「時間を買う」という幻想 米中貿易休戦の裏で進むレアアース供給網再編

2026/09/28
更新: 2026/09/29

9月24日、米トランプ大統領はホワイトハウスで習近平を迎え、米中首脳会談を行った。両国は貿易休戦を2027年1月10日まで延長し、レアアースを含む重要鉱物の供給問題について協議を続けることで一致した。

だが、今回の会談でレアアース問題そのものが解決したわけではない。アメリカが求めてきた供給の安定化をめぐる中国側との協議は、なお続く。ホワイトハウスも、供給を「適切な水準」に戻すことを目指すとしているが、恒久的な供給保証が成立したわけではない。

つまり、今回の会談がもたらした最大の成果の一つは、問題の解決ではなく、解決に向けて動くための時間だった。

サプライチェーンとレアアースをめぐり、首脳会談の表面に現れたのは、関税、農産物の購入、重要鉱物の供給、そして貿易休戦の延長である。しかし、その背後で進んでいるのは、「時間」をめぐる競争だ。米政権は、国内の産業基盤とサプライチェーンを立て直すための猶予を確保しようとしている。その向かいに座るのは、自らの最も強力な経済的武器も、永遠に効力を持つわけではないことを理解している中国共産党(中共)である。

今回の会談で米中両国が得たのは、対立を決着させる合意ではない。対立が再び激化する期限を先送りするための時間である。2027年1月10日という新たな期限は、問題の終点ではない。むしろ、それまでに西側がどこまで代替供給網を構築できるかを試す、新たなカウントダウンの始まりなのである。

30年にわたり、米欧の各国政府は、レアアースの精錬という環境負荷が高く、腐食性の強い化学工程を伴う事業を、グローバル市場の効率性という名の下で中国に委ねてきた。それは、いわばファウスト的な(壊滅的なリスクを伴う)取引、悪魔との契約にも等しいものだった。

民主主義諸国は環境負荷と巨額の設備投資負担を国外へ押し出す一方、北京は、現代文明を支えるうえで欠かせない化学分離や焼結磁石の生産能力の大部分を掌握した。

電気自動車(EV)の駆動系や風力タービンから、誘導ミサイルや精密レーダーに至るまで、米欧は「最も安価な調達先を選ぶことが、最も合理的な選択だ」と考えてきた。

その前提は、昨年4月に崩れた。北京はジスプロシウムやテルビウムなど中重希土類に輸出ライセンス制を導入し、レアアースを供給網そのものを左右する政策手段へと変えた。中共による輸出管理はその後も拡大し、アメリカ側では供給不足への懸念が続いている。先月には、中国からアメリカへのレアアース輸出も前月比で20%減少したと報じられた。

一夜にして輸出が止まり得る安価な材料は、もはや資産とはいえない。それは、供給途絶のリスクを抱えた負債でもある。この現実を、西側の製造業は突きつけられたのである。

この動きを単なる重商主義とみなすだけでは、中共がなぜこのカードを保持し続けるのかを説明しきれない。中共にとって、経済的統合は、必ずしも相互の繁栄だけを目的としたものではなかった。それは、相手側が北京への依存を深めることで、非対称な戦略的優位を形成する手段でもあった。

「安価な鉱石」の時代は終わった。そして米欧は、自らの産業と防衛の未来の一部が、産業サプライチェーンを戦略競争の一つの戦場とみなす中共の政策に左右されていることを認識するに至ったのである。

同盟国側の構想と その隘路

この狭く困難な道に直面し、民主主義諸国は、すでに存在していた対抗軸に目を向けた。ライナス・レアアース(Lynas Rare Earths)を要とする、オーストラリアとマレーシア間の供給網である。

西オーストラリア州のマウント・ウェルドで採掘した鉱石は、マレーシア沿岸部のゲベンで分離される。ここは、中国以外では数少ない商業規模の分離施設の一つである。ライナスはネオジム・プラセオジム酸化物の生産を拡大し、重希土類やサマリウムなどの生産にも乗り出している。マレーシアも同社の操業を支える体制を維持している。

だが、鉱石を地中から掘り出すことと、産業上の主権を確立することは同じではない。それは、供給網を構築するための最初の一歩にすぎない。

サプライチェーンは、鉱山から混合精鉱へ、混合精鉱から分離酸化物へ、そして金属・合金へ、さらに焼結磁石へとつながっていく。真の難所は、こうした下流工程にある。そして、これらの工程は依然として圧倒的に中国に集中している。

