世界最大の格付け企業S&P、ESGスコアリングを終了するもナラティブは継続(2)

2023/09/16
更新: 2023/09/16

ESGの不一致

信用格付けは、通常、最高の格付けであるAAAの「リスクフリー」から、Dまたはデフォルト格付けまでがあり、借り手の債務返済能力を示すことを目的とし、ローンや債券の金利を決定する際の重要な要素となっている。S&P、ムーディーズ、フィッチの「ビッグスリー」債務格付け機関は、1900年代初頭にまで遡る。

信用格付けにESG基準を追加することは、過去10年間のトレンドとなっており、ESG格付けを発行する多くの企業が、借り手がESGスコアを高めるのに役立つコンサルティングサービスも提供している。

しかし、一部の借り手は、財務の健全性と支払い履歴が優れているのに、不透明な非財務基準のために信用格付けが低下したとして、ESGスコアに反対している。

オークス氏によると、「S&Pグローバルは、米国のエネルギー企業よりロシアのエネルギー生産者を高くESG格付けしている(後に撤回)」という。

ロシア政府がガスプロム(ロシアの企業。天然ガスの生産・供給において世界最大の企業)の大株主であり、ロスネフチ(ロシア最大の国営石油会社)の株の40%を所有しているという事実にもかかわらず、ロシアの巨大なエネルギー企業であるガスプロムとロスネフチは、アメリカのエネルギー企業であるエクソンモービルとシェブロンを上回った。

国際法に違反して、隣国ウクライナをいわれのない不当な攻撃で侵略したのも同じ政府だ。

「S&PグローバルのESG格付けに依拠した投資家たちは、これらの格付けが、ロシア政府による長年の人権と国際法無視が原因で起きる社会的リスクを正確に捉えているかどうか疑問に思っている」と彼は述べた。

類似企業間であっても、ESGスコアに大きな違いがある可能性がある。たとえば、S&Pは、石油およびガス生産企業であるConocoのESGスコアを100点満点中の68と、比較的高く評価した。一方、競合他社のエクソンモービルの評価は31だった。

「それはESGの馬鹿さ加減を語っている」とヒルド氏は語った。「基準自体が非常に曖昧、不明瞭で鈍いので、基本的に無意味で役立たない。通常、ESGスコアが本当に意味するのは、格付け会社が考える「政治的になすべきこと」に企業がどれだけ合致しているかということだ。

アメリカ最大の自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ(GM)は、S&PからESGスコア67を貰い、電気自動車(EV)のみを製造するテスラは37を獲得した。GMは、今後10年間で、自動車生産をEVに移行することを公約している。

億万長者の起業家イーロン・マスク氏によって設立されたテスラは、S&Pの環境カテゴリーで60点を獲得したが、20という非常に低い社会的スコアによって引き下げられた。テスラの設立に加えて、マスク氏はソーシャルメディア・チャット・プラットフォームであるツイッターも買収した。

ヒルド氏は「マスク氏は、明らかに、ツイッターやツイッターファイル、言論の自由を守ろうとする活動によって、多くの人たちをいら立たせてきた」

「GMのような企業は基本的に、我々はうまくやっていく、あなたの政治的欲求と歩調を揃えてやっていくと言い、それがESGスコアによる違いを物語っている」と語る。

最初の一歩に過ぎない

S&Pは、「ESGスコアは、英数字スケール(AAA、A+、A やBなど評価)を使用して、当社の格付け分析におけるESG信用要素の関連性を図示し、要約することを目的としている」と述べた。

ESGスコアの作成を停止するという決定は、「ESG要因が信用力に与える影響を含め、ESG原則の基準やESG関連のトピックに関する調査と解説に影響を与えない」とS&Pは述べている。

しかし、ESGの批評家たちは、「ESGスコアリングが定着する前の慣行と同様に、企業の債務返済能力を決定する重要な要素は、全体的な信用格付けの一部であるべきだ」と主張している。

ある要素が本当に財務的に重要である場合、常に信用格付けに結び付けられており、個別の政治的スコアで呼ばれることはなかった」とオークス氏は語った。

「しかし、S&Pの翻意にもかかわらず、社会信用スコアリングをめぐる対立はまだ終わっていない」と多くの人が話す。

「これらのスコアの発行を停止することは大きな変化だ」とヒルド氏は語った。「ボールゲームや戦争のことではないが、正しい方向への重要な一歩である」

(完)

 

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。
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