イーロン・マスク氏が率いるアドバイザリー委員会「政府効率化省(DOGE)」は、複数の連邦機関にチームを派遣し、技術を活用してコスト削減や業務プロセスの効率化を図っている。
トランプ政権2期目の開始から数週間で、マスク氏のチームのエンジニアやアドバイザーたちは少なくとも4つの連邦機関の情報技術(IT)システムにアクセスした。マスク氏によれば、DOGEの活動は政府の支出削減と無駄の排除を目的としている。しかし、この動きには一部の民主党議員から批判が出ており、選挙で選ばれていない政府の特別顧問による議会監視権限の侵害だと指摘されている。
ニューヨーク州選出のダン・ゴールドマン下院議員(民主党)は、DOGEが十分な安全性が確認されていない商用サーバーを使用し、連邦のデータベースに接続している可能性を挙げ、サイバーセキュリティ上の懸念を表明した。
一方、今週行われた下院監視委員会の「政府の無駄削減」に関する公聴会では、ジェームズ・コマー下院議員(共和党)が行政機関におけるマスク氏の異例の役割を擁護し、「真のイノベーションは必ずしも整理整頓されたものではない」と述べた。
トランプ大統領は2月7日、石破茂首相との共同記者会見で、DOGEによる連邦データシステムへのアクセスを擁護した。
トランプ氏は「膨大な金額が何の役にも立たないものに使われているのが現状だ。この若者たちの仕事を非常に誇りに思っている。これは私の指示のもとで行われている。やらない方が楽だが、問題を解決するには一度一部を分解し、その中に潜む腐敗を見つける必要がある」と述べた。
現在までに、DOGEのチームは財務省、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS、医療保険の監督機関)、エネルギー省、海洋大気庁(NOAA)のITシステムにアクセスしている。一方、労働組合連合は労働省へのアクセスを阻止するために訴訟を起こしている。
また、DOGEが人事管理局(OPM)や国際開発庁(USAID)など、他の連邦機関の内部システムやデータベースにアクセスしたかどうかについては、大紀元が独自に確認することはできていない。
財務省
財務省は2月4日付の議会宛ての書簡で、DOGEスタッフに対し、同省が利用する約6兆ドル規模の支払い管理システムへの「閲覧のみ許可されたアクセス」を提供したことを確認した。
このシステムを管理する財務省財政サービス局は、メディケアや社会保障の支払いを含め、連邦政府の支払い全体の 88%、年間合計 12 億件を超える取引を処理している。この中には、メディケアや社会保障の支払いも含まれている。

書簡によれば、Cloud Software GroupのCEOであるトム・クラウス氏は、政府の特別顧問として勤務し、財務サービス局の運用効率の評価や、悪用、不正、浪費の防止に取り組むことになっている。この作業は、財務省の職員と共同で行われる予定だ。
2月4日、民主党の複数の議員がワシントンD.C.の財務省ビル前で抗議者らに合流し、支払い遅延、政治的影響力の行使、サイバーセキュリティへの脅威の可能性について警告を発した。
「私たちはイーロン・マスク氏に言わなければならない。『あなたを選挙で選んだ人などいない。誰もあなたに私たちの個人情報をすべて渡していいとは言っていないし、この国の支払いを管理する権限を与えた覚えもない』と」
このように述べたのは、カリフォルニア州選出のマキシン・ウォーターズ下院議員(民主党)だった。
翌日、司法省は裁判所に提出した文書で、DOGEの財務省支払いシステムへのアクセスを現時点では制限する方針を明らかにした。
「被告は、財務サービス部門が保有または管理する支払い記録や支払いシステムへのアクセスを一切提供しないものとする」と司法省は記載している。また、「特別政府顧問」については、財務サービス部門の情報に対し「データの閲覧のみ許可されたアクセス」の例外を認めると補足している。
メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)
DOGEは、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)のシステムおよび技術へのアクセスも許可されていると、CMSは2月5日に発表した。
「CMSでは、政策と運営に特化した担当者2人のベテラン職員がDOGEとの連携を主導している。この連携では、CMSのシステムや技術への適切なアクセスを確保することも含まれている」と、CMSは声明で述べた。
CMSは、アメリカ保健福祉省傘下の機関であり、メディケアおよびメディケイドのプログラムを管理している。メディケアは高齢者および障害者向けの健康保険であり、メディケイドは低所得者を対象とした健康保険である。この2つのプログラムにより、1億4千万人以上に健康保険が提供されている。
CMSの声明によれば、「トランプ大統領の目標に沿い、より効果的かつ効率的な資源利用の可能性を慎重に検討している」としている。
2月5日、イーロン・マスク氏は、CMSでのDOGEのアクセスを取り上げたウォール・ストリート・ジャーナルの記事を引用し、Xに「ここで大規模な詐欺が起こっている」と投稿した。
DOGEは政府支出を2兆ドル削減することを目標としているが、健康保険および社会福祉プログラムへの支出を削減しない限り、この目標を達成するのは困難であるとみられている。

