警察に連行され、暴行を受けた」ためだという。怒った民衆は学校内へ突入し、遺族の釈放を警察に求めた。抗議活動の過程では警察は抗議者を殴打し、一部抗議者は逮捕された。
5日深夜、現地当局は事件に関する通知を公表し、死亡した生徒は「転落死」で、「事件性はない」と主張した。
「検死もなしに何を根拠に事件性ないと結論づけたのか?」
「学校の窓は転落防止用の網があるぞ、どうやって転落した?」
「なぜ遺体を遺族に見せられないのか?」
「なぜ監視カメラは壊れていたのか?」
「なぜネット上には、本当は突き落とされたとする証言が多く出ているのか」
当局の公式発表をめぐり、世論はひどく不信感を抱き、「なぜ?」という不信と不服で溢れた。
しかし当局は民衆の怒涛の疑問の声を片っ端から削除するだけ。その結果、人々の怒りは増大するばかりだ。
(1月6日、学校内へ突入する市民)
鎮圧と反抗
6日早朝になると、市民による抗議活動は1万人を超えたが、それでもなお警察による暴力的な鎮圧が行われた。
現場を捉えた動画のなかには、警察に殴打されて血まみれになる学生の姿や、「警察が暴力を振るった、警察はヤクザだ」と叫ぶ市民の声が収録されていた。
「警察が学生を殴った」と聞いた現場市民はその怒りを爆発させ、警察に反撃を行った。市民は石を投げ、消火器などを使って戦い、市民に暴力を振るった一部の警官に集団暴行した。
市民の一部は警察による封鎖を突破して「再度」学校内へ突入し、学校の施設の一部を破壊した。
校長も副校長も怒りの市民によって殴打され、校長は救急車のなかへ逃げ込んだが、その救急車までもが民衆に包囲された。大勢の民衆は校長入りの救急車を押し、ひっくり返そうとする様子を捉えた動画もある。
(校長が乗った救急車を包囲し、それをひっくり返そうとする怒りの市民)
学校内に入った市民は学校側が当初「壊れていた」と主張する監視カメラが実は壊れていないことを突き止め、さらには事件当時の映像を見つけたことを示す動画もネットに流出している。
(「壊れていた」と学校が主張する監視カメラ映像)
一時は大混乱となった官民大戦も、最終的に警察が「負け」を認め、現場での「追悼」を許し、学校からも撤退したという。
その後、援軍(外省から駆け付ける抗議の市民)を断つため、現地当局は、現地の高速道路を閉鎖した。
「阻まれた母親」
事件後、死亡した党くんの母親はSNSに次のように訴えていた。
「2日午前3時『緊急事態が起きた』と教師の電話を受け、学校へ駆け付けた。しかし、学校側は始終子どもに会わせてくれず、何が起きたのかも教えてくれなかった。午前7時になってようやく子どもが亡くなったことを告げられた。現場を見ようとしたが学校や警察によって阻止され、監視カメラ映像を見たいと言えば壊れたと告げられた」
「その後、私は学校向かいのホテルへ連れていかれて監禁(監視役は教師2人)され、その後そのまま葬儀社へ連れていかれた。葬儀社でようやく子どもと対面できたが、一目見ただけで追い出された」
「私の子なのに、なぜ遺体をしっかり見せてくれないのか? 子供の衣服は乱れていなかった、顔と頭にも外傷はなかった。しかし、首から下は多くのアザがあった。体に傷がないかどうかを確認したくて子どもの服をめくろうとしたら、十数人の教師によって阻止された」
「この事件を知る生徒全員の携帯電話(時計含む)は没収され、写真などを全て削除された。しかし学生寮のなかには明らかな格闘した跡があった」という。
母親の投稿を転載した別の遺族によると、「母親は中国SNS抖音(ドウイン)に多くの動画を投稿したが、全て制限削除されている」という。
証言
事件を知る複数のユーザーはSNSに「真相」を明かしている。
ユーザーの1人は「私は真相を言いたい! 高1と高3の生徒が一緒になってあの子を殴った、あの子は突き落とされたんだ。あの子は過去にもいじめられていた。しかし、学校も、現地の教育当局も、公安当局も、グルになってこの件を押さえつけようとしている、監視カメラが壊れるはずがない」
別のユーザーは「加害者の親は現地の官僚で、加害者は『自分にはパパがついてるから、人を突き落としてもなんてことはない』と言っていた」
さらに別のユーザーは「当局が検死をするわけがない、死んだ子の胃のなかにはタバコが入っているからな」などと書き残している。被害者はタバコの吸い殻を食べさせられていた。
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