性的少数者への理解増進法案であるLGBT法について、広島G7サミット前に議論が加速している。いっぽう、公共施設の利用や性犯罪リスクへの懸念、日本文化に合致しないイデオロギーなど調整すべき課題は散見される。G7期限を前提とした議論には疑問が投げかけられている。
単性利用を想定
同法案で特に強く関心を寄せられるのは、単性利用が想定されたトイレや更衣室、脱衣所、銭湯、温泉など公共施設だ。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「トランスジェンダリズム(性自認至上主義)が女性の権利と衝突することを、多くの国民が危惧しているのでは」とその懸念をツイートした。
同法案推進派の細野豪志衆議院議員(自民)は同法が「新たな権利をトランスジェンダーに付与するものではない」と指摘を否定。「痴漢や覗きは犯罪だ。スーパー銭湯を経営する友人によると何年かに一度、女装をした男が女風呂に入るケースがあるとのこと。管理者によって警察に突き出される」と例示した。
問題は公衆浴場だけではないと指摘する地方議員もいる。
公衆浴場は、厚労省の衛生管理要領に男女の区分が記載されているため、管理者の判断によって男性の女性風呂入浴を断ることができる。しかし、トイレは「自認で入るか戸籍で入るかの法的な区分はない」と、富士見市議会の加賀ななえ議員は述べた。
性的少数派への対応に「同性パートナーシップ制度」を成立させるなど先駆的な施策を行う渋谷区では、誰でも使用できる公衆トイレを目指して、女性専用をなくした17か所のトイレの建て替えを進めている。
しかし、「盗撮や性被害のリスクが高まる」との声が相次いだ。同区公園課長は「防犯面についても警察との連携や防犯カメラの設置など対策を進める」とNHKの取材に答えている。
実際にトイレで通報を受けても警察が逮捕をためらう事例が生じているという。加賀氏は2019年に発生した大阪商業施設女子トイレ週末女装男侵入事件を例示した。公衆浴場の課題のみをピックアップして、「性犯罪のリスクが増加する他の事例に触れない」のは問題だと指摘した。
海外のイデオロギー
同法を強く推進しているのはエマニュエル駐日米国大使だ。同氏は2月、先進7か国(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、LGBTQの権利を守る法整備を促す岸田文雄首相宛ての書簡を取りまとめた。
東京のパートナーシップ宣誓制度にも祝辞を寄せており、同法推進すべきとの姿勢を明確に示している。5日の東京レインボープライドに2年連続出演している。
同氏の動きに否定的な見方もある。ジャーナリストの我那覇真子氏は米FOXニュースやSNSを通じ、日本文化は性的少数派に寛容な歴史があると述べつつ「海外由来のイデオロギーの押し付けは文化の破壊につながる」と訴えた。我那覇氏は、エマニュエル氏の言動は「内政干渉にあたる」と非難した。
課題が散見するLGBT関連法案。当事者たちはどう見ているのか。
編集者で同性愛者を公表する富田格氏はツイッターで、自民党が現在推進しようとしているLGBT理解増進法について意見を問うアンケートを実施すると、7割超が反対を投じた。「議論の未精錬」や「既存憲法対応で十分」といった意見が書き込まれた。
連休明けとなる8日、自民党の性的マイノリティに関する特命委員会が早速開かれ、性自認や差別をめぐる表現を調整する。同法めぐる利権等にも触れつつ「拙速は許されない」と福井大学名誉教授の島田洋一氏は牽制した。
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