メディケア、メディケイド、子ども健康保険プログラム、および「オバマケア」マーケットプレイスの健康保険補助金は、2024年度の連邦予算の24%を占めていると予算政策優先センターは指摘している。
しかし、トランプ大統領は先週、記者団に対し、浪費や不正が見つからない限り、メディケア、メディケイド、社会保障に影響はないと述べた。
「受給者は影響を受けない」とトランプ氏は語り、これらの福祉プログラムの利用者を指している。
トランプ氏は2月7日、社会保障について「手を加えない」と改めて強調した。また、彼の政権では社会保障とメディケアを利用している不法移民を特定し、排除する予定であるとも述べた。
「社会保障には手を付けない。むしろ強化するつもりだ。しかし、本来資格がないのに受給している人々がいる。それらの人々を排除しなければならない」とトランプ氏は語った。
海洋大気庁(NOAA)
DOGEは、商務省を通じて海洋大気庁(NOAA)のITシステムへのアクセスを許可されていると、複数の民主党議員が明らかにした。
上院商務・司法・科学歳出小委員会の筆頭委員であるクリス・ヴァン・ホーレン上院議員は、DOGEが海洋大気庁のITシステムにアクセスしていることを確認した。また、下院天然資源委員会の民主党筆頭委員であるジャレッド・ハフマン氏と、下院科学・宇宙・技術委員会の民主党筆頭委員であるゾーイ・ロフグレン氏も、DOGEのアクセスを確認している。
両氏は2月4日に共同声明を発表し、DOGEによる海洋大気庁への調査について批判した。
「イーロン・マスク氏と彼のDOGEハッカーたちは、連邦政府中を荒らし回り、人々が頼りにしているプログラムを破壊している」と声明には書かれている。
「今度は海洋大気庁にまで及び、アメリカ国民の安全と雇用を守る科学的および規制のシステムを混乱させている」としている。
議会調査局によれば、海洋大気庁は「気候、天候、海洋、沿岸の変化を理解し、予測する役割を担う主要な連邦機関」であるとされている。
ハフマン議氏とロフグレン氏は、アメリカ国民が「毎日」海洋大気庁のサービスを利用しており、「ハリケーン、山火事、竜巻といった厳しい天候の警報」に依存していると指摘している。
商務省の一部である海洋大気庁には、国立気象局や国立ハリケーンセンターが設置されており、気象予報や脆弱地域に住む住民に迫り来る嵐を警告するための重要な役割を果たしている。
エネルギー省
DOGEのスタッフがエネルギー省を調査しているとの報道が出た後、同省のクリス・ライト長官は2月7日にCNBCのインタビューでこの件を確認した。ただし、マスク氏のスタッフがアメリカの核機密にアクセスしたとの疑惑については否定した。
同氏はCNBCのブライアン・サリバン氏に「こうした噂を耳にしているが、核機密を見たなどという話は全くの事実無根だ」と語った。
エネルギー省は、アメリカの核関連のインフラの管理やエネルギー政策の実施を担う機関である。同省はエネルギー関連の科学研究に資金を提供しており、アメリカの核兵器備蓄の維持および近代化もその主要な責務の一つだ。

ライト氏によれば、現在3人のDOGEスタッフがエネルギー省のオフィスで働いているという。
ライト氏は「彼らが誰かはよく知っている。彼らは当省のセキュリティを通過し、チェックを受けている。そして、オフィス内を見回り、関係者と話し合い、現状について有益なフィードバックを提供してくれている」と述べた。
匿名の情報源をもとにした報道では、DOGEの若い代表者がエネルギー省のITシステムにアクセスしているとされていたが、ライト氏はこれを否定した。
「DOGEのスタッフは、誰の機密情報にもアクセスしていない」と断言した。
その他の動向
労働組合の連合体は2月5日、アメリカ労働省、その代理長官であるヴィンス・ミコネ氏、およびイーロン・マスク氏を相手取り、DOGEが同省のコンピューターデータに違法にアクセスしようとしているとして訴訟を起こした。
訴状では、DOGEが「これらのシステムの整合性を守る職員を解雇する意図を持っている」とし、さらにマスク氏が労働省による自身の事業取引に関する調査データにアクセスできるようになる可能性を指摘している。
「DOGEはあらゆる段階で複数の法律に違反している。これには、行政権の憲法上の制限、公務員を恣意的な脅威や不当な処分から守る法律、そして数億人のアメリカ国民に関する政府データを保護するための重要な規定が含まれる」と訴状には書かれている。
この訴訟の原告には、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(アメリカ最大の労働組合連合体)、サービス従業員国際組合、そしてワシントンに拠点を置くシンクタンク「経済政策研究所(EPI)」が含まれている。彼らはDOGEに対して、一時的差し止め命令または行政上の停止命令を求めている。
2月5日、ホワイトハウスのレビット報道官は、マスク氏が利益相反となる事案には関与しないと述べた。
労働省の公式ウェブサイトによれば、同省は「最低賃金や残業代の支払い、公正、安全、健康的な労働環境を保証するための連邦労働法を施行している」としている。これには、雇用差別からの保護や失業保険の提供も含まれる。
カリフォルニア大学学生協会の訴訟
カリフォルニア大学学生協会は2月7日、DOGEスタッフが教育省の機密学生データに違法にアクセスしているとして訴訟を起こした。この訴訟はワシントン連邦地裁に提訴されており、教育省のコンピュータシステムに保存されている学生の財政支援情報へのDOGEのアクセスが連邦プライバシー法に違反していると主張している。
この訴訟は、DOGEが数百万人の財政援助受給者の個人情報を含む機密データにアクセスしていたとの匿名の報告を受けた後に提起され。ただし、大紀元はこれらの報道を独自に確認することができなかった。
DOGEは本稿の公開時点でコメントの要請に応じていない。
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