浸透工作 現在中東で目撃されている恐怖は、中国共産党による数十年の浸透工作に起因する

【プレミアム報道】イスラムテロ組織の背後に赤い影 中国共産党は「究極の後ろ盾」

2023/11/11
更新: 2023/11/16

イスラム過激派テロ組織「ハマス」による襲撃から1カ月以上が過ぎた。その間、中国最大の検索エンジン「バイドゥ」の地図から「イスラエル」の国名が消え、国営メディアやインターネット空間ではイスラエルへの敵意が垂れ流されている。

中国政府は、調停者および平和の支持者と自認しているが、テロ攻撃を起こしたテロリスト集団のことに一言も触れていない。

記者から、「ハマス」という単語に触れない理由を聞かれたとき、中国外交部の報道官は、正義を支持し「あらゆる暴力攻撃」に反対するという主張を繰り返すだけだった。

これについて、トランプ政権下で中国政策アドバイザーを務めたマイルズ・ユー氏はエポックタイムズに対し、「これでは(中共が)違う角度からハマスの味方をしているに等しい」と語った。

ユー氏をはじめとする中国問題専門家らにとって、中共の沈黙は見せかけに過ぎない。中共政権は「平和の擁護者」と自称しているが、それは実態とあまりにかけ離れている。それどころか、中共は他国がその野心に気づかぬよう「世界の他の地域でトラブルを起こしている」という。

イスラエル・ハマス戦争開始から数週間経った2023年10月31日、中国の検索エンジンBaiduの地図からイスラエルの国名が消えていることが確認された。(スクリーンショット)

究極の後ろ盾

10月7日のテロ攻撃以降、真っ先に疑いの目を向けられたのはイランだった。ハマスの後ろ盾として、イランが訓練プログラムや後方支援を提供したのではないかと考えられているのだ。

当のイランはハマスへの支持を恥ずかしがらずに表明してきた。ハマスによるイスラエル攻撃を「歴史的勝利」と称賛し、パレスチナを支援する集会を組織した。さらに、ハマスの目標達成のために「協力を続ける」と誓った。

2020年度の米国務省報告書によると、イランはハマスやパレスチナ・イスラム聖戦、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)といった武装組織に年間約1億ドルを提供していた。2022年、ハマスの指導者イスマイル・ハニヤは公の場で、同年イランから約7000万ドルを受け取り、それをロケット弾製造に使用したと述べた。

ハマスの背後にいるのはイランだ。イランが手助けしなければハマスは存在しなかっただろう

イスラエル国防軍の広報官、ジョナサン・コニカス中佐

エポックタイムズの姉妹メディア「新唐人テレビ(NTDTV)」の取材に対し、イスラエル国防軍報道官のジョナサン・コニカス中佐は「ハマスの背後にいるのはイランだ。イランが手助けしなければハマスは存在しなかっただろう」と語った。

しかし、中国共産党の内部事情に詳しいジャーナリストや中国問題専門家は、イランの存在を過度に強調するのは的外れだと主張している。

元米国務省中国政策アドバイザーのマイルズ・ユー氏はその一人だ。「中国はイラン独裁政権存続の立役者だ」とし、「中国は今回のテロ攻撃について間接的な責任を負っている」と強調した。

中国の仲介でイランとサウジアラビアが国交回復したとの新聞記事を見るイラン人男性。テヘランで撮影。(ATTA KENARE/AFP via Getty Images)

もちろん、今回の紛争に中国が関与していることを示す直接的な証拠はない。しかし、中国が中東における米国の影響力に対抗するため、イランと緊密な関係を築いてきたのは紛れもない事実だ。

中国は10年連続でイランの最大貿易相手国であり続けた。今年3月には、イスラエルがサウジアラビアとの関係回復を模索しているのを横目に、中国が自ら仲人となり、イランとサウジアラビアの国交正常化を推進した。

中国企業は米国の貿易規制を無視してイランに軍需品を供給し、ドローンやミサイル、核開発を支援してきた。

元イスラエル海軍高級将校のエヤル・ピンコ氏はエポックタイムズの取材に対し、中国・イラン・ハマスは間違いなく「同じ穴のムジナ」だと指摘した。

「イランの核開発にも中国が関与している。両国の協力は戦略的なもので、非常に緊密だ」

英外交政策シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会」の研究員クリストファー・ボールディング氏も同じ意見だ。

「中国は、自国の行為が暗にハマスを支援することになっていると気づかないはずがない」

ボールディング氏はさらに、中国の通信大手ファーウェイとZTEが、イランやレバノンをも含む中東の広い地域で事業展開していることに言及。それらの通信機器は中国当局に「莫大な」情報を送信している可能性があるとした。

そして、「中国のデータ収集者らはテロ攻撃が発生する前に、ハマスの活動についての噂を知っていた」可能性が高いと分析した。

中国通信大手ファーウェイ(Huawei)のロゴ。2022年2月28日、スペイン・バルセロナで撮影 (David Ramos/Getty Images)

