もし習氏が死亡したら、中国の体制はどうなる? 予想される3つのシナリオ=専門家

2023/09/06
更新: 2023/09/06

中国経済の後退、中国の習近平国家主席の健康不安説、最近の公の場への出席の異常な減少など中国政治における不安要素がくすぶるなか、もし習氏が死亡した場合、現行体制はどのように変化するだろうか。

これらの疑問について、米保守系シンクタンク、安全保障政策センターの対中政策ディレクターであるブラッドリー・セイヤー氏が自身の見解を紹介する。

習氏の健康問題は中国共産党体制における注目すべき不安定要因であり、70歳を過ぎた男性とは思えないほど深刻な健康問題を抱えているなどの噂がたびたびささやかれてきた。

もし習氏が死亡、または病に倒れるという状態に陥ったりすれば、毛沢東の死後と同様の権力闘争が起こるだろう。

権力闘争の範囲は広く、中でも中国共産党指導部や人民解放軍、国家安全部の意向が次期指導者選出の決定要因となる。国家安全部よりも人民解放軍の意向が重要視される。これらの機関の意向次第で中国共産党(中共)の現行体制を維持、変更、あるいは消滅させるという選択が決められる。

毛沢東や鄧小平の死後のように、習氏の死亡は中共にとって深刻な脆弱性が生じる時期となるため、国内外の中国人にとって中共に対して行動を起こす絶好の機会となり得る。

また毛沢東の死後、毛沢東主義の求心力がしばらく健在だったときとは異なり、習氏は死亡した後も求心力を維持し続けられるまでの権力者には至っていない。そのうえ、鄧小平政権時代とは異なり、中国経済は停滞あるいは衰退している。鄧小平の統治に対する政治的抵抗は、急速な経済成長によって緩和されていた。

習氏が想定するような経済発展が見込めない今、共産党に抵抗して新たな独裁政権または軍事政権への移行を許し、最終的にはハイブリッド民主主義政権へと変化する可能性は否定できない。

習氏死後の中国の体制モデルとして、セイヤー氏は「シンガポールモデル」、「台湾モデル」、「強人(ストロングマン)モデル」の3つのモデルを挙げた。実現する可能性が特に高いのは「強人」モデルだと指摘している。

シンガポールモデル:リー・クアンユーの開発独裁

リー・クアンユー氏は1965年の独立以来シンガポールの政治を支配し、1990年まで初代首相として開発独裁を敷き、2004年まで上級相、2011年まで内閣顧問として国内で政治的影響力を持ち続けた。

また政治的プラグマティズム(実用主義)と「アジア的価値観」または「儒教的政治原則」の双方を強く提唱した人物であり、シンガポールの政治に大きな影響を与えた。

このモデルは、予想される3つのモデルの中で、民主主義政治に最も類似している。権威主義体制は存続するものの、中共と異なり良性で、腐敗的ではなく、人民主義を排し、実力主義、法の支配、社会の利益のための長期的な経済・社会計画を通じて市民ナショナリズムを推進する「ソフトな」権威主義政権のモデルであった。

台湾モデル:民主主義への緩慢な移行

台湾モデルは、簡潔に説明すると、「中国が中華民国と同じ道をたどる」とするモデルだ。つまり、蒋介石政権下の軍事政権から権威主義政権へ、そして最終的には民主主義政権へと、何十年にもわたって移行していく過程を経る。

この場合、中国の軍事および治安機構は、数十年にわたって軍事政権を続けていくことになる。軍事政権の後は、特定の政治参加者を容認する権威主義体制へと移行し、シンガポールモデルと同様、民主主義政権が誕生するまで数十年かかる可能性がある。

台湾モデルのもとでは、ナショナリズムもまた強力で、西側諸国との関係もこじれるかもしれない。複数の移行期を経て、中国での民主主義が実現されるというものだ。

「強人」モデル:孫文や蒋介石のような指導者が統治

「強人(ストロングマン)」モデルは、ピューリタン革命の際に鉄騎隊を率いたクロムウェルや、1799年にクーデター(ブリュメール18日のクーデター)を起こしたナポレオンのような指導者が出現し、中国政治を引っ張っていくというモデルだ。

中国史の文脈で考えると、孫文や蒋介石の統治に見られるように、20世紀前半の中国政治の様相に回帰する。これは単独の指導者の下で強力な権威主義的支配が敷かれる。

中・東欧の例が示すように、ポスト共産主義の移行は常に困難なものである。ロシアや、1990年代のスロバキアのウラジミール・メチアル前首相やユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェビッチ前大統領と類似する「強人」モデルが成立すると予測される。無論、ロシアが民主主義に移行することはなかった。

新指導者は、ロシアのプーチン大統領のように、中共軍や党、安全保障機関から輩出されると予想される。しかし、中国共産党が自国民を虐殺してきた歴史を肯定することはないと予測している。

結論として、中国の政治的進化には複数の変遷が必要となる。共産主義政治からポスト共産主義政治への変容が起こり、ポスト共産主義の中国は、中国の過去のほぼすべての時代と同じように、単独で強権的な指導者、つまり基本的には「皇帝」と称される人物によって統治されることになる。

何十年にもわたって強権者や軍閥に率いられた権威主義的な政府になる可能性が高いが、その中に民主的な要素を取り入れたハイブリッド型の政治体制に至る見込みもある。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ブラッドリー・A・セイヤーは、「対中危機委員会」の創設メンバーであり、リャンチャオ・ハンとの共著「Understanding the China Threat/中国の脅威を理解する」および、ジェームズ・ファネルとの共著「Embracing Communist China: America’s Greatest Strategic Failure./共産中国を受け入れる:アメリカの最大の戦略的失敗」の著者です。