なぜ、李尚福氏は習近平氏を怒らせたのか

2023/09/23
更新: 2023/09/23

中国の李尚福国防相が失踪して20日以上が経ち、汚職で調査を受けているという見方が強まっている。

中国共産党高級幹部の子弟である李尚福氏が失脚したことは、習近平氏が中華人民共和国の建国初期に貢献した高級幹部の子弟たちのグループ、いわゆる「紅二代」勢力に対して打撃を与えようとしているのだろうか。専門家は、習氏が暗殺を防ぐ可能性もあると指摘している。

エポックタイムズは複数の情報源から、中国国防相・李尚福氏が逮捕され、装備システムの上層部8人が告発されたとの情報を入手した。軍内には不安が広がり、誰もが危機感を覚えている。多くの国際メディアも複数の関係者の話を引用し、李氏が拘束されていると伝えた。

李尚福氏は宇宙開発部門の経験を持ち、過去10年間、軍事装備分野に入り、2017年には中央軍事委員会・装備開発部主任に就任し、今年3月に国務委員に昇進し、国防部長に就任した。

李氏は当初、習氏にとってかなり信頼できる人物だった。

というのも、これまで軍部の幹部らは「中国軍は装備が非常に優れていて、訓練も見事だ」などと習氏を喜ばせるニュースばかり報告していた。しかしこの半年間で、そうした幹部らは告発されたり、または戦争に備える計画を提出したりして、問題が露呈した。中国軍は全く基準に達していなかったのだ。中国問題研究者の呉祚来氏は、李氏はこれらの事から調査を受けているのだろうと指摘した。

7月26日、中共軍事委員会は関係者に、2017年10月以降の、中国軍入札においての不正行為や腐敗に関する情報の提供を要求した。

調査が始まったタイミングは、李尚福氏が中央軍事委員会装備発展部の部長に任命された直後だった。

著名な法学者で民主政治活動家の袁紅氷氏は18日、ロケット軍の粛清が飛び火した結果、中国軍に激震が走ったとエポックタイムズに語った。

ロケット軍の前司令官・李玉超上将と政治委員の徐忠波氏らは、現時点で台湾侵攻作戦を始めれば、大きな失敗を招く可能性があると考えている。

一方、彼らは表向き、台湾侵攻を開始するという習近平氏の戦略を支持しているが、習氏にとって、これらの高官は忠誠心に欠ける存在だ。彼らの私的発言が李玉超司令官の秘書によって中央軍事委員会主席弁公室に告発された。

袁氏によると、問題は、密告者がロケット軍トップと李尚福氏との間に密接な関係があることをも告発したこと。

「李氏は、表向きは米国と台湾問題に強硬なタカ派だが、内心ではロケット軍指導部に同調している。このことを知った習近平氏が激怒するのは想像に難くない」と同氏は分析した。

中国問題専門家、王赫氏は、李尚福氏の問題が一般に想像されている以上に深刻である可能性があると見なしている。

「李尚福氏は習氏によって昇進したが、中共には表裏のある人物が多い。野望を抱く者は、江沢民時代に育成され、反心を抱えている可能性がある。クーデターや習氏に対する暗殺計画に関与しているかもしれない。習氏はこの可能性を心配している。または軍高官が関与している手がかりを掴んでいるのかもしれない」

元米国務省の首席中国顧問、マイルズ・ユー(余茂春)氏は番組「中国内幕(China Insider)」で、現時点では、李氏が汚職で調査されたことを信じていないと述べた。

狙いは「紅二代」? 誰もが不安

李尚福氏の父親は1932年に紅軍に加入した筋金入りの解放軍老幹部だった。一部の評論家は、習近平氏が中華人民共和国の建国初期に貢献した高級幹部の子弟「紅二代」をターゲットにしたのではないかと考えている。

マイルズ・ユー氏によると、李氏が失脚した最も重要な原因は、ワグネルの反乱が起きた後、習氏が軍の不忠誠に対して日増しに懸念を深めていることだと指摘した。習氏は外界が彼をどう見ているかを気にしていない。李氏は「紅二代」だから、これらの懸念は、習氏の心から消え去ることはないのだ。

李尚福氏は中央軍事委員会・装備発展部部長だった2018年、ロシアの武器商人との大型取引に関与したとして米国から制裁を受けた。

そのため、マイルズ・ユー氏は、李氏の解任は、北京が他国との軍事的接触を拡大する意向を示しているのかもしれない、李尚福氏が腐敗のために解任されたとは考えにくいと指摘した。

ユー氏は「もし汚職で摘発されたのであれば、李氏が装備・軍備担当に任命されるずっと前、あるいは国防相に任命される前に、汚職が発覚していたかもしれない」と述べた。

ユー氏によれば、習氏は強い「赤い血統」や軍事的背景を持つ個人が、軍内の不満を持つ将校たちのリーダーになりうるかどうかを注意深く観察しているようだ。

李尚福部長の失脚説が取り沙汰される以前の7月に、ロケット軍トップの突如更迭が起きた。このような異例な事態は中国軍全体に衝撃を与えた。

「現在、習氏の猜疑心があまりに強いため、次は自分の番か、いつ逮捕されるかわからない、と党内では高層の幹部から下っ端の官僚まで誰もが危機感を覚えている。そのため、みんな習氏の死を願っている」と王赫氏は指摘した。

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。