【大紀元日本6月20日】チベット自治区ニンティ地区のメトク (motou) 県。県名はチベット語で「花」を意味する。中国で唯一道路が通っていないところと言われている。県内には、ヒマラヤ山脈を源にするチベット最大の川・ヤルツアンポ江が流れており、チベット人にとっては「聖地」である。
人跡希薄なこの「聖地」は、中国当局の目にはお金として映る。「チベットの資源が経済的優勢に転換されるようにすべき」、「ヤルツアンポ江でのダム建設の技術的困難はすでに克服されている」と、中国水力発電工程顧問集団の晏志勇社長は、地球上で最も大きな渓谷を有するこの川について、こう語る。
中国当局はヤルツアンポ江上流に、ヒマラヤ再生エネルギーの一環として世界最大クラスの水力発電所建設を計画しているようだ。政府サイトで公表された情報によると、当局は現在380億ワットの水力発電所建設を計画しており、その発電規模は三峡ダムの半分を超える。この大型ダムを含め、中国がヤルツアンポ江沿岸に完成或いは建設中の発電ダムは28か所となる。
英「ガーディアン」紙の報道によると、この超大型ダムの位置はメトク県にあると、英コロンビア大学チベット人環境保護学者タシ・ツェリン氏は見ている。
中国政府は最近、ヤルツアンポ江のさらに上流に5か所のダムを建設すると公表している。そのうちの一つ、発電量5億ワットの藏木(Zangmu)水力発電所は、現在中国の国営大手・華能電力公司が建設中。
タシ・ツェリン氏によると、この中で最も大きなダムは大湾地区、つまりメイク県内、あるいはダドチャ(Daduqia)に位置する。ヤルツアンポ江で最も壮大な高さ200メートルの滝を切断するため、多くのトンネル、水道、ダムやタービンを建設することが考えられる。
チベット出身の同氏は、多くの探査チームの報告資料を研究した結果、中国はすでにメイク県内で大型水力発電施設の建設準備を行っていると見ている。
同氏によると、ヤルツアンポ江はこれまで、中国でダム建設が最も少ない大河と見られてきたが、今や全国の発電量増加のためにターゲットにされているという。
メトク県の南部は国境問題が未解決で、インドの実効支配区域である。ヤルツアンポ江の下流、ブラマプトラ河がインドやバングラデシュなどを通っている。下流の国が危惧しようとも、ダムの建設計画は急ピッチで検討されているという。
海抜が高く、隣国との衝突発生のリスクにより、長年不可能と考えられてきたこの超大型ダム建設計画は、コンゴ河の大インガ・ダム建設と肩を並べる壮大な工事となるものと伝えられている。
この計画に対する中国政府の最終的な合意はまだなされていないが、多くの中国水力工程専門家は同計画を究極目標とみなしており、インドとの水力資源争奪戦にさらに拍車がかかることになる。
「このダムにより毎年2億トンの炭素排出量を減らすことができる。我々は炭素排出量を大幅に削減できるこのチャンスを逃すべきではない」と、中国水力発電工程協会の張博庭副秘書長は、インドなど下流の国を説得しようとしている。
張氏はある著名な科学フォーラムで、同ダムの建設は水力資源利用の究極の希望であり、これにより1億トンの石炭や、大量の原油或いは中国海域の天然ガスに相当するエネルギーを生み出すものだと述べていた。建設が遅れると、これらの資源がインドに獲得されてしまい、同地区で重大な国家間衝突が起こると、同氏は同ダムの建設を急がせる。
一方、米国NGO組織「国際河川」(International Rivers)のペーター・ボスハルト氏は、チベット高原にこのような大きなダムを造ることは、地質上巨大なリスクをもたらしてしまうと警告する。
「ヤルツアンポ江を切断することは、チベット高原の脆弱な生態系を破壊する上、河流の沈積物も切断してしまい、インド東北の肥沃な沖積平原であるアッサム地方に流れなくなる」とボスハルト氏は指摘する。
同ダムの建設を巡って、インドでは、インド北部平原の河の流れを変えてしまうと懸念されている。インドのジャイラム・ラメシュ環境相は、中国とのダム建設競争に積極的。インドは中国よりも先に、ヤルツアンポ江に水力発電所を建設する必要があり、「こうすれば、中国との交渉で有利なカードを手に入れることになる」としている。