一般的な睡眠薬で認知症リスク上昇 研究で明らかに

2023/05/13
更新: 2023/05/13

最近の米国睡眠医学会のデータによると、米国人の約3分の1が不眠症を抱え、そのうち約3分の1が自己治療を行なっている可能性があるといいます。

また、日本の厚生労働省のe-ヘルスネットによると、日本人の成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、5%が睡眠薬を服用しているそうです。

しかし、米国での新たな研究によって、睡眠薬の使用者が安眠のために非常に高い代償を支払っている可能性があることが判明しました。

睡眠薬で認知症リスクが80%上昇

研究では、認知症を有していない白人と黒人の高齢者約3,000人を平均9年間追跡調査したところ、睡眠薬を頻繁に使用する白人の参加者の認知症の発症リスクが、ほとんど使用しない参加者と比較して79%上昇することが分かりました。

研究期間中、参加者の20%が認知症を発症したほか、白人は黒人より3倍の頻度で睡眠薬を服用する傾向があることも明らかになりました。

また、白人はベンゾジアゼビン(日本での商品名:ジアゼパム)やトラゾドン(デジレル)、「Zドラッグ」と呼ばれる睡眠薬を使用する傾向が非常に高いことも分かりました。

Zドラッグに該当するのは、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ザレプロン(ハイプロン)、ゾルピデム(マイスリー)などです。

分子細胞生物学の博士号を持ち、アルツハイマー病協会のディレクターであるパーシー・グリフィン氏は、エポックタイムズに対し、「ベンゾジアゼピンのような特定の睡眠薬が認知症のリスク上昇と関連していることは、以前から分かっていた。ベンゾジアゼピンには、認知症のリスクを高める抗コリン作用がある」と語りました。

抗コリン作用は、睡眠と脳機能の両方にとって恐ろしいものです。

精神医学と睡眠医学の専門医であるアレックス・ディミトリュー氏は、「アルツハイマー病患者では、アセチルコリンのシグナル伝達がすでに欠乏しており、さらにこれらの受容体をブロックすることによってせん妄が起こることを私は患者に見ている。これが認知症リスクを高める可能性がある」と述べています。

「その他の人については、短期間の使用なら問題ないが、理想的には避けるべき。抗コリン薬は、睡眠構造を変化させ、レム睡眠を減少させる可能性がある」。

また研究によると、高用量のZドラッグを処方された認知症患者は、入院したり、主治医を訪ねたり、抗精神病薬や抗うつ薬、さらには抗生物質を処方される可能性も高くなったそうです。

一方で、黒人の参加者の間では、睡眠薬を頻繁に使用する人が認知症になる可能性は、睡眠薬を使用しない人、あるいはほとんど使用しない人と同程度でした。

研究の筆頭著者である精神科医のユエ・レン氏は、この違いは社会経済的地位に起因していると考えています。

「睡眠薬を利用できる黒人参加者は、社会経済的地位が高い集団であるため認知予備力が高く、認知症になりにくいのかもしれない。また、特定の睡眠薬が、他より認知症リスクの高さと関連していた可能性もある」。

これまでの研究で、黒人は白人に比べて、処方薬や非処方薬の睡眠薬の使用についての報告率が低いことは分かっています。このことが、両者の違いを生んだ可能性はあります。

安眠のために払うべき代償

睡眠薬は確かに睡眠を助けます。ただし、ディミトリュー氏にとっては、一つの問いを残しているといいます。

「そこにどんな代償があるだろうか。睡眠専門医として、また精神科医として、私はかなりの件数の不眠症を治療してきたが、定期的にこの問いに立ち返ることになる」。

しかし同時に、睡眠不足によって認知機能の問題が引き起こされる可能性もあります。2018年の研究では、5万人以上の参加者を調べたところ、原発性不眠症と診断された大人と若い患者の両方で、認知症のリスクがほぼ2倍になっていることが分かりました。

また、不眠症は認知症患者の症状としてもよく知られています。

しかし、不眠症と認知症を結びつけようとする研究は、最初の段階で致命的な欠陥を持つ可能性があります。神経学専門家のビブーティ・ミシュラ氏によると、不眠症を自己申告した患者が、実際には診断されていない初期の認知症を有しているかどうかの問題があると言います。

またミシュラ氏は、「抗コリン薬の認知機能への影響を調査しようとする研究もまた、同じく避けられない欠陥に悩まされている」とし、レン氏の研究における重要な限界に言及しています。この研究においては、参加者を募る際に認知症の危険因子として知られるAPOE4遺伝子が考慮されませんでした。

しかし、2020年の大規模研究のように、これらの薬剤が睡眠を改善することによって、認知症に対する保護的な効果をもたらす可能性があると結論付けた研究も存在します。

抗コリン作用のある睡眠薬について、ディミトリュー氏は「短期間の使用なら問題ないが、避けるのが理想的だ」と提案しています。

ミシュラ氏も「どのような種類の睡眠薬を使用するかについては、医師に相談するのが一番だ」と助言しています。

メラトニンと睡眠補助剤

ベンゾジアゼピンやZドラッグの他に、メラトニンも睡眠障害の治療に使用されます。メラトニンは一般的な睡眠薬ですが、今のところ認知機能低下との関連は指摘されていません。ただし、認知機能の問題を抱える人への効果も示されていません。

2015年に発表された大規模な研究レビューでは、メラトニンは認知症の人の不眠を助ける効果はあるものの、睡眠の改善が認知の改善につながることはなかったとされました。ただし、メラトニンを使用することによる重篤な副作用や認知機能の悪化の証拠はありませんでした。

また、メラトニンは、認知症の「日暮れ時兆候」にも有効であることが示されています。「日暮れ時兆候」とは、認知症患者が、夕方近くになるとより混乱し神経質になることです。

「私の経験上、また研究試験によっても、メラトニンは、薬局で見かける一般的な3ミリグラム以下の用量で服用するのが最も効果的で、特に睡眠障害のある高齢者、シフト勤務者、時差ボケのある人に有効であることが分かっている」とディミトリュー氏は述べています。

多くの場合、ストレスや睡眠習慣の悪さなどが不眠症の要因となっており、医療に頼らず睡眠を改善する方法もあるといいます

ディミトリュー氏はすべての患者に対し、10時にはハイテク製品の電源を切り、リラックスして読書をするようにし、真夜中前には眠るよう伝えており、それが驚くほどうまくいくといいます。

他にも、規則正しい睡眠時間と起床時間を守ることも推奨しています。

「ストレスを軽減し、不安がある場合は治療する。そうすれば睡眠の質を著しく改善することができる。運動と瞑想もとても役立つ」。

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。