台頭する「悪の枢軸」

中東で戦争が長引くことで、情勢は段々と中国共産党にとって有利な方向に進んでいる。戦争は西側諸国の資源を枯渇させ、中共政権が積極的に進出を試みるインド太平洋地域への注意を逸らすことになるだろう。

米国がウクライナとイスラエルに気を取られている間、中共は他の地域で影響力を拡大し、新しい世界秩序を構築するための「悪の枢軸」を構築している。

中国共産党のエリート幹部を育成する「中共中央党校」の元教授である蔡霞氏はこのほど、エポックタイムズの取材に応じた。

ウクライナ侵攻によってロシアの地位が低下するなか、中国の習近平氏は自ずと「ボス」になると指摘した。

「最も利益を得る者こそ、裏で糸を引いている首謀者に違いない」と蔡氏は語った。「彼らは目的を達成するためにあらゆるものを利用する。彼らの目には権力と地位しかなく、道徳的規範などどこ吹く風」

ロシアと中国共産党が中東戦略で連携していることは、両国のイスラエル・ハマス戦争に対する画一的な姿勢を見れば明らかだ。プーチン氏が訪中した約1週間後の10月26日、ハマス代表団がロシアを訪問し、拘束されているロシア人人質の解放について話し合った。その後、ハマスは声明を発表し、「西側諸国から支援を受けるイスラエルの犯罪」を終わらせようとするプーチン氏の取り組みを称賛した。

中国は国連で、一貫してパレスチナに肩入れしてきた。10月25日、米国がハマスのテロ攻撃を非難し、イスラエルの自衛権を支持する決議案を提出した際には、中露が反対票を投じた。

台湾淡江大学の国際関係学専門家である鄭欽模氏は取材に対し、中国とイラン、ロシアそして北朝鮮がすでに「悪の枢軸」を形成していると語った。

「米国に敵対する者はみな仲間。これが彼らの基準だ」

共産主義陣営の結束

中国当局とパレスチナとの関係は、1960年代半ばまで遡る。当時、中国は新しく創設されたパレスチナ解放機構(PLO)をパレスチナ人の代表として認め、非アラブ国家として初めてその代表事務所を設けた。

中国国営メディアの報道によると、1969年からPLOを主宰し、2004年に死亡するまで指導者であり続けたヤセル・アラファト氏は、毛沢東の大ファンだった。中国大使館のウェブサイトに掲載された2021年の記事によると、毛沢東のゲリラ戦術は、イスラエルとの闘争で「大きな効果」をもたらしたという。

同報道は、アラファト氏が中国共産党と「深い友情」で結ばれていたため、「パレスチナの解放運動が転換点に直面するたびに」中国を訪れていたのだろうと指摘、アラファト氏が「年に1度は中国の指導者らと意見交換することを習慣化していた」と記した。

中国共産党の機関紙は、パレスチナにおける中共の影響力を誇りとしている。官製メディア「人民日報」の1969年の報道では、パレスチナ人の戦士たちは、毛沢東の格言や著作を「精神的な食糧」と呼び、「最も強力な武器」と称した。

パレスチナ解放機構(PLO)指導者ヤセル・アラファト氏は1971年に北京を訪問し、中国共産党指導者の周恩来(右)と会談した。 (Photo by -/XINHUA/AFP via Getty Images)

記者は、パレスチナ人が毛沢東を尊敬する様子を伝えた。ヨルダンの難民キャンプには毛沢東の肖像が掲げられ、難民たちは毛沢東の著作を食べ物や水よりも重要なものとして扱っていると記した。

1992年から2002年まで駐中国パレスチナ大使を務めたムスタファ・サファリニー氏は、19歳のとき中国で政治的・軍事的訓練を受け、その後イスラエルとの戦闘に赴いた。サファリニー氏は中国に滞在していた間、北京大学で国際政治を学び、現在の妻に出会った。中国は彼にとって「第二の故郷」だったという。

共産主義の浸透に詳しい専門家のトレバー・ラウドン氏は「テロ組織は常に毛沢東思想に立脚していた」と語った。そして、世界各国の社会主義団体がハマスを支持する集会を始めたのは偶然ではないと指摘した。

「いわゆるイスラム主義テロは共産主義の建前だ」とラウドン氏。末端の実働部隊がそれに気づいているかどうかに関わらず、指導者たちは 「共産主義の目標を追求している」と述べた。

中共政権によるパレスチナ支援は続いている。2022年12月、中国とパレスチナは「一帯一路(中共が政治的・経済的影響力を輸出するためのプロジェクト)」の覚書に調印した。今年6月にはアッバス氏が5回目の訪中を果たし、中国と戦略的パートナーシップを結んだ。同時に、中国の武漢市とパレスチナのラマッラー市との友好協定を発表した。

2023年7月30日、中国の何立峰副首相のパキスタン・ラホール訪問を前に、中国とパキスタンの国旗を描いた装飾の前を車で通り過ぎる家族。 (ARIF ALI/AFP via Getty Images)

