「とんでもないことをしてくれましたね。あなたは日本に赤っ恥をかかせた!」駐中国日本公使(当時)は日系企業の重役と会うやいなや、こう畳みかけた。
時は改革開放真っ只中の共産主義中国。文化大革命の傷が癒えぬまま、共産党指導部の号令で外資の呼び込みが始まった。日本の大手メーカーで長年、中国事業を担当していたA氏は、この話の中心人物である。A氏は、匿名を条件に取材に応じた。
日本大使館は助けてくれない
「大使館は助けてくれない」とA氏は回想する。
「当時、ある日本人駐在員が中国で問題を起こしたとの連絡が私のところに飛び込んできた。中国当局が検挙し、強制送還するという。私は責任者として、当時の日本公使に呼ばれた」
「祖国」が外交手腕を発揮して事態を打開してくれるだろう。A氏はそう信じて大使館へと急いだ。
「中国当局は何を言うかわからない。当事者の言うことを聞かずに、頭ごなしに濡れ衣を着せてくることもある。民間企業には邦人を助ける能力がない。日本人を助けてくれるのは大使館だけだ」とA氏。しかし、現実は残酷だった。
「とんでもないことをしてくれましたね。これは自分で始末しなさい」と公使は冷たく言い放った。「僕が生きてて一番怖かった瞬間だ。我々は日本のために仕事しているのに。その対応はひどいではないかと、私も怒った。あなたたちは日本のために何をやっているのかと」
A氏によると、欧米諸国の大使館は非常に強硬な姿勢だった。上海の元租界には、フランス大使館がある。A氏によると、フランス人が中共の官憲に拘束されると、大使が出向き、その場で解決しようとすごい剣幕だったという。
大紀元エポックタイムズは本件について外務省にコメントを求めた。「個別具体的な事案について、政府が見解を述べるのは控える」としつつ、中国に滞在する邦人の安全確保に全力を尽くしていると答えた。
脅かされる邦人の安全
基本的人権を認めない中国共産党統治下の中国において、邦人の身体の安全は著しく脅かされている。外務省によれば、2015年以降、拘束された邦人は計17人にのぼる。岸田首相は米国で習近平と会談した際にも、中国で拘束されている邦人について、早期解放を改めて求めた。
中国に住む日本人の数も過去10年間で減り続けており、2022年には10万2066人になった。今年も同様の減少が見られれば、中国に滞在する邦人数は2004年以来最低水準となりそうだ。
いっぽう、邦人の安全確保をめぐっては、外務省の消極的とも言える対応に、国会議員が憤りを見せている。
「本気で日本人を守るという思いが外務省は全くないと、多くの人たちは怒りを感じている。次々と日本人が捕まるようなことがあったらどう責任を取るのか」ーー。松原仁衆議院議員は11月17日、衆議院外務委員会で問いただした。
中国共産党が7月に反スパイ法を改正したことを受けて、米国は自国民に対し中国本土への「渡航の再考」を促す警告を発している。いっぽう、日本の外務省が発表する渡航危険レベルは「ゼロ」のままだ。
「事態がこれだけ深刻化し、反スパイ法を始め、情報三法なども出てきている。中国は従来と同じ扱いにするわけにはいかない」と松原氏は危機感をあらわにした。相次ぐ邦人拘束の事例を挙げ、危険レベル1を中国全域に適用すべきだと主張した。
これに対し外務省は「(中国全域が)新疆ウイグル自治区及びチベット自治区におけるような不安定な状況になってない」ことを踏まえ、危険レベルを「0」のままにしている。
上川陽子外相も答弁席に立った。中国には「透明性の面や司法プロセスの面で色々な課題がある」との認識を示すものの、邦人安全確保への有効的な対策案等は提示しなかった。
松原氏は最後に「外務省はもう少しアグレッシブに、本気で邦人、日本人を守るということを明確に言うことが重要」だと強調した。
逃げる外資
共産党体制下にある中国では、法律が統治の道具として使われる。改正反スパイ法のほか、国家安全法など、恣意的な運用がなされる法律が相次ぎ制定されている。
共産党が「外国資本の誘致」を呼びかける一方、こうしたリスクを伴う中国ビジネスの困難さゆえ、外資流出は止まらない。
今年の中国株市場への純外国資金流入は77%減少して547億人民元になったと、ファイナンシャル・タイムズは21日報じている。
中国国家外資管理局が3日公表した、7月から9月の国際収支統計によれば、1998年の統計公開以来初めてのマイナス記録となった。新規投資よりも撤退や規模縮小の動きが大きくなったことを示している。
中国ビジネスを展開している日本企業も萎縮傾向が顕著となった。21日、日本貿易振興機構(JETRO)が発表した調査によれば、日本企業710社のうち、今後1年から2年で中国での事業の拡大を見込んでいると回答した企業は27.7%にとどまり、初めて3割を下回った。
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