「米ウイルス研究所起源」説、「大統領脱出」説…中露は互いの偽情報を利用する(1)

2022/03/22
更新: 2022/03/22

砲弾を浴び廃墟と化すウクライナの都市、人道回廊を通じて他国へ避難する何万人もの民間人ー。これらは世界各国の人々がインターネットやマスメディアで見ている映像だが、中国国内の人々は異なる映像を目にしている。苦境のウクライナ人に物資を運ぶロシアの「援助」や、ロシア兵を「歓迎する」ウクライナ市民の様子だ。これはロシアの政治宣伝の拡散を中国共産党が許可していることを意味する。米政府系ラジオ・フリー・ヨーロッパが9日、報じた。

中国共産党機関紙・人民日報は9日、ロシア側が南部都市ハリコフでウクライナ人に「120万トンの人道支援物資を運び入れた」と報じる動画をSNS微博に掲載した。再生回数は1週間で300万回を超えた。

別の放送では、中国共産党寄りの香港メディア・鳳凰衛視(フェニックステレビ)のモスクワ特派員が、激しい戦闘が行われている戦略的港湾都市マリウポリの外でロシア軍に同行取材した。このほか、ロシア軍の存在を「歓迎する」と述べる市民たちについて報じた。

中国共産党により厳しく統制されたメディアと、検閲を経た中国国内のインターネットはウクライナ侵攻をめぐる偏向がますます顕著になっている。プーチン政権に対する国際的な非難や民間人の犠牲を省略し、ロシア国営放送を引用し、ロシア当局者の主張を検証や反論なしに伝えている。

国際世論を気にする中国共産党は、緊密な関係を築いてきたロシアとは距離を置いているように振る舞っている。しかし中国国内の世論向けには、モスクワによる根拠のない見解を多く取り入れて、ウクライナおよび西側に対する陰謀論を広めている。

ロシアは、米軍がウクライナの生物研究所で長年、生物・化学兵器の極秘開発を進めているとの陰謀論を推し進めている。英国など西側当局は、ウクライナ侵攻を正当化するロシアの取り組みの一環だと指摘している。しかし、中国共産党はロシアの陰謀論に同調した。

中国外務省の趙立堅報道官は8日、「最近ウクライナにある米国の生物兵器研究所が大きな注目を集めている」「危険な病原体は米国が研究管理を主導している」と述べた。この陰謀論は中露にとどまらず、一部の米国や海外の陰謀論系ネットワークにも広まりつつある。米およびウクライナ当局は双方の関係性を否定している。

中国共産党によるウイルス陰謀論は、米メリーランド州にあるフォート・デトリック研究所が新型コロナウイルス(中共ウイルス)の起源だと主張するものがよく知られている。1980年代、ソビエト連邦がエイズウイルス発生源だと同研究所を槍玉に上げたことがある。いずれの主張も証拠が示されていない。

英国国防省は8日、ロシアによる根拠のない主張は長年続いているが「ウクライナ侵攻を遡及して正当化させるため、増幅させる可能性が高い」と偽情報に関する警告をツイートした。

(つづく)

武田綾香