対日戦略の核心『2012台湾大劫難』邦訳出版 著者・袁紅氷にインタビュー(一)の続きです
中国広東省は今月、台湾から農産物を大量に購入する契約に調印した。海峡両岸の経済協力協定(ECFA)の締結で加速された中台経済一体化の進展。昨年11月に台湾で出版された法学者・亡命作家の袁紅氷(ユァン・ホンビン)氏の著書『台湾大劫難』で明らかにされた北京当局の対台湾謀略が、シナリオ通りに展開されつつある。
「市場一体」から「政治統一」へ、迫り来る台湾の大災難。国民党を丸め込み、民進党を分裂させ、傀儡党を立ち上げ、メディアを統制し、学者と政治に染まった宗教家を飼い慣らす。そして2012年、中国共産党は戦わずして台湾に勝つ。『台湾大劫難』で暴かれた中共の対台湾政治戦略は、台湾各界に衝撃を与えた。このほど『暴かれた中国の極秘戦略』と題して邦訳が出版された。
一方、中国当局は、今年に入って日本国債を急ピッチで大量に購入し、買い物に急ぐ中国人観光客を大量に日本に送っている。北京当局が描いたこの戦略の青写真は、台湾だけに留まらないようだ。
邦訳の出版にあたって、著者は本紙のインタビューに応じ、対日戦略の中核、中共のグローバル拡張に対して民主国家のとるべき立場や、公開された情報源、2012年までの中国の政局などについて、日本の読者にメッセージを送った。第一回に続き、今回もまずは対日戦略について紹介し、続いて対中外交で日本がとるべきスタンスについて著者の考えを紹介する。
かつて北京大学法学部で教鞭を執っていた袁氏は、天安門六四事件に参加したため、その後貴州省に転任させられ、貴州師範大学法学部学部長を務めていた。2004年豪州訪問中に政治亡命し、現在シドニー在住で、中国の民主活動を行っている。
近いうちに、本の宣伝のために来日する予定だと話している。
対日戦略の核心:日米同盟を分裂させる(続き)
Q:著書で、胡錦涛主席が、日本の左翼と右翼の争いを激化させ、中国の反日感情の維持に利用すると発言したことに言及しているが、胡温政権の対日外交政策は、日本友好ではないでしょうか?
袁:胡温政権が親日という言い方は、曖昧ですね。中共政権にとっては、親日派と反日派の違いはないと思います。中共にとって唯一大事なことは、どのようにしてその独裁専制を維持するかということ、どのように世界でその統治範囲を拡張するかということです。
70年代、中共はソ連との間で、共産国家でのリーダー権を巡って争いました。その際の中共の外交策略は、どのようにして米国・日本と連携してソ連に対抗するかということでした。90年代前後、中共の外交政策に根本的な変化が起きました。中共の勃興は米国の根本利益と相反することに気づき、最大の敵を米国に切り替えました。
このような心理から、日米同盟を重大な脅威とみなしてきました。現在日本に対して行なっている全て、誘惑なり、親近なり、脅迫なり、いずれにしても目的はあくまでも日米同盟を分裂させることにあります。日本は米国の核保護を無くしたら、アジアでの地位はどん底まで落ちてしまうからです。
こうした対日外交方針の中、胡錦涛は日本に時に善意的であり、時に脅迫的ですが、それは問題の実質ではありません。胡錦濤は親日ではなく、全ての目的は、日米関係を分裂させることにあり、日本の国際社会での地位を落とさせることです。
対中外交で日本がとるべきスタンス
Q:日本には強いリーダーがいなく、政局が不安定な局面が何年間も続いていますが、そうした中、中共に左右されないようにするにはどうすべきでしょうか?
袁:日本の現在の不安定な政局は、あくまでも表面に現れた結果であり、その背後にある実質は、明確かつ堅実な国家の意思と政策に欠けていることです。日本は自国の前途、世界の前途、更に人類の前途に対して、そして国際政治の短期的、中期的または長期的な発展トレンドに対して、全貌的な認知に欠けていると思います。このような状況下で現在、頻繁に政権交代が行われるという現象に至ってしまいました。
ではどうしたら良いでしょうか。まず日本は国家として、中共政権は今後人類の災難を生じさせる源であるということをはっきり認識しなければいけません。この問題については、近く出版する『台湾大国策』で述べています。
日本は、明確かつ有効的な国策を制作するために、まず中共の本質についてよく把握しなければなりません。共産中国が何をしたいのかよく見通した上ではじめて、それに対応する方向性のある国家政策が制作できるのです。国家は明確な意志や政策があってはじめて、安定した政局に至ることができます。
Q:中共政権が崩壊したら、中国の政局は不安定に陥り、中国経済の発展も遅れてしまい、日本の国家利益に害を与えてしまうと心配する見方もありますが、どう思いますか?
袁:このような見方は、中共が長い時間をかけて、御用文化人や宣伝機関を利用して洗脳を行なった結果です。中共が崩壊すれば、中国は大混乱や大災難に陥るという印象を人々に与えました。悪辣な虚言です。
共産中国60年の歴史を振り返ってみれば、一つの結論が得られます。中国の全ての災難や動乱は、中共の暴政がもたらしたものです。中共政権自体が、中国の災難や罪悪の根源です。
現在の共産党政権が崩壊したら、中国社会は速やかに民主政権を設立する時期に入り、自由民主国家への道に進みます。民主政治は混乱ではなく、公正かつ包容的な秩序です。民主政治があってはじめて、中国は法制のレールに載った安定した局面を迎えるのです。中共政権が一日でも長引けば、中国社会が民主社会に転向する過程が長引き、その不安定なリスクも高まり、世界に対するマイナスのインパクトも大きくなります。
更に、中国経済の発展は、略奪に基づいたものです。中国の広大な土地と自然資源に対する破壊的な開発と、中国数億の農民工に対する奴隷的な生産力の略奪です。現在のあらゆる災害からも徐々に見えていますが、このような非合理的で、人間の良知に反する発展パターンは長くは続きません。特に青海チベット高原の自然生態が一旦崩壊したら、世界全体がその悪果を呑まなければならなくなります。中国経済に頼って世界の経済危機を乗り越えようと考える国もいるようですが、最後に損するのは必ず自分です。
世界における共産中国の拡張
Q:中国は近年、海外でエネルギー買収、外国国債の大量購入など、拡張を急速に行なっています。それについての理解は?
袁:中共の経済や政治動向は近年、二つの相反する路線に沿って展開しています。一つは海外での拡張、もう一つは国内での危機です。
中共政権はここ20数年、破壊的・略奪的な経済発展を通して、巨大な経済パワーを獲得しました。現在このパワーでグローバルに政治拡張を行っています。中共高層の内部資料では、世界規模で共産主義復興の音頭を取るとはっきり言及されています。このような拡張は、経済的、文化的、政治的、更に軍事的なあらゆる面で行うものです。例えば、今の国債購入、メディアの買収、スパイネットワークの設立等々です。
一方、中国国内では、乗り越えられないほどの社会的混乱が急速に蔓延しており、中共政権は崩壊寸前の状態にあります。中共高層内部に、反腐敗を名義とした政治闘争が、いわゆる内部の“調和”を引き裂いています。例えば、少し前に薄煕来が自分の権威確立のために重慶市で行った「掃黄(風俗業の一掃)打黒(暴力団を打撃)」運動は、40年前の文化大革命のミニ版です。中国の政治情勢は急速に極端化の方向に走っており、政治、経済、文化と社会の全ての面で解消できない矛盾が浮上しています。
Q:このような拡張に対して、日本や国際社会はどう対応したらいいでしょうか?
(続く)
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