「馬を鹿」からみる…原発処理水で事実無視 中共政権の行く末

2023/09/28
更新: 2023/09/27

東京電力の福島第一原子力発電所で、事故処理作業に伴う処理水の海洋放出から1か月が経過した。世界各国ではそれほど問題になっていないが、中国政府は日本産海産物の輸入禁止など強硬な姿勢を示している。なぜなのだろうか。

処理水は放射性物質を取り除き、健康への影響は考えられない。それにも関わらず、構内には巨大なタンクが並び、処理水が溜まっている。これを減らし、東電の管理や建設の負担を軽減することは、福島第一原発の事故処理を進める上で必要だ。しかし、多くの反対意見があり、海洋放出は難航していた。政府と東電は8月24日から放出を開始した。

世界の大半の国は、処理水問題を静観し、日本政府の動きを支持した。外務省は世界各国の根回しをよく行った。日本政府は、IAEA(国際原子力機関)と協力した。同機関の査察を積極的に受け入れ、安全性評価の客観性を確保した。日本政府は国内、国際的な広報キャンペーンを熱心に続けた。

韓国は文在寅前政権では繰り返し福島の放射能問題に懸念を示したが、現在の尹錫悦政権はこれを問題視しなかった。韓国では野党とメディアの一部が騒いだだけだった。放出される太平洋に面する米国、カナダ、オーストラリア、そして島嶼国からも批判は出なかった。

海産物禁輸など、中国の過剰な対抗措置

ところが、中国はこの処理水問題を繰り返し批判した。8月末には日本の水産物の輸入を停止した。中国への日本の水産物の輸出量は大きく、2022年に871億円、そのうちホタテが467億円、ナマコが67億円、カツオ・マグロが40億円となっている。ロシアも、中国の批判に同調した。

一部の中国人は日本の福島県庁や福島の飲食店に、抗議やいたずら電話をした。9月初旬段階で、福島県への電話は9000件以上になった。その背景には、若い世代の高い失業率など社会に不満を持つ人が少なくないことが、調査報道で伺うことができた。

9月下旬には、中国政府による激しい日本批判はトーンダウンした。中国共産党政権がよく行うように国内世論の不満のはけ口として「反日」が利用された面があるように思う。

中国国内では、中国産の海産物の買い控えや、放射線量を測定してネットに情報を公開するといった動きもある。中国政府はそうした政府批判の動きを厳しく取り締まっているしているという。

話を聞かず、批判を続けた日本国内の一部勢力

日本の大勢は冷静だった。処理水排出を認める世論調査では直近では、容認が常に6割を超えた。中国の日本製海産物の輸入禁止措置に、国内では日本の水産物を買おうという運動が盛り上がった。

ただし、全く説明を聞かず、批判を繰り返す日本人がいた。特に政治的な集団の行動が執拗だった。具体的な政党名を出すと、日本共産党、れいわ新選組、そして社会民主党だ。野党第一党の立憲民主党も何人かの議員が過激な批判を重ねたが、党は処分しなった。こうした政治家たちは、意図的に「汚染水」という言葉を使った。メディアも、否定的な意見を流し続けた。

処理水の放出は政治的立場や思想に関係ない。科学的データに基づき安全かどうか、「汚染」と郷土を批判される福島県民の人権侵害を止める、そして日本の国益をどうするかという観点から判断されるべき問題だ。それなのに一部の日本人が冷静な議論を放棄し、反対を続けたことは異様で、理解できない。

中国の民衆を動かす予行演習?

こうしてみると、中国政府の行動の異様さが世界で際立っている。科学的根拠のない主張を繰り返し、同調する国もほとんどない。自国内でも、日本産海産物の輸入を止め、海は危険だと騒いだことで、混乱が起きている。

理由を推測すると、不満を高める民意のはけ口として、この問題が使われたのかもしれない。また海洋汚染に懸念を持つ意見が政府部内にあるのかもしれない。ただし、それでも説明しきれない。そして、中国政府が理由を説明することはないだろう。

以下は、私の勝手な想像だ。中国は大規模に国内世論をコントロールするために、予行演習やデータ収集を繰り返しているのではないか。そのための“餌”は、国内の問題であろうと国外の問題であろうと関係ない。

中国は国内外で大問題に直面している。国内では不動産バブルの崩壊、米中対立による輸出の抑制によって、国内では不良債権処理と、産業構造の改革が必要になっている。外交では、台湾有事がささやかれている。

いずれにしても中国政府はこれらの難題を解決する場合には国民の支持を集めなければならない。共産党独裁の下では、民意を反映した選挙と政権交代という仕組みがない。中国は官製の政治キャンペーンを頻繁に行うが、そこで仮想敵国の一つの日本攻撃の処理水問題が使われたように思う。

「馬を鹿」の故事を思い出す

ここで、史記にある有名な故事「馬を鹿」を思い出す。「馬鹿」の語源になったともいわれている。

秦の始皇帝の死後、宦官の趙高が権力を掌握した。彼は自らの権力がどれほどのものかを確かめるため、二世皇帝胡亥に鹿を「これは馬だ」として献上した。胡亥は群臣たちに「これは鹿ではないか」と問うたが、群臣たちは趙高を恐れ「馬です」と答えた。異を唱える者は趙高によって処刑された。しかし、その後、楚をはじめとする連合軍が秦を攻撃。群臣たちは逃げ、趙高は皇帝を殺害したものの、最終的には王族によって殺され、秦は滅亡した。

中共政権の処理水をめぐる行為は、この典故に似たところがある。中国政府は、科学的真実を無視した行動をとり、真実を話す人たち監視し、敵味方をわけて大衆動員のコントロールする方法を模索しているようだ。しかし、浅知恵に踊り、結果として身を滅ぼす「趙高」のような滑稽さもある。

処理水問題では、中国の海産物の輸入禁止以外は、さほど国際的な影響を及ぼしていない。我々日本人は淡々と福島原発事故の処理に協力すべきだ。しかし、中国の真の狙い、そして日本国内での同調者の存在は気がかりだ。その奇妙な行動の裏に、恐ろしい意図が隠されてはいないだろうか。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。