【大紀元日本4月13日】ドイツ化学製品大手のバスフ(BASF)社がこのほど、三峡ダム区で世界最大級のMDI(ジイソシアネート化合物)プラント建設の着工を発表した。MDIは製造過程においてニトロベンゼン、ホスゲンなどの有害物質を使用或いは産出することから、環境汚染や生態系への危害について懸念する声が上がっている。
また環境活動家は、日本で発生した地震災害を鑑み、「天災は恐ろしいが、人災がさらに災いを残す」と指摘し、長江上流での同種のプロジェクトは長江流域にとって爆弾を抱えることになると警告した。
化学大手のBASF社、三峡ダム区入り
3年間の論争を経て、BASF社のMDIプラント建設プロジェクトは中国の国家発展改革委員会(発改委)の許可を受け、先月25日にプロジェクト着工を発表した。
重慶市とBASF社の締結した協力覚書によると、同社は80億元(8.5億ユーロ)を投資し、三峡ダム区の重慶市長寿区の化学工業団地に世界最大のMDIプラントを建設する。MDIはポリウレタンの主要原料で、ポリウレタンは建築、家電、靴類などに広く応用されている。
BASF社と協力契約を締結した重慶化医集団の安啓洪・理事長によれば、BASF社はすでに5年間検討してきたが、副産物処理が困難なため、建設地が決定できずにいた。最終的に重慶市が場所と原料を提供し副産物の処理も手助けすることになったという。
MDI生産時に塩分を含む大量の廃水が出るため、MDI工場は原則海に近い場所に建設される。また、海水は移動するので環境への影響もそれほど大きくない、とP&G中国の化学工業安全主管の宗譲氏は本紙の取材で話している。
しかし、重慶周辺には淡水しかなく、三峡ダム区も移動する水ではない。大量に出る塩分を含んだ廃水が環境に影響を及ぼすことは明らかな上、この排水が有害重金属のヒ素を含むことは考慮されていない。重慶は副産物処理の手助けをすると言っているが、一体どのように処理を行うのか、それは良い方法なのか、と宗氏は疑問を抱いている。
有害物質が敏感水域と隣り合わせ
MDIは製造過程においてニトロベンゼン、ホスゲンなどの有害物質を使用あるいは生産する。人口の密集したダム区において、このような高リスクの大規模重化学工業プロジェクトは、三峡ダムや周辺住民に汚染や安全問題をもたらし、間接的に長江の中・下流や南水北調の受水地区に影響をもたらすのではないか、と住民と一部の環境保護団体は懸念している。
このような懸念には裏付けがあった。05年、吉林石化でアリニン製造のためのニトロベンゼン精留塔が爆発し8人が死亡、大量のベンゼン類が松花江に流れだした。08年、チチハルでもホスゲンが漏洩し3人が死亡している。
重慶で採用されるホスゲン法は副産物などの問題から、各国は非ホスゲン法MDI技術路線を模索している。BASF社はベルギーと米国でも非ホスゲン法を採用。宗氏は、重慶はなぜこのように環境保護や安全を考慮した新技術の採用を考えないのかと指摘している。
また、長江水利委員会の翁立達・元局長によると、三峡ダムの貯水後、河川の水面は平均1.5倍広くなり流速も約8割に減少しているため自浄力が大幅に弱くなっている。ダム区にこのようなプラントを建設し事故が起きれば、厳しい舵取りを迫られるだろうと同氏は語る。
重慶水利投資集団の黄董氏は本紙に対し、重慶市の水道水業界は常に、長江上流で松花江で起きた汚染事件と同じ事件の発生を警戒していると話す。もし、そのような事件が発生した場合、長江に原水を頼る多くの都市は空前の危機となる。
長江上流の化学工業団地
化学工業は重慶市の主要産業のひとつである。重慶市の天然ガス化学工業の多くが長寿区に集中しており、同市の半数を占めている。総面積15平方キロメートルの長寿化学工業団地は、長江北岸に臨む。
最近では、産業の移転に伴い、長江上流の化学製品企業がますます多くなっている。重慶市万州、涪(ふう)陵白涛、四川省瀘(ろ)州等でも化学工業団地は発展しており、長江沿岸のすぐ近くに位置している。
重慶の民間環境活動家・易山河さんは、今回日本で発生した地震災害を鑑み、「天災は恐ろしいが、人災は更に災いを残す」と指摘した。原子力発電の環境保護施策は厳重であったが、自然災害の前では一撃にも耐えることが出来なかった。「長江上流の大型化学工業団地も不測の事態や天災の時に防御しえない化学工業爆弾を抱えており、ある日ほんとうに災害が起きたら、三峡プロジェクトに続き、長江流域の生態に対する深刻な打撃となり、その結果は想像に堪えないものになるだろう」と易氏は語った。
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