経済産業省は6月29日、令和3年版通商白書を取りまとめ、同日に閣議配布した。同書は、感染症の拡大で国際的なサプライチェーンのぜい弱性を顕在化したため、主要国を中心に経済安全保障の強化が進むとした。また、人権や民主主義など「共通価値」に対する意識が通商においても高まり、これらを共有しないと事業は制約されうると指摘した。
欧米各国政府は、対外経済政策の一部として、サプライチェーン全体を通じた共通価値の実現に制度的な枠組みを構築しようとする動きが顕著になっている。これらの国々はさらに、価値を対外経済政策にも取り入れ、人権デュー・ディリジェンスや関連情報の開示義務を自国以外の企業(域外企業)にも適用したり、各国独自の制裁措置を講じる動きが強まっているとした。
白書は、共通価値への取り組みとしての新項目を設置し、「環境や人権といった共通価値が競争環境に取り込まれている。法律のみならず自社を取り巻くステークホルダーの期待も踏まえて」、「グローバルな企業経営にとって『人権』を含む社会課題への対応を経営戦略に組み込む国際的潮流への適応は急務である」と書いた。また、サプライチェーンを支える環境整備として、社会正義の実現に向けた規範づくりも課題だと述べた。
国際通貨基金(IMF)によると、2021年の世界の実質GDP成長率は6.0%と、2020年の落ち込み幅を取り戻すだけの回復が見込まれている。今後の経済回復は、各国の感染状況と防止対策の実施状況やワクチンの普及状況等に強く影響を受けるとみられている。
中国輸入シェアは頭打ち 東南アジアに分散
白書はさらに、日本のサプライチェーンの変化について指摘した。日本企業の中国立地は 2012 年頃をピークとして縮小傾向にあり、緩やかではあるもののアジア域内での生産拠点の分散化が進みつつある。「いくつかの主要な機械部品では中国からの輸入シェアが頭打ちとなり、タイ、ベトナム、インドネシア等のシェアが増加している」という。白書は、ビジネス環境の安定性などを考慮した取り組みを、日本企業が採用してきたことが影響していると記している。
経産省は、経済安全保障と産業競争力の強化に向けた取り組みとして、デジタル技術やデータを利用してバリューチェーンを確立すること、中国など集中度の高い重要物資の依存軽減、生産拠点の多元化、米国をはじめとする同志国との「信頼」を軸としたグローバル・サプライチェーンを構築することが重要であると指摘した。
(佐渡道世)