WHOが秘密裏に進める権限拡大計画に、共和党議員らが反発

2023/05/28
更新: 2023/05/26

今月17日、下院共和党議員らが、バイデン政権が交渉を進める「パンデミック条約」を非難し、新型コロナパンデミック期間中に米国民を失望させたWHOに権力が一元化されると指摘した。

直後の19日、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は、加盟国に対して報告を発表した。

「感染症の再流行がますます加速している今日、『健康上の緊急事態』に関するWHOの役割は、パンデミックだけではなく、飢餓や貧困、生態系の悪化、気候変動、社会経済的な不平等にまで広げる必要がある」とした。

さらに、「加盟国は、健康上の緊急事態への備え、対応、回復力のためのグローバル ・ アーキテクチャを確立しなければならない」とした。

しかし、共和党議員らはWHOの方針に異を唱えている。

ハリエット・ヘイグマン議員は、「国際法が私たちの憲法に勝ることはない。バイデン大統領は、連邦政府が制定していない法律や規制に米国人を従わせることはできない」と記者会見で述べた。

ティム・バーチェット議員も、公開討論会の場で、「WHOのパンデミック条約は非常に曖昧かつ我々の主権を犯すものだ」と述べている。

「しかも、世界規模のパンデミックが発生した際に、どのような医療が必要かを米国人に指示するのに利用される可能性がある」。

パンデミック条約は2024年に194のWHO加盟国によって署名される予定で、現在、パメラ・ハマモト大使が米国代表として条件交渉を行っている。また、WHO主導で国際保健規則(IHR)の改正も同時に行われている。

これらの交渉は、「健康上の緊急事態」時に加盟国間で統一された対応を取るための、法的約束を伴った条約・協定の作成を目指している。

実現すれば、WHOに多くの決定権が委任される。彼らは、パンデミックを宣言し、加盟国間で公平な配分を確保するために医療物資のサプライチェーンを調整できるようになる。

また、この条約は、CDCのような国内の保健当局とWHOとのグローバルな連携や、「誤情報との戦い」といった課題に対する各国政府間の連携についても言及している。

パンデミック対応の失敗を受けて

パンデミック条約の「ゼロドラフト(基礎草案)」の序文では、「コロナウイルスの疾病に対する連帯と公平性を示すことにおいて、国際社会は壊滅的に失敗した」として、条約の必要性が説かれている。

一方、条約反対派は、WHOの過去数年間における失敗を理由に、同機関の権限縮小を訴えている。

共和党のエリック・バーリソン下院議員は「WHOは最も腐敗し、最も無能で、かつ新型コロナを経て最も信用を失った国際機関の一つだ」と述べた。

「それにもかかわらず、ジョー・バイデンが最初にやったことの1つは、この腐敗した組織への復帰だった」。

2020年7月6日、トランプ前大統領は米国のWHO脱退の意向を通知し、資金援助も中止したが、バイデン大統領が就任直後にこの脱退通知を撤回している。

今月、共和党の下院議員らは、中国共産党がWHOに不当な影響力を行使しているとして非難し、再びWHOからの脱退を求めた。

アンディ・ビッグス下院議員は次のように述べている。

「中国共産党が、時系列を紛らわせ、重要な公衆衛生上の情報を隠匿し、世界に警告を発しようとした医師やジャーナリストらを抑圧して、積極的な隠蔽を働いたことは疑いようがない」。

「WHOは中国共産党の透明性を賞賛することで、隠蔽行為に応じた。そして、中国共産党の主張をそのまま繰り返した」。

共和党議員らは、本年度の議会で「WHO脱退法案(WHO Withdrawal Act)」や「WHOに対する資金提供停止法案(No Taxpayer Funding for the World Health Organization Act)」などを提出している。

「平和な時代における、市民の自由に対する最大の侵害」

新型コロナパンデミック以降、「公衆衛生」や「安全性」の名の下に権限を乱用する政府に対し、多くの米国人が懸念を抱くようになった。

そんななか、WHOとの「パンデミック条約」関連の交渉は秘密裏に進められている。

5月18日、連邦最高裁のニール・ゴーサッチ判事は、新型コロナの感染拡大防止を理由に2020年に発動された移民制限措置「タイトル42」に関する意見書を発表し、次のように述べた。

