【大紀元日本6月18日】中国一の大河・長江は年々災害の度を増しているようだ。今年3月からの干ばつは「50年ぶり」だと言われ、中国最大の2つの淡水湖・鄱陽湖と洞庭湖を干上がらせた。しかし、6月に入り状況が一転。今度は降り続ける大雨で長江が暴れだし、干ばつだった各省に相次ぎ洪水警報が出された。13日までにすでに105人が死亡、63人が行方不明となっている。
干ばつも洪水も気候だけのせいにしてはならない。こう指摘するのはドイツ在住の中国水利専門家、王維洛氏。15日に英BBC(中国語版)に掲載された王氏の評論「廃棄ダムの運命」の中で、氏は、中国南方におけるダムの弊害、とりわけ廃棄されたダムの危険性について論じた。以下はその抄訳である。
「防洪抗旱」の役目
長江の中下流地域は亜熱帯の季節風気候で、乾期と雨期がはっきり分かれている。人々が目にする年降水量や月降水量はみな平均値であるが、自然は平均値で移りゆくわけではない。自然に順応し、洪水と共生する。これは中国伝統文化の精髄であり、現在西側世界が唱える「持続可能な発展」にとっても重要な概念となっている。ここ数十年の間に中国でも「人は必ずや天に勝つ」(文化大革命時のスローガン)という豪語を聞かなくなったが、「人は天に勝たなければならない」という考え方は根深く、「自然に順応する」境地にはまだほど遠い。
1949年までは中国のダムは20カ所余りしかなく、そのほとんどが日本が侵略してきた時に東北で建設したもの。中国の古人は河川の上にダムを造ることを好まない。1949年に共産党政権が発足し、まもなくして水利専門家チームをソ連に派遣した。一行の「収穫」は大きいものだった。ダムを造れば、「防洪抗旱」、つまり、洪水を防ぎ干ばつに対抗することができる。洪水をダムに閉じ込め、干ばつの時に出して使う。理屈は非常に明快だ。以来60年余り、中国政府はこの認識に基づき「防洪抗旱」のインフラ建設を進めてきた。
現在中国には、登録されているダムは8万6000カ所以上あり、それらの容量の合計は中国が1年間に必要な水をまかなうことができる。理論上、中国は1年間雨が降らなくても、ダムに溜めている水を使えば問題はないはずだ。中国は干ばつも洪水も恐れないはずだ。
ダムのもどかしさ
洪水をダムに溜め、干ばつの時に取り出すためには、実はダムへの要求が高い。まずは貯水容量が大きくなければならない。三峡ダムの場合、その役目の実現に、旧ソ連の専門家が算出した水位は265メートルだった。しかし、ダムに沈めてもいい土地は中国にはそれほどなかったので、現在の175メートルに止めた。故に、三峡ダムに期待される水量調整の機能、つまり洪水防止や水供給の効果は限定的である。
さらに中国に8万6000カ所あるダムの4割は欠陥ダムである。1975年、淮河(中国第三の河)流域では50カ所のダムが相次いで決壊し、23万人が死亡する事故が発生した。これは人類歴史上最悪のダム決壊災害となった。そこで、ダム自身の安全を図るため、いま、当局は雨期に貯水しないよう呼びかけている。
雨期に乾期のための貯水ができない。そして乾期には発電のために貯水しなければならない。中国政府は、ソ連から学んだものの姿形を変えてしまったようだ。
廃棄されたダム
8万6000カ所ある登録ダム以外に、中国には廃棄された数多くの小型ダムがある。昔はすべてのダムは政府のものだったが、今は改革が行われ、経済利益の出るダムは政府や個人が経営権を持ち、利益が望めないものは「レイオフ」され廃棄されている。
欧米でも老朽化したダムを廃棄するが、しかし、ダム所有者にダムの解体義務がある。ダム内の泥などの除去を含め、解体後は建設前の状態に復元することが要求される。
中国では廃棄されたダムは政府の登録簿から除名すれば良い。「ダム」はまだ存在するが、しかし、それは政府にとってはすでにダムではない。
10日に湖南省岳陽市_zhan_(せん)橋鎮で暴雨による土石流が発生し、40人以上の死者が出た(当局は29人死亡、20人行方不明と発表)。村民らは今回の災難は天災よりも人災だと話す。ここ数年、_zhan_橋鎮の森林は伐採で跡形もなく消え、さらに周辺の鉱山の乱開発で現地の地質が大きなダメージを受けている。それに加え、現地にあったダムは長年廃棄されたため、今回の暴雨で決壊し、土石流災難をいっそう深刻にした。しかし後に、政府は現地にダムはないと言っている。
昨年甘粛省で起きた舟曲土石流災害(1270人死亡、474人行方不明)では、8カ所のダムが決壊し、うち1カ所は廃棄ダムだった。政府はこのダムの存在を認めていない。
政府の登録簿にない廃棄ダムも「ダム」であり、決壊する時は、登録ダムと同じように土石流災害を引き起こし、人々を死に至らしめる。
では、政府はなぜこれらのダムを解体しないのだろうか。理由は簡単。たくさんの資金が必要だからだ。中国では、ダム建設前の事業評価に解体費用が計上されていない。三峡ダムも例外ではない。この費用を入れると、建設「可能」が「不可能」になるからだ。経済学者の茅于軾氏は20年前に三峡ダムのこの費用について質疑していたが、いまだに回答を得られていない。政府の立場から経済の目でみれば、自然洪水に廃棄ダムを決壊させ、責任を天災にするのがもっとも費用の安いやり方だ。
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