取り下げ方針 “子ども放置禁止”条例案 背後にベビーシッター導入の動き

2023/10/11
更新: 2023/10/13

埼玉県議会に提出された虐待禁止条例改正案が注目を浴びている。背景として、日本でまだ普及途上の「ベビーシッター導入の加速化」が挙げられる。しかし、第三者の家庭環境の介入に安全対策は必須だ。北米や東南アジアでは、ベビーシッター関連の犯罪が多数報告され、日本でも利用時の防犯対策や法整備が急務となっている。

自民党が提出した改正案は、子どもを自宅や車内に放置する行為を「虐待」と定義し、9月の定例会で提出された。この条例案に罰則は設けられていないが、生活実態にあわないとして疑問や反発が続出。

10日、自民党県議団は「県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がった」などとして改正案を取り下げることを明らかにした。

埼玉県によると、10日午前10時までに873件の意見が寄せられ、そのうち871件が反対意見だったという。特に、さいたま市PTA協議会は「ほとんどの保護者が条例違反にあてはまる」として改正案に反対する意見を伝え、オンラインの署名活動を行い、2万5000人以上の署名が集まっていた。

同法案は国会議員からも意見が示された。国民民主党の玉木雄一郎代表は10日の定例記者会見で「かつての夫が働き、奥さんは家にいて、常に子どもを見られるという状況ではない家庭が現に増えている中で、果たしてこういった条例を定めても現実的なのかどうか」と自説を述べた。

子ども事業、需要喚起?

ことの発端は、パチンコ店や大型小売店の駐車場で子どもが車内で置き去りとなり、熱中症などで命を落とす事故が後を経たないことだ。子どもの安全対策強化が叫ばれるいっぽう、同法案は、ベビーシッターや学童保育などの新たな子どもビジネスの需要喚起を狙ったものとの指摘もある。

実際、自民の見解では、「条例を契機に子育て見守り支援の強化をしたいと考えている」(埼玉五区・牧原秀樹衆院議員)」、「学童保育やベビーシッターなどの需要を掘り起こし、整備拡大につなげたい(田村琢実・自民県議団団長)」といった具体的な需要に関する発言をしている。

政府はベビーシッター利用割引券交付を行い、利用の加速を促している。今年分は2日に配布終了したことで、加藤鮎子・子ども家庭庁担当大臣は6日、追加発行を表明。発行枚数や発行時期は事業主団体らとの調整後に決めるという。しかし、実際には発行済みの39万枚の約半数に当たる19万枚は利用されておらず、子育て世帯の活発な利用とは言えない状況だ。

日本で「認定ベビーシッター」になるには、筆記試験や研修受講、実務経験の有無を含む、公益社団法人全国保育サービス協会が実施する認定試験に合格したものに交付される。合格率は80%と非常に高く、資格難易度はそれほど高くない。

子育て世帯には便利なベビーシッターのサービスだが、第三者の家庭環境の介入には、安全対策は必須だ。子供へのいたましい事件が海外では継続的に続いている。

米国の法学ニュースサイト「ロー・アンド・クライム」では、全米で毎月のように発生するシッター関係の事件が報告されている。性的虐待や暴力、薬物、誘拐、窃盗など。子どもが重篤な障害を負ったり、死亡する事案も少なくない。

犯罪防止に厳格な制度を敷くシンガポールでも、16年4月、預かった乳児2人に薬物を飲ませたとして、女のシッターが逮捕された。22年、女には7年の禁固刑が下った。

香港やベトナムなどアジア圏でシッターを利用する家庭は少なくない。しかし、自宅に監視カメラの設置など防犯対策を充実させなければ、子どもの虐待があったとしても摘発には結びつきにくい(ベトナム・エクスプレス紙)のが現状のようだ。

貧しい家庭に育った人には、金を貸すマフィアが目を光らせ、借りて返せなければ、返せるようになる別の仕事をさせるという背景がある。

利用の増加に伴い、日本でもシッター関連の犯罪が増えている。19年12月以降、保育士資格を持つ男が5歳から11歳の20人の少年に対して強制性交を行ったとして、逮捕、起訴された。22年、東京地裁は男に懲役20年の実刑判決を言い渡した。20年6月にも、ベビーシッターの男が5歳児に対する強制わいせつで逮捕された。

厚生労働省は、性的暴行や虐待で行政処分を受けたベビーシッターの情報を地方自治体と共有するシステムの構築を検討している。事件の再発を防ぐための取り組みだ。自治体は、行政処分を受けたベビーシッターの情報を厚生労働省に報告し、その後、その情報が特定の公務員がアクセスできるウェブサイトに掲載される仕組みだという。

子どもたちの安全を守るために、ベビーシッターの導入には、適切な法整備と防犯対策、管理の実施は不可欠となっている。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。