IT大手グーグル(Google)は、2010年に中国から撤退する前、中国政府の検閲をすでに受け入れていた。元従業員が最近、自身のSNSや米政府系ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材で明らかにした。
VOAによると、ヴィジャイ・ボヤパティ(Vijay Boyapati)さんは、2001年から2007年までソフトウエアエンジニアとしてグーグルに勤め、世界中の新聞や雑誌記事を表示する「グーグル・ニュース」の開発に携わっていた。
ボヤパティさんは10月15日、SNSのTwitterで中国に再参入の意欲を見せるグーグルが、以前より強くなった中国政府のネット検閲を受け入れる姿勢であるとし、「経営陣に道徳指針がないようだ」と強い懸念を示した。
ボヤパティさんは、当時の中国政府による情報統制の厳しさについてVOAに語った。「中国政府は、(グーグルニュースで)中国が発信源ではないニュースを掲載しないよう求めた。また、不都合な内容を15分以内に削除するよう要求してきた。私たちはいずれも従った」「つまり、中国にいるジャーナリストが反政府の記事を書いたら、すぐさま消される」
また、中国政府はグーグルニュースのトップページにあった「国際ニュース」「全国ニュース」「トップニュース」を削除するよう要求し、同社はこれらをすべて受け入れたという。
グーグルは2010年、検閲やサイバー攻撃を理由に、中国語版検索エンジン「Google.cn」の運用を停止し、実質上中国から撤退した。
ネットメディア・インターセプトは8月、社員の告発として、コードネーム「トンボ(Dragonfly)」という中国市場向けの検索エンジン計画があると報じた。検索エンジンには中国共産党政府の情報統制に合わせた検閲システムが搭載される。専門家は、ユーザー情報が中国政府の監視下に入ると危惧している。
この報道は会社の内外で騒動を呼んだ。上級幹部を含む1400人もの社員が、経営陣に宛てた書簡で、中国プロジェクトの透明性を示し、倫理と道徳を重視するよう求めた。9月初めに共同代表セルゲイ・ブリン氏は社内の全体会議で、中国向け検索エンジンを開発していることを認めた。
ブルームバーグによると、同サンダー・ピチャイ氏は社内向け会議で、中国向け検索エンジンの投入について、可能かどうかも含めまだ不透明だと述べた。
しかしながら、インターセプトの報道によると、検索エンジンの開発責任者ベン・ゴメス氏は内部会議で、2019年1月から4月までに、中国でプラットフォームを立ち上げることを目指すと述べた。
人民日報は8月6日、評論記事のなかで、もしグーグルが再参入を望むならば、必ず中国政府のネット検閲政策に従わなければならないと強調した。記事は間もなく削除された。
共産党政権下の中国では、超法規的な党規が敷かれている。ボヤパティさんは「多くの人は、法律によるルールと道徳に基づくルールの違いが分からない。しかし、これが権力層の人間だとしたら非常に危険だ。検閲が法律ならそれに従おう、となってしまう」と書いた。
米ペンス副大統領は、10月の中国政策に関する演説の中で、「グーグルは、共産党による検閲を強め、中国の顧客のプライバシーを侵害するトンボプロジェクトを直ちに終了すべきだ」と懸念を示した。
グーグルは近年、中国IT大手の小米(シャオミ、XIAOMI)や電子商取引・京東(ジンドン、JINGDONG)などと共同プロジェクトを立ち上げており、翻訳アプリ中国語版も発売した。9月に上海で開かれた国際人工知能(AI)会議にも参加している。
ボヤパティさんはSNSで、グーグルの従業員向けに「(検閲受け入れ)要求への対抗を支持したい、この動きが不道徳であると知ってもらいたい」と書いた。
(編集・佐渡道世)