【大紀元日本12月18日】1回の漁で2キロの小魚しか取れない曾さんは、30年前は初春から深秋まで四六時中長江で漁をしていたと振り返る。漁に出れば大漁。寝る間を惜しんで漁に出続けたという。しかし今は「5キロを超える日はほとんどない。雑魚数匹で終わってしまう日もしばしば」という。
長江は現在、生態系の崩壊が進んでいる。長江生態研究の専門家、中国科学院の曹文宣氏は17日付の『瞭望東方週刊』の取材に対し、三峡ダムを含めたダム建設の影響で、長江流域で魚類が大幅に減少し、多くの種は絶滅に瀕していると懸念を示した。
曹氏によれば、1989年三峡ダムがもたらす環境負荷を評価した際、すでに生態系への深刻な影響を警告していた。ダム建設は水温や洪水の発生形態に影響を与え、魚類の繁殖期を遅らせる。それによって魚のエサとなる水藻や浮遊生物の生態が変化し、生態系全体にも影響を及ぼすという。
三峡ダム以外にも、上流の金沙江では竣工したものや建設中のもの、計画段階にあるもの、合わせて27の水力発電所がある。大規模建設により下流では水流が遅くなり、水深が深くなった。こういった水環境の変化が急流を好む120種余りの魚類に「極めて大きな影響を与えた」と曹氏は指摘した。
これらの発電所は初期の計画にはないものも多い。沿岸地域では「我先に場所取りしている」と地方ごとに発電所建設ラッシュが起きている。「2つでも減らせば、多くの魚類は保護できたのに」と曹氏は言う。
ダム貯水で蒸発が盛んになり全体水量の減少も起きた。気候の変化などの影響も加わり、三峡ダム建設前後で水量は500億立方メートル余り減ったという。さらに、ダムの貯水期では下流の水位が下がり、流域にある湖が早く渇水期に入ることも指摘された。稚魚の孵化と成長が影響を受け、長江の魚類減少の原因のひとつになっている。
湖の水位低下は絶滅に瀕する江豚(スナメリ)などの生存を一層脅かしている。武漢市内にある東湖では、20世紀60年代には83種の水生植物があったが、今年ではその数が14種と大幅に減っている。60年代にあった79種の魚類も現在では10数種に激減した。
生物多様性に問題が出れば、水の自浄作用も働かなくなる。東湖はかつて、6つの浄水場の水源となっていたが、現在では「泳ぐこともできない」。「死んだ水となった」と曹氏は憂慮した。
ダムが増え続ける中、政府が保護区の建設や稚魚の放流を行ってきたが「効果は良くない」。湖北省では2010年に5.7億匹の稚魚を放流したものの、翌2011年、収穫量は増えるどころか、5.77万トン減少した。ヒラコノシロや長江太刀魚など、食卓にのぼる長江特有な品種もほとんど絶滅しているという。
「ダム乱立が長江水域の生態に及ぼした影響は深刻で、累乗的で、不可逆的だ」と曹氏は指摘し、長江の生態系を「緩和または改善することは非常に困難だ」との見方を示した。