過去20年間、米国の重要国防機関で勤務経験を持つ少なくとも154人の中国系科学者が、中国の人材計画に参加し、同国の軍事技術の発展に貢献している。ビジネスインテリジェンスのマネージメントを専門とする米ストライダー・テクノロジーズ社が、このほど発表した最新の報告書で指摘した。
中国は重要な技術分野で優位に立つよう、さまざまな人材計画を立ち上げた。海外で専門知識を深めた留学生、研究者、科学者は人材計画を通じて帰国し、中国の技術を発展させている。
今までこのような取り組みが米国政府の研究所でどの程度行われていたのか不明だった。
報告書は、米ロスアラモス国立研究所の事例から、中国がどのように海外から中国系科学者を引き抜いたかなどについて明らかにした。
ロスアラモス国立研究所は米エネルギー省傘下の国立研究機関で、国家安全保障を支える科学と工学の研究を展開している。研究の多くは機密扱いではないため、多数の外国人科学者が働いている。
報告書によると、多くの中国系科学者はのちに中国側の招致に応じて帰国し、同国のために地中貫通爆弾や極超音速ミサイル、静音潜水艦、無人機など最先端技術の開発に貢献した。
報告書は、米中のウェブサイト上で公開されている情報を引用しており、一部の科学者に関する具体的な情報も含まれている。
例えば、中国の爆弾専門家である南方科技大学の趙予生副学長は、ロスアラモス国立研究所に18年間勤務した経歴をもっている。米政府から2000万ドル近い補助金を受けたこともあり、研究所の最高ランクの機密へのアクセス権を持っていたという。また、地中を貫通できる爆弾の開発プロジェクトを主導した経歴もある。
趙氏は2016年、海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクト「千人計画」に参加し、帰国後に中国の研究所で働いたと報告書は指摘した。同氏は同国立研究所に勤務していた頃、爆弾の共同研究にもう1人の中国系科学者を雇い、その科学者は07年に中国で貫通弾頭の特許を申請している。
「ロスアラモス国立研究所で長く務めた15人の元研究者が全員、今では南方科技大学で働いている」と報告書は指摘した。中国の極超音速ミサイル計画に大きく貢献した南方科技大学の学長の陳十一氏もその1人だという。
2050年までに科学技術分野で世界のリーダーを目指す中国が近年、自国の戦略目標を推進するための海外ハイレベル人材招致プロジェクトの存在は広く知られているが、「特定の科学者や取り組んでいるプロジェクトなど、我々が直面している脅威をこれほど詳細に記述した報告書はこれが初めてだ」と米当局者の1人は話した。
報告書執筆者のLevesque氏は米NBCに対し、「北京による人材招致は米国の国家安全保障に対する直接的な脅威となっている」と警鐘を鳴らした。「彼らは我々がまだ準備できていないゲームを展開している。我々は本気で行動を起こさなければならない」と訴えた。
いっぽうで、米国に移住した中国人科学者の多くは米国に留まることを選択し、その多くが米国の防衛技術に多大な貢献をしている、という声も米当局者や専門家から上がっている。しかし「こうした中国側の行動は、米中間の長い科学交流の歴史を見直すきっかけになっている」とLevesque氏は述べた。
ロスアラモス国立研究所を所管する米エネルギー省は19年に、従業員や請負業者が中国、ロシア、イラン、北朝鮮と関連する人材計画に参加することを禁止する規則を採用した。「この規則は頭脳流出の減少につながっている」と報告書でもその成果を認めた。
米司法省は18年、国家安全保障における中国の脅威に対応することを目的とした「チャイナ・イニシアチブ」を開始した。米国から最先端の研究を盗み出そうとする北京の動きを阻止しようと、多くの科学者を逮捕および起訴した。だが、一連の起訴は「人種差別」のレッテルを張られ、司法省は多くの案件の取り下げを余儀なくされた。昨年、司法省同イニシアチブの終了を発表した。
米国家防諜安全保障センター(NCSC)の元長官のウィリアム・エバニナ氏は「中国はロスアラモスに限らず、米国内の他の国立研究所や主要な研究センターでも科学者を募集している」と警鐘を鳴らしている。
米国と西側諸国は、中国によるこうした脅威にようやく気づき始めたところだ。
昨年、中国の「千人計画」に少なくとも44人の日本人研究者が関与していたことが、読売新聞の取材で判明した。
(翻訳編集・李凌)
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