「傍若無人(ぼうじゃくぶじん)」は中国の故事成語である。言葉の原意には別の物語があるが、総じて「周囲に無作法な者への戒め」として使われることが多い。
昨年の春であったか、日本のある桜の名所で、多くの人が花見を楽しんでいたところ、中国人の中年女性が大勢集まってきた。
すると彼女たち、つまりこの「中国人のオバサン軍団」は、派手な飾り扇を手にもち、大音量の音楽を流しながら、ぐるぐると大きな輪になって踊り出したのである。
踊る本人たちは、さぞや楽しかったであろう。日本人に自分たちの踊りを見せつけることが、いっそう彼女たちの快感につながっていたかもしれない。
ただしそれは、静かに桜を楽しむ日本の風情など、まるで意に介さない「傍若無人」のふるまいであった。日本人の大顰蹙を買ったことさえ、おそらく本人たちは気づいていないだろう。
(花見シーズンに名古屋の公園で広場舞を踊る中国人のおばさん軍団)
実は日本のみならず、中国でも、この「広場舞大媽(広場ダンスおばさん)」が長年の社会問題になっているという。
とにかく音がうるさくて、ところかまわず踊り出す「広場舞」は、中国でも迷惑行為なのだ。周りが注意をしても「踊るオバサンたち」は逆ギレするか、一向に聞く耳をもたない。
この「広場舞」は中国では2005年頃から、とくに中高年女性の間で、社交や運動不足解消に役立つとして流行した。
もちろん、周囲に迷惑をかけなければ、皆で踊って体を動かすことは大いに結構である。そうした意味で「広場舞」は、いまや中国都市部の「風景」にもなっているが、問題はそのマナーの悪さなのだ。
実際、早朝でも夜でもかまわずに、多い時は数百人のオバサンたちが集まり、大音量の音楽に合わせて踊る。彼女たちがもたらす騒音や環境破壊に近隣住民は長年悩まされ、トラブルが絶えない。
踊れるスペースさえあれば、公園であろうと、公共の広場であろうと、彼女たちは大音量で踊る。
そのため過去には、あまりの騒音に耐えかねた住民が、広場舞の参加者を刃物で切りつける事件まで起きている。
ついに2022年6月から、公共の場で騒音を出すことを規制する「騒音汚染防止法」が施行されることになった。これにより「広場舞」で流れる大音量の音楽も、取り締まりの対象となった。
それでも、このダンスに関連する騒音トラブルは、なくなったわけではない。
今月16日、四川省の成都市で、広場舞集団の騒音に耐えかねたある青年が、ある「秘策」を使って、迷惑なオバサン軍団を撃退する事件が起きた。
青年は、ダンスをする中年女性の間で、冥銭(めいせん)をばら撒いたのである。
冥銭とは「死者に手向ける副葬品」のひとつで、紙銭(しせん)や金銭を模した物品のことである。現代の中国の葬儀でも、弔う死者のために、紙銭を焼くことは広く行われている。
日本の葬儀では、三途の川の渡し賃である「六文銭」の習慣などに、わずかにその名残がみられる程度だが、中国や台湾などの中華圏では、この冥銭を非常に重視する。
これらの副葬品は「あの世で、お金や財産に困らないように」との理由で、たっぷりと、弔う死者とともに土葬や火葬される。
死者に手向けるその冥銭(紙銭)を、 自分たちのダンスに夢中になっている「傍若無人」な中高年女性に向かって、青年は、まるでどこかの葬儀のように「ばら撒いた」。
実際、その抑止効果は、かなりあったようだ。
「冥銭をばら撒いて、広場舞の軍団を撃退」。この関連話題は、ネットで大いに注目された。
若者がとった「秘策」については、以下のような称賛の声が相次いで寄せられている。
「年を取っている人は、死を恐れており、なおかつ迷信深い。若者の行動は、その心理を逆手に取った」
「そりゃあ冥銭を撒かれれば、とんでもなく不吉だからな」
「お見事だ。これで平和的に解決!」
現地のある住民は「この広場舞軍団は、いつも夕方6時から夜8時過ぎまで、ここで踊っている。近くには民家が密集しているため、みんなが迷惑している」と話した。
また、別の住民によると「この広場舞軍団は、本当に迷惑ものだ。周辺住民は、過去に何度も警察に通報している。水をかけて退散させようとしたこともあったが、効果はなかった」という。
今回の「冥銭まき事件」から数日経つが、今のところ、あのオバサン軍団の姿は見ていないという。
「踊る場所を、どこか別のところへ変更したのかもしれない」と現地住民は言う。確かに場所を変えただけかもしれないが、ともかく住民は、ひと安心しているという。
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