「偶然ではない」

十数年前、中国中央銀行がハマスの行為に加担したとして訴えられる事件があった。テロリストのロケット弾攻撃の被害者が中国中央銀行を相手取り、中国中央銀行がハマスへの資金移動を許可したとして、10億ドルの賠償を求めた。

当初、イスラエル政府は自国民の訴訟を支持したが、2013年末になると立場を変え、重要な証人である元対テロ要員の証言を禁止した。その背後には中国からの圧力があったと伝えられている。

訴訟に参加したイスラエル人弁護士のニツァナ・ライトナー氏はエポックタイムズの取材に対し、「お金はテロリズムにとって酸素のような存在だ」と語った。中国中央銀行は中国当局の管理下にあるため、中国中央銀行のいかなる行為も政府の政策を反映していると指摘した。

「当時、中国がハマスを支援していたことは、非常に憂慮すべきポイントだった」と彼女は語った。

中共当局は彼ら自身の方法でパレスチナに関わる意向を明確にしてきた。

2006年、中国共産党政権は米国とイスラエルの反対を無視して、ハマスの上級指導者マフムード・アル=ザハール氏を北京に招待した。

ハンガリーのブダペスト市内中心部にある中国銀行のロゴマーク。2015年2月16日撮影(Sean Gallup/Getty Images)

フーバー研究所の訪問研究員であるマシュー・ジョンソン氏は取材に対し、中国のこのような行動はハマスを正当化し、ハマスの「パレスチナおよびパレスチナ人の代表者としての地位を固めるものだ」と語った。

軍事面では、中国はパレスチナ解放機構(PLO)が成立した1964年から武器提供を始め、1980年代初頭まで続いた。米国海軍大学院のマーク・モリソン氏による1984年の論文によれば、1981年9月には、「大量の重火器」が少なくとも週2回の頻度で提供された。

研究者のリリアン・クレイグ・ハリス氏は1977年、中国を「パレスチナのゲリラ組織を最も一貫して支援する大国」と称した。

「中国は武装組織に武器を供給し、批評し、各組織を統一しようとしてきた。関係に変動があっても、中国は精神的・物質的な支援を提供し続けた」

同氏は学術誌「パレスチナ研究ジャーナル」に発表した論文で、中国の軍事援助がなければ「PLOが今日のような強い政治力を持つ組織になることはなかっただろう」と記した。

現在進行中のイスラエル・ハマス戦争では過去と同様に、中国の技術で作られた武器がガザ地区に流れ込み、ハマスの手に渡っている。

2023年10月20日、イスラエルのキルヤット・マラキで、ガザ地区とのイスラエル南国境を攻撃した際にハマスとパレスチナ過激派が使用した軍事装備と弾薬を展示するイスラエル兵士。(Amir Levy/Getty Images)

前出の元イスラエル海軍高級将校エヤル・ピンコ氏は、2006年のレバノン侵攻の際、イスラエル側の旗艦「ハニット」に、ヒズボラが発射した中国のコピー品ミサイルが命中した事件を引き合いに出した。さらに、イスラエル当局は2014年、シリアのロケット弾に中国国営の四川航空宇宙工業集団公司が開発した長距離誘導システムが搭載されているのを確認した。

2009年、ハマスの軍事部門アル・カッサム旅団が使用していたロケット弾に、中国製の鋼鉄パイプが使われているとされる写真が出回った。世論の圧力を受けて、中国メーカーは、パイプは中東のガス会社に出荷される予定だったと説明した。

パイプの製造メーカーは「当社の製品が最高品質で、価格も手頃であることを示しているだけだ」と述べた。「どの国の顧客なのか」を明かしていないが、「間違いなくレバノンではない」と付け加えた。

中国メディアによると、ハマスは2014年の軍事パレードで、中国製の63式装甲兵員輸送車​​を披露した。63式は中東でとくに人気のある車両だ。

「中国に偶然はない」とピンコ氏は述べた。

共産主義の浸透工作に詳しいラウドン氏にとって、パレスチナ地域のさまざまな政治グループは「マフィアの派閥」と何ら変わらない。

「彼らは互いに支配領域をめぐって衝突するかもしれないが、共産主義を支持し、西側諸国を憎み、イスラエルを破壊したいという点で団結している」と同氏は語った。

イスラエルは中国と長年にわたって緊密な貿易関係を維持してきた。しかし、今回のハマス襲撃をきっかけに、イスラエルは中国との関係を見直す可能性もある。イスラエルの事実上の駐台湾大使であるマヤ・ヤロン氏は、台湾のイスラエルに対する声高な支持について「本当に良き友人」と称賛する一方、中国の対応は「非常に残念だ」と述べた。

人類は未来を予測できないが、世界は明らかに危機感を覚えている。

ラウドン氏は「第三次世界大戦のシナリオにどんどん近づいている。我々は崖っぷちに立たされるのだろうか。そうでないことを願うが、戦争が起きるかどうか、しっかりウォッチしていかなければならない」と指摘した。

記者・駱亜がこの記事に貢献しました。

Eva Fu
エポックタイムズのライター。ニューヨークを拠点に、米国政治、米中関係、信教の自由、人権問題について執筆を行う。