伝統メディアとSNSを巧みに操り、世界を洗脳する中国共産党の宣伝術=米フーバー研究所

2020/08/01
更新: 2020/08/01

スタンフォード大学フーバー研究所は、中国共産党による国際社会への「洗脳」手法について分析する報告書を発表した。それによれば、中国共産党は、表立った活動や地下の活動を通じて、情報を操作することによって、専制体制に対する世界の認識を変えようとしている。

「中国の物語:国際世論を形作る中国共産党のキャンペーン(Telling China’s Story: The Chinese Communist Party’s Campaign to Shape the Global Narrative)」の著者は、スタンフォード大学「インターネット観測所」技術研究部長のレニー・ディレスタ氏、ワシントン・ポストの元北京支局長ジョン・ポンフレット氏など5人。

「中国共産党は、国内での権力独占と世界的影響力を拡大するために、大規模なプロパガンダに依存している。近年、中国政府が資金提供したプロパガンダや影響力のあるキャンペーンが、伝統的なメディアからソーシャルメディアにまで及ぶ」と白書は述べた。

白書は、中国共産党のプロパガンダは対内でも対外でも強力であり、中央宣伝部統一戦線部が主に担当している。

フーバー研究所の客員研究員で現代中国の歴史家であるグレン・ティファー氏によると、「中国共産党、ロシア、イランのように、メディアを通じた本格的な情報攻勢の能力を持っている国は、通常、ソーシャルメディア上での操作を伝統的なメディアと絡めている」という。

米国のシンクタンク、ハドソン研究所の元客員研究員ハン・リャンチャオ博士は、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に応じた。中国共産党が世界的に拡大を加速させながら、国内での弾圧を強め、人質外交や好戦的な外交を行ってきた近年、米国をはじめとする欧米諸国はようやく中国共産党の敵対勢力としての本性を見出すようになってきたと指摘した。

白書の調査によると、新華社通信、CCTV(中国中央テレビ)、CGTN(中国環球テレビネットワーク)、人民日報、環球時報、チャイナ・デーリー、China.comのほとんどは、ソーシャルメディアのツイッター、フェイスブック、ユーチューブ、インスタグラムにアカウントを開設した。それぞれ数万から数千万のフォロワーがついている。中国国内の人々は、これらのソーシャルサイトをネット封鎖により利用することができない。表では、中国共産党が伝統的なメディアを通じて自らの見解を繰り返し、その見解を海外の視聴者に押し付けている。裏では、ネット工作員はソーシャルメディアにコメントを書き込み、共産党の見解を擁護している。両者は連携して、自由なメディア環境の中で国際社会の世論を誘導している。

「国際的な洗脳」に成功体験、世論の転換に長けている

白書によると、中国共産党はすでにこの「表と裏」の宣伝手法を完成させており、工作員を通じて国際世論の流れを変えることができているという。

典型的な例は1952年の朝鮮戦争中の出来事だ。中国共産党は、中国と北朝鮮の一部で発生したペスト、炭疽菌、コレラ、脳炎は、米国人が仕掛けた細菌戦によるものだと主張した。 その結果、共産党と社会主義陣営は、国際社会で世論作りのキャンペーンを行った。 彼らは、戦犯の「自白」をでっちあげ、戦争犯罪疑惑の展示会を開催して、中国を訪れた外国人を呼び込んだ。チェコのプラハに活動拠点を設け、欧米左翼や反戦活動家のグループを支援した。このように、欧米で共産党の声を増幅させる役割を果たした。

アメリカは中国共産党の嘘偽りの宣伝を否定したが、それを信じる人もいた。 英国教会で「カンタベリーの赤司教」と呼ばれていたヒューレット・ジョンソン牧師は、大司教をはじめとするすべての英国人に中国共産党を信じるよう求めた。

ケンブリッジ大学の生化学者、ジョセフ・ニードルマン教授は、ほかの6人の左翼科学者とともに中国に招待された。しかし、ジョセフ氏は科学的な見地から調査を行うことはせず、最終報告書を作成した。 中国は「中国に偏見を持つ」として世界保健機関(WHO)や国際赤十字社の立ち入り調査を拒否した。

視聴覚の国内規制、海外での声の上げ方

ワシントン・ポストの元北京支局長であるジョン・ポンフレット氏は、1990年代後半を中国メディアの黄金期と述べた。例えば、エイズ問題、警察の横暴、汚職などの真実を明らかにする記事を掲載できたという。しかし、2000年代に入り、共産党はメディアに対する統制を強化し、多くの編集者やメディア幹部を交代させた。メディアは、党の利益を追求し、党のイデオロギーを反映する媒体に成り下がった。

2012年、ニューヨーク・タイムズとブルームバーグはそれぞれ、共産党指導者の海外資産を報道した。それ以来、共産党のメディア統制がさらに厳しくなり、中国共産党にとって「良い話を伝える」ことを強制した。

