海洋安保強化に向けて米国がベトナムに巡視船を供与

2021/08/12
更新: 2021/08/12

7月14日、ベトナムの海事法執行を強化することを目的とした二国間の防衛協力の一環として、退役した米国沿岸警備隊(USCG)巡視船がベトナムに納品された。

米国対外軍事融資(FMF)プログラムに基づき、全長115メートルの巡視船の所有権が米国沿岸警備隊(USCG)からベトナム海上警察(VCG)に移転された。同プログラムの下で米国がベトナム政府に供与した船舶は同巡視船が2隻目となる。

ハノイ市を拠点とする国営放送「ベトナムの声放送局(VOV)」が報じたところでは、この大型カッターによりベトナムの海事法執行や捜索救助活動だけでなく、人道支援任務が強化されると考えられている。

ベトナム法執行機関にとって、繰り返し頻発するIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)、特に中国船舶による違反行為が大きな課題となっている。

ラジオ・フリー・アジアが伝えたところでは、2020年9月にも、ベトナム北部のクァンニン省モンカイ都市沖に当たるベトナム海域でIUU漁業に従事していた中国船舶2隻をベトナム海上警察の哨戒艇が拿捕するという事件が発生している。

ハノイに所在する在ベトナム米国大使館は声明を通して、「今回のベトナムへのカッター供与は、米国とベトナムの地域安保提携関係の強化を象徴する一例である」と発表している。

ワシントン州シアトルに指揮本部を置く米国沿岸警備隊第13管区において、ベトナム海上警察隊員46人の訓練が2021年2月からすでに開始されていた。

同巡視船は2021年6月1日にベトナムに向けて出航したが、新型コロナウイルス感染症の規制により、乗組員にはベトナムに上陸する前に21日間の隔離が義務付けられた。

米国沿岸警備隊が運用していた同カッター「ジョン・ミジェット(USCGC John Midgett)」は、ベトナム海上警察により「CSB 8021」と改称された。

シアトルに所在するレイク・ユニオン・ドライドック(Lake Union Drydock Co.)造船所で再装備された1960年代建造の同カッターの排水量は3,250トンで、最大で航続時間45日を達成できる。

米国国務省によると、2017年には別の同型艦がベトナム海上警察の警備船として先んじて再就役しており、今回の事例と併せて、こうした船舶供与は米国とベトナム間の最も重要な防衛装備移転を表すものとなる。2016年から2019年にかけて、米国は米国対外軍事融資プログラムに基づきベトナムに約150億円(約1億5,000万米ドル)に相当する安保支援を提供しており、カッター2隻の供与は58億円(5,800万米ドル)以上に値する。

米国沿岸警備隊の報道官を務めるスコット・カー(G. Scott Carr)大尉は、「今回の船舶移管により、米国沿岸警備隊とベトナム海上警察の間の提携関係が強化され、相互運用性が向上する。延いてはこれが自由で開かれたインド太平洋を推進する海洋統治の強化に繋がる」と述べている。

米国対外軍事融資プログラムの下、米国はこれまでに段階を分けて合計24隻のメタルシャークボート製の哨戒艇もベトナムに提供しており、ハノイに拠点を置く「時代(Thoi Dai Vietnam Times)」紙によると、最後6隻の移管が2020年5月に完了した。

2018年には海上哨戒機、無人偵察機(ドローン)、沿岸レーダー訓練の強化を目的として、同プログラムに基づき、米国はインド太平洋戦略イニシアチブの下でベトナムに5億円相当(500万米ドル)を供与している。

現在、ベトナムと米国の間の防衛関係強化を示す顕著な兆候が多く見られる。ベトナムは国連平和維持活動に貢献する米国の世界平和活動イニシアチブ(GPOI)の提携国である。2018年にはベトナム人民海軍が米国主催の環太平洋合同演習(RIMPAC)に参加し、2020年3月には空母「セオドア・ルーズベルト」を含む米国海軍艦船がベトナムに寄港した。

米国国防総省が発表したところでは、2021年7月下旬、ベトナム国防部を訪問して最近就任したばかりのグエン・スアン・フック(Nguyen Xuan Phuc)国家主席、ファム・ミン・チン(Pham Minh Chinh)首相、ファン・バン・ザン(Phan Van Giang)国防相と会談したロイド・オースティン(Lloyd Austin)米国防長官は、「米国とベトナムには非常に複雑な対立紛争の歴史がある」とし、「しかし、米越国交正常化が実現したとき、米国はベトナムの政治体制および均衡の取れた独自の外交政策を尊重することを約束した」と話している。

また、同地域の平和と繁栄は自由で開かれたインド太平洋の維持にかかっているという共通の信念から、米国とベトナムの関係は深化していると語ったオースティン国防長官は、「米国の中核目標の1つは、米国の同盟・提携諸国がそれぞれの未来を推進できる自由な環境を確立することにある」と述べている。

(Indo-Pacific Defence Forum)