日本やアメリカ、ヨーロッパ、韓国で計画されている磁石工場も、中国の輸出管理の影響を受けない形で、分離済みの重希土類や金属を安定的に調達できなければ、十分に機能しない。

オーストラリアでは、二つの計画がようやくこの供給網の下流工程に進もうとしている。オーストラリアの資源開発大手イルーカ・リソーシズのエネアバ・レアアース精製所は、16億5千万豪ドル(約1650億円)の非遡及型(ノンリコース)政府融資に支えられ、2027年半ばの稼働開始を目指している。アラフラ・レアアース社が進める「ノーランズ計画」も、鉱石から酸化物までを一貫して手がける事業として進展している。

カリフォルニアでは、マウンテンパスが再び重要な拠点となった。2010年代半ばに中国との価格競争でモリコープが破綻した同じ鉱床が、いまや国防総省の支援を受けた「鉱山から磁石まで」の供給網構築の中核となっている。日本政府もライナスとの長期契約などを通じ、価格変動のリスクを抑えながら、中国以外の供給源を確保しようとしている。

重要なのは、自由市場の論理だけでは、この問題を解決できなかったことだ。

北京が市場に供給をあふれさせ、価格を急落させ、競合する施設を稼働前に破綻へ追い込む危険性がある以上、数十億ドル規模の製錬所に民間資本だけで資金を供給することには限界がある。

そこでワシントン、東京、そしてキャンベラが、政府融資、出資、戦略的備蓄、そして下限価格を設定した長期の引き取り契約などを通じて乗り出した。サプライチェーンを維持し、再構築するためには、米欧が一世代にわたって距離を置いてきた方向、すなわち国家が支える産業政策への転換が必要になったのである。

ここで重要な点がある。こうした政策が必要になった背景には、北京による国家主導の産業政策と供給網支配がある。米欧諸国による国家レベルの介入は、その非対称性を是正するための対応と位置づける。

「時間稼ぎ」は何を意味するのか

今回の米中首脳会談を終え、改めて問われるのが「時間」の意味である。

米中両国は貿易休戦を2027年1月10日まで延長した。中国によるレアアースなど重要鉱物の輸出管理をめぐっては、供給不足を解消するための協議が続くことになった。だが、今回の合意は、中国以外の供給網がすでに十分な規模に達したことを意味しない。

むしろ、アメリカが北京への依存を減らすために必要とする数年単位の時間と、今回確保した数か月単位の時間との間には、大きな隔たりが残っている。

2010年の尖閣諸島をめぐる緊張の後、北京が非公式にレアアースの出荷を絞ったとき、日本は供給源の多角化に動いた。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と双日は2011年にライナスへ投資し、東京は代替品、リサイクル、備蓄にも資金を投じた。

それから15年が経過し、日本はレアアース輸入に占める中国の割合を大幅に低下させた。それでも、2025年に輸出ライセンス制を導入すると、重希土類や焼結磁石をめぐる脆弱性が露呈した。

15年という先行期間を得た製造大国でさえ、供給網の弱点を完全には断ち切れなかったのである。ならば、今回延長した数か月間の休戦を、構造的な問題を解決のための十分な時間とみなすことはできない。

今回の会談は「時間を稼いだ」のではなく、より正確に言えば、問題が再び表面化するまでの時間を延ばしたのである。

問題は、その時間を何に使うかだ。

米欧の政策立案者が、北京もまた供給網の安定と相互利益を重視するだろうと考えれば、今回の休戦延長は安定化の材料になる。しかし、北京はすでに、採掘・分離技術や磁石製造技術の輸出管理を強化し、さらに装置や工程に対する規制へと対象を広げてきた。

昨年10月に導入した一連の措置については、その後の了解によって今年11月まで一時停止している。一方、昨年4月に導入した元素そのものに対する輸出ライセンス制は、なお供給網の重要な制約要因として残っている。

今回の会談によって、こうした構造が消えたわけではない。むしろ、北京がレアアースを戦略的な交渉材料として保持する一方、アメリカ側は、その間に代替供給網をどこまで構築できるかを問われている。

時間を稼ぐことが意味を持つのは、その時間を使って北京への依存度を下げる場合だけである。

虎に跨る

自らの鉱物資源における優位を戦略的な武器として利用することで、北京は古くからのジレンマに自らを閉じ込めた。「虎に跨った者は、途中で降りるに降りられない」というジレンマである。

