カナダ政府が中国との「戦略的パートナーシップ」を模索する中で、資源確保を巡り中国の戦略的な罠に陥る恐れがあると、長年中国情勢を分析してきた専門家が警告している。米国の関与によりベネズエラなどのエネルギー供給源を失いつつある中国が、カナダを自国の資源圏に引き寄せ、同盟国から引き離そうとしている可能性があるという。
中国問題を専門とする分析家で、トロントを拠点とするジャーナリスト兼民主化活動家の盛雪氏は、カナダが中国共産党(中共)と重要な合意に踏み込むことで、「明白に見える戦略的な罠に落ち込みつつある可能性がある」と述べた。
盛氏によると、中共は現在、エネルギーや政治面での複数の重要な支柱を同時に失いつつある。特に、米国が関与した最近の出来事によるベネズエラ政権の不安定化や、イラン政権の深刻な内部混乱を背景に、中国は政治的コストが低く、資源供給が安定し、「通常の協力」として装うことができる新たなエネルギー・原材料供給源を緊急に必要としているという。
盛氏は、豊富なエネルギー資源、食料、重要鉱物を有するカナダが、まさにこうした条件を満たしていると指摘した。さらに、カナダは「道徳的自制心やグローバリズム的な言説の遺産によって政治的に制約されている」とし、中国側がカナダを「理性的で協力的なパートナー」と位置付けやすい状況にあると述べた。
盛氏はまた、カナダが中共との関係を深めれば、同盟国との協力を損なうリスクがあると警告した。特に、米国がベネズエラで行ったように、西半球から中国共産党の影響力を排除しようとしている時期にあっては、その影響は大きいとしている。
ベネズエラについて盛氏は、中共政権が同国の石油輸出の大半を購入し、重要な財政的・政治的支援を提供してきたことで、同国は経済的に成り立ってきたと指摘した。一方、マルコ・ルビオ米国務長官は、ベネズエラがイラン、ロシア、中国といった国々の「活動拠点」となることへの懸念を米政権が抱いていると述べている。
盛氏は、カナダが中共にとっての代替的なエネルギー・資源供給国となれば、中国の資源配分ネットワークに「受動的に引きずり込まれ」、同盟国との戦略的信頼を損なうと指摘した。その結果、ファイブ・アイズや北米防衛体制におけるカナダの信頼性が低下する恐れがあるという。
中国訪問を巡って盛氏は、マーク・カーニー首相が北京と関与すること自体が問題なのではなく、関係の位置付け方や、歴史的に重要な局面で選ばれた言葉遣いが問題だと述べた。そして、こうした姿勢について、「これは現実主義ではなく、危険な戦略的後退だ」と警告した。
カーニー首相の対中関係を巡る表現は、選挙前に中国をカナダにとって「最大の安全保障上の脅威」と呼んでいた時期から変化している。現在は、中国との関係を「新たな関係の時代」や「戦略的パートナーシップ」と表現し、北京では、両国の関係改善が「新世界秩序」に向けた良い基盤になるとの認識を示した。
これらの発言に対し、保守党や中国問題の専門家からは批判が出ている。保守党のピエール・ポワリエーブル党首は、対中姿勢がこれほど急激に変化した理由について政府は説明すべきだと主張した。また、保守党のシュヴ・マジュムダール下院議員は、カナダは北京の掲げる「新世界秩序」に属するべきではないと述べた。
盛氏は、北京でこうした用語を用いること自体が、西側世界の価値観や戦略的意図に対する「重大な対立」を意味すると指摘した。中共については、人権状況を改善したり国際規範を順守したりする国家ではなく、自由や人権、国際秩序を体系的に破壊する権威主義体制であり、人道に対する罪も現在進行形で続いていると述べている。
また、カナダを拠点とするウイグル人権擁護団体「ウイグル人権擁護プロジェクト」のメフメト・トフティ事務局長も、カーニー首相の用語選択について、「中国は、そして中国は決して、われわれの戦略的パートナーにはなり得ない」と指摘した。
トフティ氏は1月16日付のXへの投稿で、カナダ国民は中国と「新世界秩序」の下で同じ軌道に入ることはできないと主張した。さらに、1月13日の投稿では、中国訪問に当たっては、中国の長期的目標を明確に理解した上で、慎重かつ警戒的な姿勢で臨む「冷静な現実主義」が必要だと述べている。
一方、保守党の議員らは、政府が中国訪問を巡り、劇的な音楽を用いた動画を制作し、政府のソーシャルメディアに投稿している点についても批判している。盛氏は、こうした手法は「典型的なグローバリスト的テクノクラート思考」を示していると述べた。
盛氏によると、両国間では「意思疎通、現実主義、気候協力、経済の安定」といった点が強調される一方で、中国共産党による人質外交、選挙介入、国境を越えた抑圧行為、カナダに対する長期的な浸透といった問題は意図的に避けられているという。
今回の中国訪問について盛氏は、カナダにとって戦略的な確実性をもたらす実質的成果はほとんどなく、むしろ中共に対して、交渉コストを大きく上回る利益を与えたと指摘した。
カナダ政府は1月16日、中国製電気自動車(EV)に課していた100%の関税を、最大4万9千台について6.1%に引き下げると発表した。首相府によると、これに伴い、中国側はカナダ産カノーラ(植物油)への関税を、現在の85%から3月1日までに15%へ引き下げ、少なくとも年末までは維持する見通しだという。
この合意に対し、オンタリオ州のダグ・フォード州首相は、中国がカナダ市場に「足場」を得ることになるとして否定的な見方を示した。ポワリエーブル党首も、カノーラや他のカナダ製品に対する関税が恒久的、即時、全面的に撤廃される保証はないと指摘した。
自動車業界団体「グローバル・オートメーカーズ・オブ・カナダ」は1月16日の声明で、今回の発表が不確実性の高い自動車産業の環境に、さらなる不透明要因を加えるとして懸念を示した。
一方、中国によるカノーラ関税の影響を強く受けてきたサスカチュワン州のスコット・モー州首相は、この合意を歓迎し、既存の貿易量を回復し、カナダ人にとってさらなる機会を開く「非常に前向きなシグナル」だと評価した。
首相府によると、カナダ政府は中国と、エネルギー、犯罪対策、木造建築、文化、食品安全、植物・動物の衛生などの分野で、少なくとも8件の追加協定にも署名した。これらの合意は、両国間の「新たな戦略的パートナーシップ」の一環だとしている。
盛氏は、今回の訪問の「進展」は、具体的な合意や譲歩、確約に表れているのではなく「言葉遣い、姿勢、政治的な位置付け」に表れていると指摘した。その上で、中国製EVの関税引き下げや、中国へのエネルギー供給の意向は、現在の国際環境において中国共産党が最も切実に必要としている資源そのものだと述べた。
(ノエ・シャルティエ、オミド・ゴレイシ記者協力)
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