ジョン・ポンフレット氏は、共産党は国内でメディアをコントロールする一方で、海外では数十億ドルを費やして、対外宣伝インフラを構築しているという。新華社通信は世界最大の通信社であり、米国に7局、中国大使館や領事館のある各都市に支局がある。現地メディアへの浸透も強化し、人民日報は1回25万ドルの料金で折り込み広告としてワシントン・ポストの読者に配られている。

米国やオーストラリアなどでは、現地中国語メディアが独自の視点を持っていた。しかし今は、中国共産党による直接または間接的な投資によって、論調が「調和」され、親中の報道が目立っている。さらに、米国でメディアを作り、資金を投入し、ジャーナリストの育成を支援したり、中国官製ニュースを配信させたりしている。

同時に、中国共産党は在外中国人の自由な声も脅かしている。たとえば、米国に長年住んでいる中国専門家の中には、米メディアの取材を拒否している場合がある。

白書の著者の一人であるレニー・ディレスタ氏によると、2020年の台湾総統選挙も、紙媒体を利用したプロパガンダとインターネットを介するフェイク情報の流布を同時に行っていた。フェイク情報を調べれば、大半の場合、大陸の報道にたどり着くという。

オーストラリアに亡命した中国共産党の元スパイ・王立強氏は、2018年の台湾地方選挙を混乱させるために20万個のソーシャルメディアのアカウントを開設するよう命じられたとした。また、対抗馬であった親中・国民党の韓国瑜氏の選挙を後押しするために、香港拠点の企業を通じて、15億元を一部の台湾メディアに献金したことを暴露した。この告白ののち、台湾国民党と中国官製メディアは論調を同じくして、王立強氏の主張を一斉攻撃した。台湾の親中派メディアである中国時報は、大陸メディアのチャイナ・デーリーと類似の社説を掲載した。

ディレスタ氏によると、中国共産党から直接発信されるニュースは読者が少なく、台湾の読者に対する影響力はとても限られている。しかし、中国時報のような台湾のメディアを通じて発信されれば、その流通量は数十倍、数百倍に膨らむ可能性があるとの研究結果が出ているという。

白書によると、偽情報やディスインフォメーションを広めることによって、旧ソ連や中国共産党は何度も世論の誘導に成功した。 1980年代初頭、旧ソ連は「デンバー作戦」を開始した。米国メリーランド州フォートデトリックにある米政府参加の研究所で、HIVの起源についての誤報を広めようとする、ソ連による世界的なキャンペーンだった。 数カ月から数年かけて行われ、陰謀論は対象国全体に広がった。 

2020年3月、フォートデトリック研究所は再び標的にされ、今回は新型コロナウイルスに結び付けられることになった。米トランプ政権は、武漢発の新型コロナウイルスは、武漢のウイルス学研究施設から漏れ出した可能性があると指摘している。いっぽう、中国共産党は、フォートデトリック研究所でウイルスを作製し、武漢に持ち込んだのは米国だと言い始めた。公式メディアや動画、ツイッターアカウントを持つ著名な政治家などを通じて、こうした情報戦は加熱し、広がった。

スタンフォード大学フーバー研究所の元客員研究員・夏業良氏はVOAに対し、「中国共産党はフーバー研究所のような機関と定期的に協力している」と指摘した。中国共産党は毎年、フーバー研究所に資金を提供しており、定期的に中国外交部から2、3人、対外連絡部から少なくとも3人、商務部からも数人の役人が派遣されている」と語った。 「彼らは『研究員』として来ていたが、研究はしておらず、重要な演説や学術交流会ではほとんど見かけない。しかし、彼らは通常、ほかの学者に接触している。彼らの任務は何なのか、誰も知らない」

夏業良氏は、西側の中国アナリスト、中国の専門家、東アジア研究の多くの大学機関、東アジア研究センターに左派の学者や共産主義者が多くいるとした。

夏氏は、著名な米政治学者であるフランシス・フクヤマ氏の今までの研究資金の中で、もっとも高額な資金は中国共産党から提供され、表向きでは李世默(エリック・リー)という海外の実業家が提供者になっていると指摘した。李氏は自身が「働かなくても財産が転がり込んでくる」と豪語するほどエリート層であった。胡錦濤前国家主席の娘婿・茅道臨氏と同級生だった。 李氏は、中国で「観察者網」を含むいくつかの左寄りのウェブサイトを設立した。共産党の対外プロパガダの資金提供者でもある。さらに、ニューヨーク・タイムズ、サウスチャイナ・モーニング・ポスト、環球時報など多くの新聞・雑誌に寄稿している。

「李氏は基本的に共産主義は優れていて効果的だと考えている」と夏氏は語る。「彼一人の役割は時には中央宣伝部に匹敵するほどだった」

(翻訳編集・佐渡道世)

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