「2020年3月以降、私たちが経験したのは、わが国の平和な時代における、市民の自由に対する最大の侵害だ」。

「各地の当局が驚異的なスケールで緊急命令を発布した。知事や地方の指導者らはロックダウンを発令し、自宅にとどまるよう強制した。彼らは公共の場も個人の領域も閉鎖した。企業も学校も教会も閉鎖されたが、カジノや他の優遇されたビジネスは許可された」。

「違反者は、民事罰だけでなく刑事罰の脅れもあった。当局は教会の駐車場を監視し、ナンバープレートを記録した。ソーシャルディスタンス及びウイルス予防策に関する州の要件をすべて満たした屋外サービスであっても、参加すれば犯罪になり得ることを通知書で警告していた」。

「当局が都市や地域を色分けされたゾーンで分断したため、人々は法廷闘争で自由を守らざるを得なくなった。裁判で敗北が濃厚になると、当局はその色分け計画を変更した」。

「連邦政府は、衛生当局を利用して、全米の労使関係を規制した。彼らは労働安全当局を利用して、米国人のほとんどにワクチン接種命令を出し、従わない従業員を解雇すると脅した」。

「ワクチン接種を拒否した兵士は、懲戒除隊や収監の可能性を警告された」。

「連邦政府は、ソーシャルメディア企業に圧力をかけ、パンデミック政策に関して、自分たちが認めない情報を抑圧していた可能性がある」。

秘密裏に進む交渉

WHOによるパンデミック条約と国際保健規則(IHR)の改正は、「公平性」や「包摂性」などの理念を推進している一方で、言論の自由、集会の自由、プライバシー、宗教信仰、政策決定における投票権といった市民の自由は優先されていない。

たとえば、現在公開されているIHR改正案の草案では、「人間の尊厳、人権および基本的な自由を完全に尊重しなければならない」という文言は削除され、「平等性、包摂性、統一性の原則に基づき、社会経済的発展も含む、加盟国の共通だが異なる責任に合致しなければならない」に置き換えられた。

文書作成に携わった弁護士がエポックタイムズに語ったところによると、この改正案は交渉中に拒否されたようだが、その後の改訂版が一般公開されなくなったため、その主張は確認できない。4月、米国の代表団が、新たな草稿は一般に公開しないという中国の提案に同意したためだ。

秘密裏に進められる交渉に対し、複数の非営利団体や公衆衛生の専門家らが立ち上がり、ザビエル・ベセラ米保健福祉長官やアントニー・ブリンケン国務長官に抗議の書簡を送った。書簡には次のように綴られている。

「WHOのパンデミック条約に関する実質的かつ専門的なテキストベースの交渉を秘密のベールで覆おうとする試みは、多国間レベルでの規範設定に対して危険な前例を打ち立てるものだ」。

「このような行為は、WHOやパンデミック条約への非難が高まる中で、プロセスに対する信頼を損なう」。

米国憲法上、国際条約の締結には上院の承認が必要となる。しかし、パンデミック条約のゼロドラフトには、 WHOの代表が署名すれば協定は「暫定的」に発効されるという条項が含まれている。そうなれば、立法府の批准なく加盟国に法的拘束力を持つことになる。

また、IHRの改正案も、上院の承認の必要なく米国内で法的拘束力を持ちうる。

今月、WHOの権限強化に向けた取り組みに反対した、上で名前を挙げた以外の共和党の連邦下院議員は次の通りだ。

ロニー・ジャクソン議員、クリス・スミス議員、ブライアン・バビン議員、ケビン・ハーン議員、トーマス・ティファニー議員、チップ・ロイ議員、イーライ・クレイン議員、ポール・ゴサール議員、ローレン・ボーベルト議員、エリック・バーリソン議員、メアリー・ミラー議員、ダン・ビショップ議員、グレン・グロスマン議員、クレイ・ヒギンズ議員。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。