独占という切り札は、実際に行使しなくても脅威として存在することで、大きな力を持つ。手の内に温存しておけば、その暗黙の圧力は消費者を慎重にさせ、西側の設備投資を冷え込ませ、人工的に押し下げられた価格の下で、北京以外の競争相手を圧迫できる。

しかし、実際に輸出を制限すれば、その効果は別の方向にも働く。

昨年の輸出規制以降、西側ではレアアース供給網の脆弱性が安全保障上の問題として強く認識されるようになった。アメリカは国内での採掘・加工・磁石製造を支援し、日本やオーストラリアなど同盟国との供給網構築を急いでいる。米政府は今回の首脳会談でも、レアアースを含む重要鉱物の供給不足を問題として取り上げ、供給水準の回復を目指すとしている。

つまり、実際に行使した切り札は、相手に対策を促すという意味で、必ずしも永続的な優位をもたらすものではない。

出荷が差し止められるたびに、それは同盟国の政府や企業に対し、北京からの供給に依存することが、単なる価格上の問題ではなく、地政学的リスクを伴うことを示す。

その認識が、北京の優位を支えてきた市場構造を変え、政府による下限価格、補助金付きの引き取り契約、戦略備蓄など、民間市場だけでは成立しにくかった仕組みを生み出している。

さらに、この動きは北京のより大きな産業上の野心にも影響を及ぼす。

彼らが目指してきたのは、低収益で環境を汚染する世界の採掘場にとどまることではない。鉱物資源の優位性を梃子(てこ)として、先端製造業の連鎖全体を北京側へ引き寄せ、世界に中国で組み立てられた駆動系、ロボット、そして電気自動車を買わせることだった。

ところが、原料を地政学的な武器として扱えば、相手国は高付加価値製品そのものについても対中依存を減らそうとする。結果として、北京は自国の製造業が持つ市場上の優位性を守る一方で、相手側の「脱中国」を促進するという逆説に直面する。

それでも、北京にとって虎から降りることは容易ではない。

国内のナショナリズム、習近平政権が掲げてきた経済安全保障と反制裁の政策、そして外部からの圧力に対して対抗措置を取るという政治的論理が存在するからだ。中国がレアアースを交渉材料として使えば使うほど、米欧は代替供給網の構築を急ぐ。

その結果、北京の独占は、長期的には自らの価値を削る可能性もある。

二つの時計は止まっていない

トランプ氏と習がワシントンでの会談を終えた今、米中のレアアース競争は、二つの時計の競争として見ることができる。

時計Aは、米欧のものだ。

施設の許認可を取り、重希土類の化学処理を行い、国内の金属・合金生産を整え、さらに焼結磁石の生産能力を拡大していく。これは、数年から十年以上を要する、遅く複雑な産業再構築である。アメリカが対中依存を大幅に減らすには、5~10年程度を要し、年間100億ドル規模の補助金が必要になるとの試算もある。

時計Bは、北京のものだ。

北京が分離済みの重希土類酸化物や永久磁石でなお優位を保ち、それを政策手段として利用できる期間である。

今回の首脳会談によって、時計Bは止まらなかった。ただし、米中両国は、その針を一時的に緩めることを選んだ。貿易休戦は2027年1月10日まで延長され、重要鉱物についても協議を続ける。だが、それは北京の独占が終わったことを意味しない。

ここに、今回の会談の本質的な意味がある。

ワシントンは数か月の安定を得た。北京もまた、輸出管理をめぐる対立を直ちに激化させる必要がなくなった。しかし、アメリカが必要としている産業基盤の構築には数年を要する。

この時間差こそが、レアアース問題の核心である。

首脳会談を「日程を管理する」ための外交として見るだけでは、この構図は見えにくい。重要なのは、2027年1月10日までに何が変わるかである。

アメリカと同盟国がその間に、採掘、分離、金属・合金、磁石製造までを含む供給網をどこまで構築できるのか。北京はその過程で、どこまで輸出管理を緩和し、どこまで供給を安定させるのか。そして米欧が代替能力を獲得する前に、北京が再びレアアースを交渉材料として使うのか。

今回の会談は、その答えを出さなかった。むしろ、答えを出すための時間を、もう一度確保したのである。

したがって、米中レアアース競争の焦点は、会談そのものから、その後へと移った。ワシントンと北京が得たのは解決策ではなく、期限付きの猶予である。

その猶予を産業基盤へと変えられるかどうか。それが、次の局面を左右することになる。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。