【大紀元日本11月29日】中国では最近、日常生活に欠かせない食品、コメ、水道、電気、ガスなどの物価が急騰し、インフレが深刻化している。中国経済の専門家は、今回のインフレは1~2年続くと見解している。
深刻化するインフレの原因について、中国政府や主要メディアは相次いで、「アメリカが元凶だ」と非難。中国は輸入インフレにさらされており、インフレ深刻化は米国による量的緩和政策に起因するとする。しかし、専門家は、国内野菜などの食料品価格急騰を原油、鉄鉱石、大豆などの輸入品価格の上昇と結びつけることには無理があり、インフレの主因はマネーサプライの急増にあると指摘している。
「インフレは1~2年間続くだろう」
在米経済学者の程暁農氏によると、中国では、インフレのため国民の生活水準が急激に低下している。一部の定年退職者は、すでに1日3回の食事を維持できなくなっているという。また、国民の多くは、食品、水道、ガスなど生活に関わる物価急上昇だけではなく、医療費や子供の学費の急騰にも悩まされることになると指摘している。
「インフレの最大の被害者は一般の国民。中国の富裕層や汚職官僚たちにはインフレの影響は及ばないだろう。資金を自由に海外に移転させたり、資金を先物市場や不動産市場に投機することで、巨額な利益を儲けることができるからだ」と同氏は指摘する。
程氏によると、改革開廟xun_ネ来、中国はこれまで2回の大きなインフレに直面している。それぞれのインフレは、全く異なる政治的、社会的な影響をもたらしている。1回目のインフレは、_deng_小平氏による価格改革を起因とする1988年のハイパーインフレ。当時、中国当局が発表した統計では、消費者物価指数(CPI)が19%上昇したという。国民の不満が爆発したことで、当時の趙紫陽・中国共産党中央委員会総書記が_deng_小平氏の代わりに責任をとり、総書記の職を離任した。
2回目のインフレは1994年に発生。中国当局の統計によると、1994年のCPI指数の上昇率は1988年よりも深刻で、24%に達していたという。しかし、1989年に発生した「天安門事件」の記憶が国民にとって鮮明であったため、大きな社会混乱には至らなかった。
今回のインフレについて、程氏は「現在の状況からみると、今回のインフレは1~2年間続くだろう。現段階では、どのような政治的・社会的な反響が出るかまだ予測できないが、しかし、国民生活がかなり深刻な打撃を受けることは間違いない」と予想している。
商務部、輸入インフレ論
今回のインフレの原因について、中国商務部の陳徳銘・部長が10月26日に行われた貿易関係会議の席で「米ドルの発行の抑制が効かず、国際的な主要商品の市場価格も引き続き上昇しているため、中国は輸入インフレにさらされている」と発言し、中国のインフレ問題の責任は米政府にあることを示唆した。
中国の温家宝首相は、このほどマカオを訪問中、米国が6000億ドル規模に追加量的緩和政策を実施したことで、国際為替市場における対ドルでの主要通貨為替レートの変動だけではなく、商品価格もかなり不安定になった、と語った。また、「米国は世界貿易不均衡の責任を中国に押し付けた。人民元の切り上げが世界経済の均衡を保つ主因だとの言い方は、全く理不尽だ」と非難した。
また、中国人民銀行の馬徳倫・副総裁や、同行の前総裁で現在中国社会保障基金理事会の戴相龍・理事長などの政府官僚も、11月上旬に相次いで、米国の量的緩和政策の実施は、中国を含む新興国のインフレ圧力を増強させた、と批判した。
一方、中国社会科学院が11月18日に発布した『2010年発展及び改革青書』において、「1990年~2004年において、米国は世界各国に対して毎年156億ドル規模、中国には25億ドルの通貨発行益(シニョリッジ)を徴収したと指摘した。それによると、米国は自国で発生したインフレを中国に輸入した。2007年の中国の外貨準備高は1.5兆ドルに達しているが、(米国の)インフレで少なくとも400億ドルの損失がでている」としている。
専門家: マネーサプライ急増が主因
在米経済・政治評論家の伍凡氏は、「米国は11月に入ってから6000億ドル規模の追加量的緩和を実施した。しかし、中国国内では、半年前から生姜やニンニクなどの食品価格がすでに暴騰していた。国内物価の急騰は米国の今回の金融政策とは無関係であることは明らかである」と指摘した。
同氏によると、「現在米国にはインフレ圧力がなくて、逆にデフレが進んでいる。米国の政策金利もほぼゼロ金利で推移しており、景気を刺激するために、米国政府が追加量的緩和政策を打ち出したのだ」という。
また、中国当局が宣伝する輸入インフレ論に従えば、国際商品市場における価格急騰が中国へのインフレ圧力を高めた原因となるが、実際に、トマトやチンゲン菜など国内野菜価格急騰を、中国が輸入する原油、鉄鉱石、大豆などの価格上昇に結びつけることは難しい、と在米経済学者の程暁農氏は分析する。
「そもそも、鉄鉱石などの国際商品価格は、中国が近年鉄鋼材の生産量を急増し需要拡大することで急騰した。また、最近国内の綿花価格が1000倍以上に暴騰したため、国内企業が相次いで海外からの安い綿花を輸入した。そのため、国際綿花価格も暴騰。国際商品市場の価格急騰は中国が引き起こしたのだ」と氏は指摘する。
また、輸入インフレ論の他に中国当局が主張する「頻繁な投機取引論」もインフレの主因ではないと程氏は以下のように語る。
「炒房団(不動産市場における投機家グループ)はそもそも、中国経済のアンバランス化、過剰流動性、製造業不況の産物だ。これらの投機家が不動産市場での頻繁な取引を止め、ニンニクや綿花などの先物商品をターゲットに取引を行うようになるとすれば、確かに物価の変動に影響を与えることはある。しかし卵やトマトなど先物市場のない食品や日常生活用品の物価急上昇はどう考えても投機家と関係しない」
伍凡氏と程暁農氏は、一部のエコノミストが示した中国のマネーサプライ(通貨供給量)急増がインフレ深刻化の主因であるとの認識に賛同する。伍氏は「現在米国の広義マネーサプライ残高は約8兆6000億ドルで、対GDP比60%となっている。これに対して、中国の広義マネーサプライ残高が69兆6400億元に達し、対GDP比では約260%に達した。果して本当に米国が中国のインフレを深刻化させたのだろうか」と疑問を投げかける。
中国当局は金融危機以降、2008年11月に4兆元規模の景気刺激策を打ち出した。また翌年09年の目標である「保8(GDP成長率8%を確保する」を達成するために、08年末から09年末までマネーサプライを急増させた。国家統計局によると、09年末時点の広義マネーサプライ(M2)残高は、前年比27.7%増で、約16兆7862億元の超過発行となった。「これが中国で現在、深刻化するインフレの根本原因である」と伍氏は語っている。
一方、程氏は「マネーサプライの増加で経済を成長させると、経済成長率が先に伸び、その後、物価上昇がもたらされる。一般に、物価急上昇は経済成長ピークの後に現れる。中国のインフレはすでに手遅れ状況になっている。政府当局が高い経済成長率への執着を完全に捨てなければ、インフレは解決できないだろう」とメスを入れる。
11月2日付「中国経済週刊」によると、中国人民銀行(中央銀行)の元副総裁で、現在全国人民代表大会(全人代、国会に相当)財政経済委員会の呉暁霊副主任は、「過去30年間、われわれはマネーサプライを急増させることで、経済の急速な発展を推し進めてきた」と最近、認めている。