米議員や原子力専門家を悩ませる ロシア産ウラン依存

2022/05/06
更新: 2023/04/18

ロシア・ウクライナ戦争が続くなか、ロシアやその同盟国が産出するウランに対する、米国や各国の依存度が深刻な問題になっている。いっぽう、気候変動への懸念から、多くの政策立案者の間で原子力発電が再び注目されるようになってきた。原子力発電への関心の高まりが、ウラン依存の深刻さをますます強めている。

オーストラリアやカナダは、世界でもトップに位置するウラン生産国であるが、ウクライナ侵攻の影響を受けて、ウランの生産を拡大する態勢ができているといわれる。

いっぽう、米国での国内のウラン採掘量は1980年の4370万ポンドを頂点に、2019年にはわずか17万ポンドにまで減少している。

また、米国のウラン濃縮能力については近年一貫して低下しており、ロシア、中国、フランス、ドイツ、オランダ、英国に及ばないと、世界原子力協会(WNA)の統計が示している。

米国の状況とは反対に、ロシアは濃縮ウランの生産で世界をリードしている。地球上の濃縮ウランの約35%を供給し、総濃縮能力は中国を抑えて世界第1位だ。

米国の民間原子炉で使用されるウランの47%は、ロシアやカザフスタンとウズベキスタンから供給されている。また、米国が最先端原子炉で使用している高純度低濃縮ウラン(HALEU)も、ロシアからの輸入を主としている。

エコモダニストのNPOブレークスルー・インスティテュートは、3月の報告書で、「米国の政策立案者が大胆な措置を取り、HALEU燃料の供給をロシアなどから国内生産に切り替えない限り、米国が開発する原子炉やサービスの市場を見つけることはできないだろう」と警告した。

ロシアが持つウラン濃縮の強みは、兵器の製造に転用可能な高濃縮ウランにまで及んでいる。アナリストのローズ・ケリー氏は、2017年の核分裂性物質に関する国際パネルで発表した「ロシアのウラン濃縮活動に関する報告書」の中で、「ロシアは、他の国の合計より多くの高濃縮ウラン施設を運用しており、実質的に核セキュリティリスクを生み出している。ロシアの高濃縮ウランの備蓄量は地球上で最大である」と語っている。

米国の鉱業界全体を犠牲にした

大紀元の取材に応じた専門家の中には、ロシアの台頭やその同盟国によるウラン生産の増加を、米国の政策の失敗と捉えている人がいる。

スリーコンサルティングを率いる鉱山起業家のジム・ケネディ氏は、オバマ政権時代に物議を呼んだ、ロシアの国営企業ロスアトムがウラニウム・ワンを買収した案件を引き合いに出した。また、米国が高濃縮ウランから転換された低濃縮ウランをロシアから購入した「Megatons to Megawatts」計画にも言及している。

「すべての核分裂性物質を兵器用からエネルギー利用に転換させるという、ロシアとの寛大な取引は、おそらく正しい判断だっただろう。しかし、そのためにウラン鉱業は壊滅的な打撃を被った。我々は鉱業界全体を犠牲にしたのだ」と語った。

さらに、ケネディ氏は「鉱物は採掘されただけでは意味がない。鉱物の利用価値は、工程の下流で付加価値を付与することから発生する。現状に至ったもう一つの間接的な要因は、ウラン濃縮施設を民営化したことではないだろうか」と語った。

いっぽう、エネルギーや安全保障を専門とするハーバード・ケネディースクールのバン教授は違う見方をしている。

「米国でのウラン採掘は、カナダやオーストラリアなどに比べてより多くのコストをかかり、他の供給源に比べて競争力がなかった。民間企業が合理的な経済判断をした結果、米国内のウラン採掘量は以前よりずっと少なくなってしまった」。

加えて、米国は何十年もトリウム溶融塩炉の技術を使っておらず、オバマ政権は、秘密裏にトリウム溶融塩炉の技術を中国に移管したことも引き合いに出した。

トミー・チューバビル上院議員が、上院軍事委員会の公聴会でスティーブン・タウンゼント米アフリカ軍司令官に質問した際、「最も懸念するのは、我々は何年も前にこのことに気づいていたのに、エネルギー省がこの技術を中国に与えてしまったことだ」と述べた。

米国はウラン採掘のリーダーではないが、海水からのウラン抽出に可能性を見出す人もいる。このコンセプトは、科学者のジェームス・コンカ氏がフォーブス誌で詳しく説明している。コンリー氏は、「それがあれば、ロシアやその他の国についての話は意味のないものになってしまう」と語った。

コンリー氏のトリウムエネルギーアライアンスの同僚であるジョン・クチュウ氏は、「海から何十億ガロンもの海水を吸い上げて、それを脱塩して水素に転換するのであれば、同時にウランも手に入れることができるかもしれない」などと大紀元に語った。

バンとコンリーの両氏は、閉鎖の危機にある原子力発電所に60億ドルもの資金を提供するというバイデン政権の計画に対して、慎重な支持を表明した。バン氏は、「原子炉は低炭素電力の最大の供給源であり、安定した電力を供給するという点で公共政策的な意味はある。しかし、原子炉は旧型である」と語った。

「結局、バイデン政権は原子力を穏やかに容認するような気がする。現在、多くの環境保護団体が原発に反対し続けているが、彼らは反戦運動の影響を受け核兵器と核戦争とを同一視してきたベビー・ブーマーたちだ」とコンリー氏は語った。

エポック・タイムズ記者。国政を担当し、エネルギーと環境にも焦点を当てている。核融合エネルギーや ESG から、バイデンの機密文書や国際的な保守政治まで、あらゆることについて書いている。米国シカゴ拠点に活動。