本日(9月29日)は「中秋の名月」である。夜空が晴れれば、日本でも中国でも、美しい月が見られるだろう。先ほど覗いた日本のスーパーにも「お月見だんご」と「ススキ」が並んでいた。
中国では、この日を「中秋節」と呼ぶ。家族団らんで夜空の月を見ながら、満月をかたどった焼き菓子の月餅(げっぺい)を食べるのが慣わしとなっている。ところが今年は異変が起きている。その「月餅」の売れ行きが、非常に芳しくないのだ。
今年の「中秋節」を前に、中国のネットでは「流通期限の過ぎた月餅が、市場に大量流通している」「多くの中国産月餅の黄身の餡(あん)が人工的に作られた偽物で、化学物質が大量に含まれている」といった投稿が拡散された。
こうした「危険な月餅」の話題がSNSのホットリサーチ入りするなど、食品安全の問題が再び注目されている。関連投稿には「月餅なんて二度と買わない!」といった消費者の声が殺到している。
「月餅」は中国経済のバロメーター
実際「景気悪化の影響で、今年は月餅が売れない」「今や月餅は、中国経済のバロメーターとなっている」と多くの流通関係者が口にしているらしい。季節の縁起物であり、楽しい年中行事の主役である「月餅」を、とくに今年は中国人が買わないのだ。
中国メディアによると、8月中旬の時点で中国電子商取引(EC)大手の京東集団(JDドットコム)での月餅の累計販売量は9.1万件。これは前年同期と比べて「約43%のマイナス」と大幅に減少していた。
中国で「季節もの商品」である月餅は、主に企業による団体購入が主力だった。しかし、近年の経済悪化の影響で多くの業界が低迷し、企業は相次いで倒産したり、人員削減を余儀なくされている。
かろうじて生き残っている企業でも、会社の経営維持のために支出の削減を余儀なくされている。そのため、月餅をまとめ買いして取引先に贈る「購買力」が激減しているのだ。日本で言えば、取引先に贈る「お中元」や「お歳暮」を買う企業の資金が底をついたことになる。
多くの月餅ブランドも、「今年は、月餅の集団買いが大幅に減少している。顧客は、よりシンプルな包装や手頃な価格を追求するようになった。そのため、月餅の販売量や売上はともに激減している」と明かしている。
注文数が激減「去年は数千、今年は百箱」
ある月餅ブランドの販売担当者によると、「企業からの注文が激減したため、私たちセールス担当のプレッシャーは非常に大きい」「昨年、広州のある銀行は数千箱の月餅を注文していた。ところが今年の注文数は、わずか百箱。しかも単価の安いアイテムばかりだ」と嘆いている。
企業からの団体購入の激減に加え、一般客に向けた小売の販売数も大幅に減少している。
今月26日、北京市にあるスーパーマーケットのスタッフは、「中秋節まであと数日だというのに、月餅を買う人は本当に少ない。例年のこの時期は、よく売れていたのに」と嘆いた。
中秋節当日の9月29日、「今年は月餅が売れない」という話題がSNSのホットリサーチ入りした。その理由として「お金がない」「高すぎて買えない」といったコメントが圧倒的に多かった。
なかには次のような、なかなか真に迫ったコメントまであった。
「昔からお年寄りは、月餅を買って友人や知人に贈るのを好んできた。しかし今年は、そのお年寄りたちの多くが死んだ。だから月餅を買う人も、贈る相手もいなくなったのだ」
「なぜ、お年寄りが、みんな死んだのか」について、ここでは言及されていない。しかし、中国で生活している庶民にとっては、切実な原因が指を折って数えられるほど存在する。
中国政府は公表していないが、中国はこの数年で、人口の何分の一かが「消えた」のだ。
「ニセ物の餡」など誰が食べる?
中国の月餅は、各地で大きさ・材料・中に詰める餡(あん)などに特色がある。なかでも昔から、茹でた鹹蛋(アヒルの卵を塩水に漬けたもの)の黄身を餡に入れた月餅が人気を呼んできた。
この人気の黄身の餡が「偽物」である月餅も多い、という指摘が「中秋節」を前にしてネット上で拡散されていた。
「多くの中国産月餅の黄身の餡が人工的に作られた偽物で、化学物質が大量に含まれている」と訴える動画の拡散に対して、「黄身の餡の月餅が大好きだったのに。信じられない」「月餅なんて二度と買わない!」といった消費者の悲鳴が多く殺到した。
中国の月餅が売れなくなった背景には、中国経済の全般的な苦境のほかに、一部の製造業者が消費者の健康を顧みずに利益追求した結果、ニセ物や過剰な添加物入りの「危険な月餅」を売るという、いわば自業自得も原因の一つになっている。
(月餅の餡に入れる「偽物」の黄身を製作する様子)
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